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『ジャマイカの夜』~レゲエじゃなくてレゲェな~

 

 キングストンの夜は熱く湿っていた。レゲェビートが街を揺らし、汗に濡れた人々がダンスフロアで躍動していた。私は高級クラブの片隅で、グラスに注がれた赤ワインを優雅に揺らしていた。といっても、これは見せかけだ。私の本当の渇きは、人間の生き血でしか癒されない。


 数百年の月日が経ち、単なる血を吸うだけでは退屈になっていた。そう、私は吸血鬼だ。永遠の命を持つ夜の帝王である。しかし、最近の「狩り」はあまりにもマンネリ化していた。日本での生活は静かすぎる。そこで思いついたのが、この地、ジャマイカだ。世界最速のスプリンターたちを生み出す土地。ここなら、本当の意味での「狩り」が楽しめるはずだ。


 クラブ内を見渡すと、理想的な獲物が目に入った。身長190センチはあろうかという長身の男性。引き締まった筋肉が、薄手のTシャツの下から浮かび上がっている。おそらく陸上選手だろう。


 私はゆっくりとその男性に近づき、最高の英語で話しかけた。


「素敵な夜ですね。ちょっとしたゲームをしませんか?」


 男は怪訝な顔で私を見た。


「どんなゲームだ?」


「簡単な鬼ごっこです。あなたが逃げ、私が追いかける。シンプルでしょう?」私は意図的に、僅かに牙を見せた。


 男の表情が凍りついた。次の瞬間、彼は驚くべき速さでクラブを飛び出していた。


「おや、本当に速いですね」


 私は微笑んで、ゆっくりとグラスを置いた。BGMで流れていたラガマフィンのビートが、これから始まる追跡劇の完璧なサウンドトラックになりそうだった。


 キングストンの街並みを駆け抜ける追跡が始まった。男は本当に速かった。路地を縫い、露店の間を抜け、観光客でごった返すストリートをすり抜けていく。私は適度な距離を保ちながら、彼の恐怖に満ちた表情を楽しんでいた。


 しかし、15分ほど経過したところで、予想外の展開が起きた。男は突然立ち止まり、振り返った。


「ヘイ、吸血鬼さんよ」彼は息も切らさずに言った。


「お前、本気で追いかけてないだろ?」


 私は少し困惑した。


「ええ、まあ...ゲームとして楽しもうと...」


「俺をなめるんじゃねえ!」彼は本気で怒っているようだった。


「ジャマイカのスプリンターを甘く見るんじゃねえ。本気で勝負しろよ」


 これは予想外の展開だった。私の「獲物」が、むしろ私に挑戦してきたのだ。


「では...」私は少し考えた後、提案した。


「明日の夜も、同じ場所でいかがですか?今度は本気で」


 男は満面の笑みを浮かべた。


「その言葉、忘れねえからな」


 私は思わず苦笑いを浮かべていた。永遠の命を持つ者として、久しぶりに心が躍るような興奮を覚えていた。ジャマイカに来て正解だった。この地には、恐怖だけでなく、予想外の楽しみが待っていたのだ。


 翌日の夜に向けて、私は久しぶりに本気の「狩り」の準備を始めることにした。もちろん、最後は彼の血を味わうつもりだ。でも、その前に...全力での追いかけっこを楽しもう。


 レゲェの響く暖かな夜風の中、私は明日への期待に胸を膨らませていた。


 翌日の夕暮れ時、私は予想外の光景を目にした。クラブの前の広場には、何十人もの若者たちが集まっていた。全員が完璧なアスリートの体型をしている。そして、昨夜の「獲物」が満面の笑みを浮かべて近づいてきた。


「よう、吸血鬼さんよ。約束通り来たな」


「これは...?」


「ああ、話してたら盛り上がってな。みんな参加したいって」彼は得意げに言った。


「ジャマイカ最速の座を賭けた『吸血鬼との鬼ごっこ大会』の始まりだ!」


 私は言葉を失った。群衆の中からは「Yeah!」という歓声が上がり、スマートフォンのカメラが無数に光る。どうやら、この荒唐無稽な企画はSNSで拡散されていたらしい。


「ルールは簡単!」昨夜の男が群衆に向かって叫んだ。


「吸血鬼に捕まらずに、日の出まで生き残れば勝ち!コースはダウンタウン全域!」


 私は思わず額に手を当てた。これは予想外の展開すぎる。しかし、群衆のボルテージは最高潮に達していた。


「準備はいいか!?」


「待って」私は静かに言った。


「確認させてください。あなたたち、私が本物の吸血鬼だと本当に信じているんですか?」


「当たり前だろ!」昨夜の男が答えた。


「だって、お前さんの牙、本物そのものじゃねえか」


 なんという皮肉だろう。数百年生きてきて、初めて正体を完全に認められた夜に、こんな騒ぎになるとは。


「レディー...ゴー!」


 合図と共に、数十人のアスリートたちが一斉に散っていった。キングストンの夜の街に、歓声と興奮が渦巻く。私は深いため息をつきながら、優雅に空中に浮かび上がった。


 それは、私の永遠の命における最高の「狩り」となった。ジャマイカ最速のスプリンターたちが、街中を縦横無尽に駆け抜ける。私は空から優雅に追いかけ、時には地上に降りて直接の追跡も楽しんだ。捕まえた者からは血を啜る代わりに、記念撮影を求められる始末。


「いやー、本物の吸血鬼とセルフィー撮れるなんて!」


「インスタ映えマックスじゃん!」


 私の千年の人生で、これほど理不尽な状況は初めてだった。


 そして運命の皮肉は、最高に盛り上がった瞬間に訪れた。


 東の空が白み始めた時、私はようやく昨夜の男を追い詰めていた。彼は最後まで最高の走りを見せてくれた。しかし、勝負を決めようとした瞬間...


「あ」


 私は朝日を見ていた。夢中になりすぎて、時間を忘れていたのだ。


「おい、大丈夫か?」男が心配そうに声をかける。


「ご心配なく」私は優雅に微笑んだ。


「これも運命ですから」


 そう言いながら、私の体は徐々に灰となっていく。群衆が集まってきて、スマートフォンを一斉に向けている。


「最後の最後に一つ」私は消えゆく体で告げた。


「あなたたち、本当に速かった。素晴らしい走りでした」


「待てよ!」男が叫ぶ。


「まだ勝負はついてないぞ!」


「ふふ」私は笑った。


「私の負けです。でも...」


 最後の言葉を言い終える前に、私の体は完全に灰となって、カリブの朝風に舞い上がっていった。


 翌日のジャマイカの新聞には『深夜の吸血鬼かけっこ大会で謎の失踪事件』という見出しが躍った。SNSには無数の動画と写真が投稿され、「#VampireChase」は世界的なトレンドとなった。


 もちろん、ほとんどの人は作り物だと思っている。でも、あの夜、キングストンの街で本気で走った者たちだけが知っている。あれは本物だったことを。そして、最後の最後まで「狩り」を楽しんだ一人の吸血鬼の、完璧な引き際を。


 私の灰は今も、ジャマイカの風に乗って旅を続けている。時々、陸上競技場の上を通りかかると、あの夜の興奮が蘇ってくるような気がする。永遠の命を持つ者が、最期にこれほど完璧な「最後の狩り」ができるなんて。なんて素晴らしい皮肉だろうか。

プロンプト

「場所はジャマイカ、レゲェの本場。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。しかし、騒音がある日本では勿体ない。そもそも日本人ではすぐに追いついてしまう。そうだ、最速の人間…ジャマイカだ。私はラガマフィンを聞きながら、赤ワインを飲んでクラブで獲物を見定めていた。私は長身の大男を見つけて声をかける。「ヘイ、私と鬼ごっこはどうかな?」。男は瞬く間に逃げて行った。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

「次の日、本格的な大会に発展して熱戦が繰り広げられる。そして私は日光と共に文字通り灰になる。このプロットを元にシニカルコメディに物語を締めくくってください。」

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