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『吸血鬼に襲われて迷宮に逃げ込んだが…』

 

「ねぇ、つまんないなぁ。少し遊ばない?」


 突如、背後から聞こえた甘ったるい声に、私は凍りつきそうになった。声の主は、間違いなく吸血鬼だ。新宿の雑踏を抜けて人気のない路地に入ったとたん、背後に気配を感じていた。


「遊ぶ…って?」


 震える声を必死に抑えながら、私は振り返った。


 月明かりに照らされた白い肌。真っ赤な瞳。完璧な容姿の少年は、まるでファッション誌から抜け出してきたかのようだった。だが、その妖しい魅力は明らかに人間のものではない。


「かくれんぼ…じゃなくて、鬼ごっこをしよ?僕が鬼で、きみが逃げる。シンプルでしょ?」


 吸血鬼は楽しそうに微笑んだ。その完璧な白い歯の中に、鋭い牙が見えた。


「もし朝まで捕まらなければ、きみの勝ち。自由にしてあげる」


 彼は優雅に腕時計を確認した。


「今から…6時間。たっぷり楽しめそうだね」


 私の頭の中で、都市伝説や怪談、吸血鬼映画の知識が高速で駆け巡る。日光、十字架、ニンニク…。でも、今の私に使えるものなんてない。


 そうだ。あそこなら…。


「いいわ。受けて立つ」


 私は震える足を抑えながら答えた。


「グッド!じゃあ、10秒数えるね」


 吸血鬼は目を閉じ、カウントを始めた。


「10、9、8…」


 私は全力で走り出した。目指すは、かつて人気を博した遊園地の廃墟。特に、あの迷宮アトラクション。


「7、6…」


 遊園地までの道のりを頭の中で確認する。右、左、また右…。


「5、4…」


 かつて、あの迷宮は「迷宮レジデンス」という名前で、お化け屋敷とミラーハウスを組み合わせたアトラクションだった。私は学生時代、アルバイトでそこの案内係をしていた。


「3、2…」


 迷路の構造を完璧に覚えている。出口までの最短ルートも、行き止まりも、隠れ場所も。


「1…」


 そして最も重要なのは、あの迷宮の特徴。鏡張りの壁、十字架をモチーフにした装飾、そして…ニンニクの形をした照明器具。


「0! レディーゴー!」


 吸血鬼の声が夜空に響く。私は息を切らしながら走り続けた。勝機はある。この街で最高の吸血鬼対策アトラクションで、6時間を生き延びればいい。


 古びた遊園地の入り口が見えてきた。錆びた鉄柵を潜り抜け、私は迷宮へと向かう。月明かりに照らされた迷宮の看板が、かすかに光っている。


「迷宮レジデンス」


 その下には、小さな文字で書かれていた。


「吸血鬼出没注意」


 皮肉なことに、この冗談めいた警告が、今夜は現実となるのだ。


 私は深く息を吸い、迷宮の扉を開けた。暗闇の中、無数の鏡が月明かりを反射して輝いている。十字架の装飾が影を作り、廃墟特有の腐った匂いがする。


 そして、遠くから聞こえてくる吸血鬼の声。


「かくれんぼ上手だねぇ。でも、僕も昔この遊園地で遊んだことがあるよ」


 私の背筋が凍る。だが、すぐに笑みがこぼれた。


「へぇ、それは意外。だったら知ってるでしょ?」


 私はポケットからスマホを取り出し、壁のスイッチを探る。


「このアトラクション、元々何の模擬体験だったか」


「えっ?」


 カチリ。


 突如、無数のニンニク型照明が眩い光を放ち、鏡に反射して迷宮全体を昼のように照らし出した。十字架の影が重なり、完璧な罠が完成する。


 遠くから悲鳴が聞こえた。


「ちょっと!これズルーい!」


 私は小さく微笑んだ。


「元従業員の特権です。因みにこれ、『吸血鬼の館からの脱出』って名前だったの」


「楽しくなってきた!」


 そのときだった。


「まったく、困った子だ」


 突如、落ち着いた大人の声が響き渡った。振り返ると、そこには高級スーツに身を包んだ中年の紳士が立っていた。その姿は人間そのものだったが、私の直感は彼もまた人ではないと告げていた。


「お、お父さん!?なんでここに…」


 迷宮の向こうから聞こえた幼い吸血鬼の声には、明らかな動揺が混ざっていた。


 紳士は深いため息をつき、私に向かって丁寧に一礼した。


「息子が大変ご迷惑をおかけしました。レオン、すぐにここへ来なさい」


「いやだよ!せっかく面白い人類見つけたのに…」


「レオン」


 その一言には、千年の重みを感じさせる威厳が込められていた。


 暗がりから、幼い吸血鬼―レオンが不貞腐れた顔で現れる。十字架とニンニクの光を避けながら、彼は慎重に父親の元へと歩み寄った。


「申し訳ありません」


 紳士は再び私に頭を下げた。


「息子はまだ若く、人間との付き合い方を学んでいない未熟者です。このような深夜の悪戯、決して許されることではありません」


 その態度には、古き良き時代の貴族のような品格が漂っていた。


「レオン、謝りなさい」


「…ごめんなさい」


 レオンは不満そうな表情を浮かべながらも、渋々頭を下げた。


「では、私どもはこれで。ご安全に」


 紳士はレオンの肩をつかみ、まるで霧のように消えていった。


 残された迷宮は静寂に包まれ、ニンニク型照明だけが淡々と光を放っている。私はようやく緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。


「はぁ…」


 深いため息が漏れる。スマートフォンの画面を確認すると、午前2時を回ったところだった。


「まさか吸血鬼の家庭教育現場に遭遇することになるとは…」


 思わず笑みがこぼれる。立ち上がり、迷宮の出口へと向かいながら、私は考えた。


 明日、いや、今日のバイト先で、この話を同僚に話したところで誰も信じないだろう。

 でも、それでいい。


 私は最後にもう一度、廃墟となった迷宮レジデンスを振り返った。


「また会えるかもね、レオンくん」


 月明かりに照らされた看板が、かすかに揺れている。


「吸血鬼出没注意」


 今度はその警告に、少し違った意味を感じながら、私は家路についた。

プロンプト

「『吸血鬼に襲われて迷宮に逃げ込んだが…』。場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。吸血鬼の弱点はいくつもあるが、結局あそこしかない。そう迷宮だ。あの廃墟になった遊園地の迷宮に逃げ込めば。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」

「つづき、親吸血鬼が現れてこの吸血鬼を家に連れ戻す。このプロットを元に物語を締めくくってください。」

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