『ナイトゲーム』
私は退屈していた。
永遠の命を持つ吸血鬼にとって、夜な夜な人間の血を啜る日々は、もはや単なるルーティンと化していた。新鮮な恐怖を求めて、私は鬼ごっこを思いつく。追いつめられる人間の表情を愉しもうと。
その夜、私は新宿の雑踏で獲物を物色していた。目に留まったのは、すらりとした長身の男だった。スーツ姿だが、どこか運動選手のような体つきをしている。
「お兄さん」私は声をかけた。
「私と鬼ごっこはどうかな?」
男は振り返った。その目には、予想外の輝きがあった。
「野球をするぞ」
「は?」
思わず素になってしまった。男は私の困惑した表情を見て、にやりと笑った。
「君、吸血鬼だろ?ナイターで勝負だ」
私は呆気に取られながらも、男についていった。深夜の河川敷。誰もいない野球場で、私は投手マウンドに立った。
「投げてみろよ」
男は(卑猥な意味でない本物の)バットを握った。元三冠王の技術と反射神経、読みで、どんな球でも打ち返してやろう──そう思っていた。
しかし、現実は違った。
「フ、いい球投げるぜ」
三振した男は契約書を取り出した。
「うちのチームのクローザーになれ。夜しか投げられないのは、むしろ個性的でいい」
こうして私は、プロ野球選手になった。
---
数年後。
スポーツニュース「謎の投手『ナイトゲームのクローザー』が今シーズンも快投! 夜の試合限定で登板し、防御率0.00の驚異的な成績!」
解説者「あの選手、不思議なんですよ。昼間の練習には一切出てこない。でも、ナイターになると必ず現れる。投げる球は常に170km超え。打者は『まるで球が消えるように見える』と証言しています」
私は暗い部屋でテレビを見ながら、血液パックを啜っていた。かつての獲物だった人間たちを、今は打者として追い詰めている。恐怖の表情を見たいという願望は、三振を奪うことで満たされていた。
「今夜も、獲物を仕留めに行くとするか」
私はユニフォームに袖を通した。ブルペンで投げる球には、吸血鬼の夜の力が宿っている。それは、人間には決して打ち返せない魔球なのだ。
かつて退屈だった永遠の命に、今は確かな充実感がある。人間の血を吸うことはもう必要ない。今の私には、ナイトゲームという新しい狩りの場所がある。
プロンプト
「場所は東京。私は吸血鬼。夜の帝王。今日も人間の生き血を吸う。しかし、最近マンネリ化してきた。私はふと鬼ごっこを提案することを思いつく、逃げ惑う人間を狩る。血を吸うだけではなく恐怖の顔を楽しめる。私は長身の男を見つけて声をかける。「お兄さん、私と鬼ごっこはどうかな?」。男は振り返ると私をじっと見つめて言った。「野球をするぞ」。男は唐突に野球勝負をしてきた。そして、案の定私が買った。「フ、いい球投げるぜ」。男は唐突に契約書を私に突きつけてきた。このプロットを元にシリアスシニカルコメディ短編小説を書きましょう。オチ、ある球団で「ナイトゲームのクローザー」という謎のピッチャーが活躍する。」