『マラソン選手とドラキュラ』
「マラソンをしようではないか」
その言葉を聞いた瞬間、思わず吹き出しそうになった。目の前の西洋紳士風の男—というか吸血鬼が、まるで遊園地のアトラクションスタッフのように陽気な声で言い放った。
「いいだろう」
私は即答した。だって、私はフルマラソンの世界王者だ。持久力なら誰にも負けない。夜の街を走り抜けて、朝日が昇るまで逃げ切れば勝ちだ。吸血鬼は日光に弱い。これ以上の有利な勝負はない。
「では、スタートです!」
吸血鬼は懐中時計を取り出し、チクタクと音を響かせた。私は即座に走り出した。新宿の雑踏を縫うように駆け抜ける。後ろから聞こえてくる軽やかな足音に背筋が凍る。
最初の一時間は順調だった。渋谷、原宿と走り抜けていく。しかし、表参道に差し掛かった時、異変に気付いた。
「いらっしゃいませー!深夜のスペシャルティッシュでーす!」
目の前に現れたティッシュ配りの男。見覚えのある紳士的な微笑み。まさか。私が受け取りを拒否して走り過ぎると、後ろから聞こえる声。
「お客様、お忘れ物ですよー」
六本木に入ると、今度は着ぐるみを着た吸血鬼が「記念撮影いかがですかー?」と声をかけてきた。新橋では、なぜか英国紳士風の大道芸人として現れ、手品を披露しながら私を追いかけてきた。
「おや、こんなところで会うとは。運命かもしれませんね」
疲れも出始めた頃、銀座では高級スーツを着た営業マンとして現れた。名刺を差し出しながら、にっこりと微笑む。名刺には「夜間特別営業部 血液課長」と印刷されている。
「あなたの血液型、とても興味深い香りがしますよ」
夜が深まるにつれ、吸血鬼の出現パターンはどんどん奇抜になっていく。秋葉原ではメイド喫茶の呼び込み、浅草では人力車の車夫、月島では「特製血液味もんじゃ、いかがっすか?」と声をかけてくる。
そして、東京タワーが見える場所まで来た時、空がわずかに明るくなり始めていた。
「おや、もうこんな時間ですか」
背後から聞こえた声に振り向くと、吸血鬼は高級な傘を広げていた。
「実に楽しい一夜でした。また是非、お付き合いください」
そう言って吸血鬼は優雅に去っていった。私は疲れ切った体で朝日を見つめながら考える。
結局、誰が誰を追い詰めていたんだろう?
夜明けの東京で、私は吸血鬼の洒落た遊び心に完全に翻弄されていたことを悟った。世界王者の誇りも、この夜ばかりは少し置いておくことにした。
プロンプト
「場所は東京、夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。だが、心配いらない。私はフルマラソンの世界王者持久力なら負けない。しかし、吸血鬼は余裕で追いかけてくる。行く先々で、ビラ配りやぬいぐるみなど手を変え品を変え私をおちょくってくる。このプロットを元にシニカルコメディ短編小説を書きましょう。」