『V・tuber』
夜の東京。配信を終えたVtuberの美雪は、椅子に深く腰を沈めた。画面の向こうで彼女を応援するファンたちの姿はもう見えない。
「ちょろいな、ただ駄弁るだけでこんなに稼げるなんて」
彼女は満足げに笑った。しかし、その笑みはすぐに消え、代わりに空腹感が這い寄ってきた。
「そうだ、腹が減ってきた」
美雪はスマートフォンを手に取り、ウーバーイーツのアプリを開いた。注文完了。あとは待つだけ。
ピンポーン。
「こんにちは」
「どうぞ」
ドアを開けた瞬間、美雪は息を呑んだ。目の前に立っていたのは、紛れもない吸血鬼だった。蒼白い肌、鋭い牙、そして血に飢えた赤い瞳。
「あの、ウーバーイーツじゃないんですか?」美雪は震える声で尋ねた。
吸血鬼は薄く笑みを浮かべた。
「はい、私は...あなたに恐怖を届けにやってきました」
美雪は後ずさりしながら言った。
「すみません、注文した覚えがないので...」
「ああ、でも招待されましたよ」吸血鬼は一歩前に出た。
「あなたが『どうぞ』と言ったので」
その瞬間、美雪は自分の軽率さを悟った。吸血鬼を家に招き入れてしまったのだ。逃げ場はない。
吸血鬼は優雅に部屋に入り、ドアを閉めた。
「さて、ゲームを始めましょうか」
「ゲーム?」
「ええ、鬼ごっこです」吸血鬼は微笑んだ。
「私が鬼で、あなたが逃げる。シンプルでしょう?」
美雪は冷や汗を流しながら考えた。
「吸血鬼の弱点は日光...朝まで逃げ切れば...」
「ルールは簡単」吸血鬼は続けた。
「朝日が昇るまでに私があなたを捕まえたら、私の勝ち。逃げ切ったら、あなたの勝ち。さあ、始めましょう」
美雪は咄嗟に行動した。リビングの窓から飛び出し、非常階段を駆け下りる。しかし、吸血鬼の動きは速かった。
「おや、Vtuberなのに運動神経がいいんですね」吸血鬼の声が背後から聞こえる。
美雪は息を切らしながら走り続けた。
「配信の合間にジムに通ってるんです!」
街中を逃げ回る美雪。コンビニ、公園、深夜営業の店...どこに行っても吸血鬼の気配が消えない。
「そういえば」美雪は走りながら叫んだ。
「あなた、ウーバーイーツの制服着てますよね?」
吸血鬼は軽やかに追いかけながら答えた。
「ああ、これね。バイトなんですよ。吸血鬼も生活がかかってるんです」
「じゃあなぜ私を追いかける!?」
「仕事と趣味は別ですから」
夜が明けようとしている。美雪の体力は限界だ。
「ねえ」彼女は最後の賭けに出た。
「私、Vtuberなんです。フォロワー100万人いるんですよ」
吸血鬼は立ち止まった。
「へえ、すごいじゃないですか」
「そうでしょ?」美雪は息を整えながら言った。
「私が消えたら、きっと大騒ぎになりますよ」
吸血鬼は考え込んだ様子で言った。
「確かに、それは面倒かもしれない...」
その時、朝日が地平線から顔を出した。
吸血鬼は苦々しい顔で言った。
「あー、負けちゃった」
美雪はほっとため息をついた。
「よかった...」
「でも」吸血鬼は急に明るい表情になった。
「いいアイデアを思いつきました」
「え?」
「私も...Vtuberになります」
翌日、新たなVtuberがデビューした。その名も「ヴァンパイア子爵」。初回配信では、なぜかコンビを組んだ美雪と一緒に、深夜の東京を舞台にした鬼ごっこゲームをプレイしていた。
視聴者数は瞬く間に100万を超え、スパチャが飛び交う。
画面の向こうで、美雪と吸血鬼は顔を見合わせてつぶやいた。
「ちょろいな、ただ逃げ回るだけでこんなに稼げるなんて」
プロンプト
「場所は東京。私はVtuver。今日も配信を終えてゆっくり休んでいた。「ちょろいな、ただ駄弁るだけでこんなに稼げるなんて。そうだ、腹が減ってきた」。私はウーバーイーツで出前を頼む。ピンポン。呼び鈴がなる。「こんにちは」。「どうぞ」。ドアを開けると目の前には吸血鬼がいた。夜中に吸血鬼と遭遇した私。吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。吸血鬼を家に入れてしまった私。吸血鬼を家に招待してしまったら、家に逃げれない。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。次の日、新たなるVtuberが誕生した。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」