『上位互換現る』
ユーリは夜の街を歩いていた。街灯の光が彼女の影を長く伸ばし、その姿はまるで孤独そのものだった。
「また握手会のチケットが売れ残った…」
彼女の心の中で、その言葉が繰り返し響く。アイドルグループの中でも、ユーリの人気は下位に甘んじていた。ダンスも歌も、そして容姿さえも「並み」という評価。しかし、彼女には誇れるものがあった。それは高い学歴だ。
しかし今日、その誇りさえも揺らいでいた。
「新メンバーのなかに可愛くてダンスの上手い東大生がいるらしい」
マネージャーから聞いた言葉が、ユーリの胸に刺さる。上位互換の登場。自分の居場所が、さらに狭まる予感。
ため息をつきながら歩を進めると、突然背後から声がした。
「私と鬼ごっこはどうかな?」
振り向くと、そこには月明かりに照らされた美しい男性の姿があった。しかし、その目は異様な赤さで光っていた。
「なに、アンタ。かまってちゃん?承認欲求の集合体?」
捕まりそうなヤツだと気づいたユーリは、思わず毒舌を吐いた。
「なんだ、人間。おまえらこそ承認欲求の塊ではないか」
「…たしかにね」
その瞬間、抑えていた感情が堰を切ったように溢れ出し、ユーリは声を上げて泣き始めた。
吸血鬼は困惑した表情を浮かべながら、ゆっくりとユーリに近づいた。
「…大丈夫…ですか?」
ユーリは泣きじゃくりながら、自分の状況を説明し始めた。アイドルとしての悩み、新しいメンバーへの不安、自分の存在価値への疑問。
吸血鬼は黙って聞いていたが、やがて口を開いた。
「なるほど、こんなのはどうだ?」
ユーリは涙目で吸血鬼を見上げた。
「俺がお前を吸血鬼に変えてやる。そうすれば、お前は永遠の美しさと力を手に入れられる。アイドル界を支配することだってできる。あの眼鏡のぽっちゃり大物プロデューサーだって裏から操れるぞ」
ユーリは一瞬、その提案に心が揺らいだ。しかし、すぐに首を横に振った。
「ばかじゃないの? そんなの反則でしょ。それに、私はアイドルになりたくて、ここまで頑張ってきたのよ。チートなんてできない」
吸血鬼は驚いた表情を浮かべた後、くすくすと笑い始めた。
「合格だよ」
「え?」
「実は俺は、吸血鬼のふりをしたタレントスカウトだ。今夜、本当の輝きを持つ人材を探していたのだ」
ユーリは呆然とした。
「でも、あなたの目…」
「カラーコンタクトだ。ちょっと派手すぎたか?」
二人は顔を見合わせ、突然笑い出した。
その日から、ユーリの人生は大きく変わった。彼女は新しい事務所でソロデビューを果たし、「毒舌系インテリアイドル」として人気を博すことになる。
そして時々、夜の街を歩きながら、あの夜のことを思い出すのだった。本当の吸血鬼だったらどうなっていただろう、と想像して少し笑みを浮かべながら。
プロンプト
「アイドルグループの高学歴なインテリのユーリ。 グループでの人気は下位だが、外番組(クイズ番組)にアイドル枠で呼ばれていた。 ダンスも並み、歌も並み、容姿も容姿端麗な集団にいれば並みになる。 「また握手会のチケットが売れ残った」。 少し焦りを感じていたユーリ。 そして、ある日「オーディションの合格者が加入します」。 運営から言われた。 マネージャーから聞いた情報。 「新メンバーのなかに可愛くてダンスの上手い東大生がいるらしい」。 学歴が上、つまり、上位互換があらわれるということだった。 団体アイドルでただ埋もれるだけ。 ユーリは途方に暮れていた。 夜の道を歩くユーリ。 そのときだった。 「私と鬼ごっこはどうかな?」。 振り向くと、そこには吸血鬼がいた。 「なに、アンタ。かまってちゃん?承認欲求の集合体?」。 「なんだ、人間。おまえらこそ承認欲求の塊ではないか」。
「…たしかにね」ユーリはこの毒舌に抑え込んでいた感情がわき出して泣いてしまった。 吸血鬼は仕方がなく、ユーリの愚痴を聞きある提案をする。 このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」