『吸血鬼の子育て』4
時が流れ、朱音は立派な社会人となった。そして、ある日彼女が彼氏を家に連れてくると言い出した時、私の心臓が止まりそうになった。もし、まだ動いていたらの話だが。
玄関のドアが開く音がした。
「お父さん、紹介するわ。こちら、弘くん」
朱音の隣に立つ青年を見て、私はある匂いに気づいた。
「きみ、もしかして焼き肉屋で働いているのか」
弘くんは驚いた表情を浮かべた。
「はい、そうなんです。どうしてわかったんですか?」
「お父さん、鼻が利くのよ」朱音が誇らしげに説明した。
「弘くん、焼き肉屋の店長なんだよ」
彼女の目が輝いているのを見て、私は安堵した。弘くんは誠実な青年だった。礼儀正しく、朱音を大切にしている様子が伝わってきた。
それから数年が過ぎ、朱音と弘くんは結婚した。そして、ある日朱音から嬉しい知らせが届いた。
「お父さん、私ね、赤ちゃんができたの」
その瞬間、私の中で様々な感情が渦巻いた。喜び、驚き、そして少しばかりの寂しさ。
朱音の出産の日、病院の廊下で私は弘くんと並んで座っていた。
「ブラドさん」弘くんが静かに話しかけてきた。
「朱音さんのこと、ずっと大切にします」
私は黙ってうなずいた。
赤ちゃんが生まれ、朱音が幸せそうに赤ん坊を抱く姿を見た時、私は決心した。
その夜、私は一通の手紙を残して姿を消した。
『朱音へ
お前が幸せそうな顔をしているのを見て、私の役目は終わったと感じた。
お前は立派な大人になった。そして、今は新しい家族もできた。
私がいつまでもそばにいては、お前の新しい人生の邪魔になるだろう。
だが、覚えておいてほしい。
私はいつでもお前を見守っている。
困ったことがあれば、月に向かって呼びかけてくれ。必ず駆けつける。
お前は永遠に私の愛する娘だ。
父より』
私は東京の夜景を見下ろす高層ビルの屋上に立っていた。
風が頬を撫でる。
遠くに見える病院の窓から、かすかに赤ん坊の泣き声が聞こえる気がした。
私は微笑んだ。
吸血鬼である私には、永遠の時間がある。
だが、朱音と過ごした時間は、その永遠よりも尊いものだった。
月が雲間から顔を出す。
私は静かに目を閉じ、新たな旅立ちの時を迎えた。
人生は、別れの連続かもしれない。
しかし、本当に大切なものは、永遠に心の中に生き続ける。
私は朱音から教わったのだ。
血の繋がりなど関係ない。
愛こそが、本当の家族を作るのだと。
月明かりの中、一羽のコウモリが夜空へと飛び立っていった。
プロンプト
「数年後、社会人になった朱音が彼氏を家に連れてくる。しかし、私はその匂いでわかった。「きみ、もしかして焼き肉屋で働いているのか」。彼氏である弘くんは焼き肉屋だった。弘くんは誠実な漢だった。「弘くん、焼き肉屋の店長なんだよ」。朱音は自慢げに言う。さらに数年後、朱音に子供が出来た。私は幸せになった朱音夫婦を見てそっといなくなる。」