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『吸血鬼の子育て』3

 

 東京の街に、また一つ朝が訪れた。私、吸血鬼のブラドにとっては、一日の終わりを告げる時間だ。しかし、今日は特別な日。我が娘、朱音の高校入学式だった。


「おい、朱音。朝ご飯作ったからな」


 カーテンの隙間から差し込む光を避けながら、私は朱音に声をかける。


「ありがとう、お父さん」


 朱音は笑顔で応えた。彼女の笑顔は、いつも私の心を温かくする。


 容姿は並だが、愛嬌のある娘に育った。どこかの変な男と付き合ってしまったらと思うと、過保護になってしまう自分がいる。永遠の命を持つ吸血鬼の私が、こんなにも人間くさい心配をするようになるとは。


 その日の夜、いつもより遅く帰ってきた朱音の様子が違った。


「どうした?」


 心配になって声をかける。


 朱音は躊躇いがちに口を開いた。


「実は、お父さん。昼間ね。お母さんだっていう人と会ったの」


 その言葉に、私の中で何かが凍りついた。ついにこの日が来たのか。


「そうか...」


 深呼吸をして、私は朱音の目をまっすぐ見つめた。


「朱音、お前に話さなければならないことがある。お前が赤ん坊だった頃のことだ」


 そして私は、あの夜の出来事を朱音に語り始めた。吸血鬼である自分のこと、鬼ごっこを提案したこと、そして彼女の母親が朱音を私に預けて去っていったこと。全てを包み隠さず話した。


 話し終えると、部屋は静寂に包まれた。朱音の表情は、驚きと混乱、そして少しばかりの悲しみが入り混じっていた。


「お父さんは...吸血鬼なの?」


「ああ」


「でも、私を育ててくれた」


「そうだ」


 再び沈黙が訪れた。そして、朱音が小さな声で言った。


「お父さん、ありがとう」


 その言葉に、私の胸に温かいものが広がった。


「朱音、お前は私の娘だ。血がつながっていなくてもな」


 朱音は涙ぐみながら頷いた。


「お母さんのこと...知りたい?」と私は恐る恐る尋ねた。


 朱音は少し考えてから答えた。


「今はまだ...でも、いつかは会ってみたいかも」


「分かった。その時が来たら、一緒に会おう」


 窓の外では、満月が輝いていた。吸血鬼の父と人間の娘。血の繋がりはなくとも、確かな絆で結ばれた二人の姿を、月が優しく照らしていた。


 これからも困難はあるだろう。しかし、私たちはきっと乗り越えていける。なぜなら、私たちは家族だから。


 月の光の中で、私は朱音をそっと抱きしめた。永遠の命を持つ私にとって、この瞬間こそが最も尊いものだと感じていた。


 ◇


 夜の帳が降りた頃、私は朱音の母親と対面していた。十数年ぶりの再会だが、喜びはない。


「あなた、朱音を育ててくれたけどね。そろそろ返して」


 彼女の言葉に、私の中で何かが凍りついた。


「何を言っている」


「新しい恋人が出来たの。朱音と一緒に暮らしたいの」


 私は怒りを抑えながら冷静に答えた。


「朱音はもう子供じゃない。自分で決められる年齢だ」


 しかし、彼女は聞く耳を持たなかった。


「おいおい、色白兄ちゃん。さっさとしなよ」


 突然、後ろから声がした。振り返ると、ガラの悪い男とその子分たちがいた。


「お前が朱音の父親になるのか」


 私は男を睨みつけた。こいつらの元で朱音が暮らすなんて、想像するだけで胸が痛む。


「早く分かったって言えよ」


 男が私に詰め寄ってきた。その瞬間、私の中で何かが切れた。


「お前らにはわからないだろうな」


 私は静かに言った。


「父親というものが」


 次の瞬間、私は動いていた。人間の目では捉えられないスピードで、男たちの間を縫うように動く。彼らの悲鳴が夜空に響く。


 血の匂いが漂い始めた。かつての私なら、この香りに酔いしれただろう。しかし今の私には、ただ吐き気を催すだけだった。


「も、もう好きにしてください」


 朱音の母親が震える声で叫んだ。私の本来の姿、獰猛な吸血鬼の姿を目の当たりにして、彼女たちは逃げ出した。


 静寂が戻った夜の中、私はゆっくりと我に返った。手には返り血が付いている。久しぶりの暴力だった。


 しかし、後悔はなかった。朱音を守るためなら、私は何度でも吸血鬼に戻る。それが父親というものだ。


 家に戻ると、朱音が心配そうな顔で待っていた。


「お父さん、どうしたの? その血は...」


 私は深呼吸をして、朱音に向き合った。


「朱音、聞いてくれ。お前の母親と会ってきた。そして...」


 私は全てを話した。朱音の母親の要求、男たちの脅迫、そして私がとった行動まで。


 話し終えると、朱音は黙ったまま私を見つめていた。そして、ゆっくりと私に近づき、抱きしめてくれた。


「お父さん、ありがとう。私、お父さんと一緒にいる」


 その言葉に、私の心は安らいだ。血の繋がりはなくとも、確かな絆で結ばれた私たち。それは誰にも壊せない。


 夜明けが近づいていた。新たな一日の始まりだ。吸血鬼の私と人間の娘。異質な組み合わせかもしれない。しかし、これが私たちの家族なのだ。


 カーテンを閉め、朝日を遮りながら、私は朱音に優しく微笑みかけた。


「さあ、朝ごはんの準備をしよう」

プロンプト

「さらに十数年後、高校生になった朱音。「おい、朱音。お弁当作ったからな」。「ありがとう、お父さん」。容姿は普通だが愛嬌よい娘になったものだ。どこかの変な男と付き合ってしまったら大変だ。過保護になってしまう。その日の夜だった。朱音は落ち込んで帰ってきた。「どうした?」。私は心配になって声をかける。「実は、お父さん。昼間ね。お母さんだっていう人とあったの」。ついにこの日がきたか。私はあの日の真実を話す。」

「私はその日、朱音の母親と会った。「あなた、朱音を育ててくれたけどね。そろそろ返して」。どうやら、この女は新しい男が出来て、朱音と暮らしたいらしい。だが、どこの馬の骨とも知らない女に朱音を渡すわけにはいかない。「おいおい、色白兄ちゃん。さっさとしなよ」。後ろからガラの悪い男と子分が現れた。「お前が朱音の父親になるのか」。こいつらの元で暮らす朱音を思うと。「早く分かったって言えよ」。私は彼らを血祭りにあげる。「も、もう好きにしてください」。私の本来の姿を見て彼らは逃げていった。」

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