『バキバキヴァンパイア』
渋谷の街が眠りに落ちる頃、私は仕事帰りの足を急いでいた。センター街の雑踏も嘘のように静まり返り、ネオンの明かりだけが妙に鮮やかだ。
そんな時、背後から聞こえてきた重い足音。振り返ると、月明かりに照らされた丸々とした顔が目に入った。
「え、あなたもしかして...ヴァンパイアですか?」
思わず口走った私の言葉に、男は満面の笑みを浮かべた。
「ええ、バキバキのヴァンパイアです」
その言葉と共に、男は牙をむき出しにした。しかし、その姿は恐怖というより滑稽だった。丸顔に二重あご、そして体型はまるでお相撲さん。これが吸血鬼?
「あの...ちょっと聞きたいんですけど」私は恐る恐る尋ねた。
「そんなにぽっちゃりで追いかけれますか?」
ヴァンパイアは一瞬言葉に詰まり、そして深くため息をついた。
「誠に遺憾です」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼は驚くべき速さで私に向かって走り出した。
「おや、まずいですね。ちょっとスピードを落としましょう」
(やばい!捕まる)
私は夢中で走り出した。頭の中では様々な思考が駆け巡る。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げ切れば勝てる。だが、そこまで体力が持つだろうか。
渋谷の街を全力で駆け抜ける私と、息を切らせながらも諦めない吸血鬼。まるで深夜のマラソン大会だ。
(え、もしかしてコイツ長距離苦手?)
「ちょっと待ってください!」吸血鬼が叫ぶ。
「ひと休みしませんか?」
「だめ!」私は振り返りもせずに返答する。
「命がかかってるから!」
「いや、そうじゃなくて...」彼の声が弱々しくなる。
「本当は...ダイエットしたくて...」
私は思わず立ち止まった。振り返ると、吸血鬼は地面に座り込み、大きな体を揺すりながら泣いていた。
「実は僕、太り過ぎて仲間から笑われてて...だから人間を追いかけてダイエットしようと...」
私は呆れながらも、少し同情してしまった。
「じゃあ、血は吸わないんですか?」
「いいえ、吸います」彼は真顔で答えた。
「でも低脂肪の血だけです」
そう言って彼はゆっくりと立ち上がった。
「さあ、続きましょう。朝日が昇るまであと4時間です」
私は思わず笑ってしまった。こんな状況でも、彼の真面目さが可笑しかった。
「わかりました。でも、ルールを決めましょう」
こうして、深夜の渋谷で、人間と吸血鬼のダイエット鬼ごっこが始まった。彼が私を捕まえられれば血を吸う権利を得る。私が朝まで逃げ切れば、彼のダイエット計画を手伝う。
街灯の下を駆け抜けながら、私は考えた。
人生って、本当に予想外なものだ。
プロンプト
「場所は東京の渋谷区。「え、あなたもしかしてヴァンパイアですか?」。夜中に吸血鬼?と遭遇した私。「ええ、バキバキヴァンパイアです」。ぽっちゃり吸血鬼は私に対して鬼ごっこを提案する。私は夜に吸血鬼から逃れるために、思考を巡らせる。吸血鬼の弱点は日光。朝まで逃げれば勝てる。しかし、逃げきれる保証はない。「そんなにぽっちゃりで追いかけれますか?」。「誠に遺憾です」。このプロットを元にシリアスコメディ短編小説を書きましょう。」