第12話 忘れられない味
目が覚めると、右目だけ知らない天井が見えた。すると、視界にウィクトルのみんなの顔が入ってきた。が、カミエル様の顔はなかった。怪我をしているものの、元気そうだった。
俺を心配する声が聞こえたので返事をしようとした。が、上手く喋れない。俺は人工呼吸器がしてある事に気がついた。
少し時間が立ちしっかり目が覚めた。マークに手伝ってもらいながら、体を起こすことができた。話によると俺は2週間も寝ていたそうだ。途中、心肺停止したこともあったほどの重症だったらしい。
すぐに医者が駆けつけてきて、異常がないか検査が行われた。異常はなかったが、左目が失明していると知らされた。クリスタルの力を限界を超えても使い続けたためクリスタルが破裂、その衝撃で左目は失明したようだ。検査が終わった頃には夕方であった。面会時間も終っており、みんなはもう帰ってしまった。
夕食の時間になり、食事が運ばれてきた。久しぶりの食事だなと思いつつ、食べ始めた。
病院食を始めて食べたが、絶望した。味がない。噂には聞いたことはあったが、こんなにも味がないなんて…。塩をかけたい…。なんとか食べ終わり、消灯の時間となった。2週間も眠っていたからだろうか?全く眠くない。スマホで暇を潰していると、電話がかかってきた。カミエル様からだ!
「もしもし、ルシファー君、体の具合は大丈夫?」
「はい!検査で異常は無く、ご飯もしっかり食べられました。病院食って本当に味がなくてびっくりしました」
「元気そうで良かった!明日面会に行こうと思ってるんだけど、何か持ってきてほしいものとかある?」
「しょっぱいものがほしいです!」
「じゃあ、明日何かしょっぱいもの持っていくね!」
「ありがとうございます」
「ゆっくり休むんでね。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
夢のような通話が終わった。カミエル様と通話できただけでも嬉しいのに、面会にも来てくれるだなんて。遠足に行く前日の夜みたいな気分に鳴ってしまい、結局一睡もできなかった。
朝食も味がなかったが、食パンだけは美味しかった。スーパーで売ってるのよりも美味しかった。
面会時間が始まり、しばらくしてカミエル様がやってきた。
「カミエル様、わざわざ来てくれてありがとうございます」
「持ってきたよ、例のもの」
そう言ってカミエル様が袋から取り出したのは大量のカップ麺だった。
「さすがに多すぎないですか?」
「ルシファー君の好みのラーメンが分からなかったからいろいろ買ってきたらこうなっちゃった」
よく見ると味が違っていた。さすがに全部は無理なので、いくつか持って帰ってもらうことにした。
「ねぇ…、約束覚えてる?」
約束。こっちから誘っといて忘れるはずがない。俺が覚えていると答えるとカミエル様は嬉しそうな表情をしているように見えた。
「ルシファー君は何か食べたいものはある?」
まずい…先手を取られた。俺から誘ったからには俺が計画を立てたいのに。
「俺から誘ったんですから、俺が計画を立てたいです。楽しみにしててください!」
「わかった、期待して待ってるね」
この前、ナタがカミエル様は今流行りのカレー屋に興味持ってると教えてくれた。平日でも行列ができ、休日だとテーマパーク並の時間に並ぶことになるらしい。
「ちゃっちゃっと退院するので、行きましょう!」
その後も話が盛り上がった。トマスがどうなったかについても話が聞けた。
俺が気を失った直後にジェノサイドから援軍が来て、トマスは捕虜となりINDEPENDENTの本部の地下牢に閉じ込められているらしい。
カミエル様は面会終了時間までいてくれた。
その後数日間、リハビリをがんばり、退院することができた。久しぶりに家に帰ると、マンションの入口の前にウィクトルのみんながいた。
「ルシファー おかえり!」
みんな、俺の退院をお祝いしようと集まってくれたのだ。「退院祝いパーティーするぞ」マークがそう言うと、みんなうきうきでマンションの中に入ってった。
「なんで…俺の部屋なんですか?」俺の部屋はパーティー会場にされてしまった。
「ルシファーの退院祝いなんだから、あまり遠くに行くとルシファーには悪いかなって」
部屋のことなんかどうでもいい。みんなが笑顔でここにいることが、何よりも嬉しかった。
「ルシファーの退院を祝して…」
「カンパ~イ!!」
俺の部屋でたこ焼きパーティー「たこパ」が始まった。「ここは俺の腕の見せ場だな」とマークがたこ焼きを作り出した。家でもやるらしく、いつの間にか上達していたらしい。
第1弾が出来上がった。「いただきまーす」熱々のたこ焼きを食べた。中のとろっとした食感と天然タコのぷりっとした食感にソースとマヨネーズが合わさって、最高に美味しかった。
第2世界には海がなく、魚は全部養殖である。たまに、天然物が市場に出回るがあまりにも高価すぎて手が出せない。今日は退院祝いということで、みんなでお金を出し合って買ってきたというのだ。
最初の方は、みんな酒が入ってないため美味しいたこ焼きが出来ていたが、みんなが酔ってくると闇鍋ならぬ闇たこ焼きになっていった。ひどいものでガムやキャロライナ・リーパーが入っていた。そんなこんなで楽しい時間があっという間に過ぎていった。
「ルシファー、泊まっていくね!」
「ナタの家は俺の隣なんだから、帰れ!」
「じゃあ、俺も泊まっていくわ」ラムダも言い出してきた。
結局、ナタとラムダは俺の家で泊まることとなった。明日から復帰することになる。もっと強くなって、大事な人たちを守れるようになろう!そう思いながら、ベットで寝た。
「寝させねぇーぞ、ルシファー!今日はオールだ!」
「そうだそうだ!」
『頼むから、寝させてくれ〜〜〜〜』