第10話 戦場の恐ろしさは知っていたつもりだった…
ウィクトルは、最前線で戦い他の部隊を引っ張った。が、上位個体を倒しても倒してもきりがない。
ウィクトルは想像以上に強かった。他の部隊より連携が取れていただけでなく、個々の実力も優れていた。
俺もみんなに負けないよう、できたての神器【コラプサー】で戦った。
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「ルシファー君も自分専用の武器作らない?みんなは持ってるけど、ルシファー君はまだないから」
偵察部隊救出作戦の後、カミエル様に尋ねられた。
「えっ、自分専用なら剣がありますけど?」
「でもそれ、量産品だよ」
「みんな量産品じゃないんですか?」
「ちがうよ。あと、自分専用じゃなくて神器だよ」
どうやら、俺は自分専用の武器はみんな量産品で使いやすい武器を選んでいると思っていた。そして神器と言うらしい。
「一般兵はみんな量産品だけど、各部隊長やそれ以上の階級の人は、みんなオーダーメイドだよ。実感わかないと思うけど、ルシファー君は各部隊長よりも階級は上だよ」
各部隊長より階級が上だったのか。カミエル様直属の部隊がすごいことを改めて実感した。
そして襲撃の前日。
「ルシファー君、神器が届いたよ」
カミエル様から剣を渡された。量産品より手に馴染み、いい感じの重さになっていた。
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量産品よりも早く動け、前は手も足もでなかった上位個体にも相手できていた。上位個体の攻撃を避け腹の部分に剣を振りかざした。が、腹が硬く弾き返された。すると突然腹に激痛が走った。俺は弾き返された隙を狙われ、反撃されていた。俺は動けず死を覚悟した。
「ドス…。」変な音がした方を見ると、上位個体の首が転がっていた。
「大丈夫?」
ナタとヴェスタルが向かってきた。俺は、ヴェスタルのクリスタル「蜜」で応急措置を受けた。傷口はすぐに消えてしまった。
そういえばナタはどこいったと思い辺りを見渡すと、変なやつがいた。見た目は狼だが、重装備をしている。あれは何だと不思議に思っていると後から声がした。
「あれは私の神器【ウルフ】だよ」
ナタだ。やっぱり狼だった。するとウルフが俺の前まで来た。俺は驚いた。3体いたのだ。
「私のクリスタルは呪術。私と同じクリスタルを埋め込んだものは、自由自在に動かすことができる。まぁ、簡単に言えば操り人形と一緒。右からラケシス、クロト、アトロポスだよ」
名前まで付いてるのか。だが神器が自由に動くのはすごいな。
すると急にウルフたちが動き出した。俺はウルフたちの方を向くと上位個体が倒れてきた。どうやら俺は攻撃に気づかず、それを助けてくれたようだ。
「油断禁物!」ヴェスタルに注意されてしまった。俺は戦いに復帰した。
俺は戦場の恐ろしさを知っていたつもりだった。だが今までの戦場の恐ろしさはただの夢だったのだろうか?俺は今本当の恐ろしさを突きつけられている。
仲間の助けてという叫び…。
人が焼けた匂い…。
飛び交う銃弾や斬撃…。
飛び散る血や身体の一部…。
どんなに恐ろしくても逃げ場はない。辺りを見渡すと明らかに仲間の数が減っていた。突然、背中にボールが当たったような感覚がした。振り向くと人の頭が落ちていた。攻撃を受けて吹き飛ばされたのだろう。ちらっと顔が見えた。俺は吐いてしまった。訓練兵時代同じ教官のもとで学んだやつだった。
俺は悲しみとともに、今まで感じたことのないようなものがふつふつと混み上げてきた。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。少し時間がかかったが、再び戦いに復帰した。
他の部隊が次々と崩壊していく中、ウィクトルはまだ連携が取れていた。俺たちは着実に本陣に近づいていた。だが近づくにつれて、疲労が溜まっていくばかりであった。クリスタルの力も残りわずかになりつつあった。
「全員、本陣は目の前だ。私についてこい!」
カミエル様の一言で、みんなの勢いが再び戻った。
本陣がはっきり見えた時、爆風で吹き飛ばされた。
煙の中から誰かが現れた。
「INDEPENDENTの皆様、お初にお目にかかります。まずは、ここまでたどり着いたことに敬意を表します」
みんなあいつは誰だとなっていた。だが、みんなわかっていた。上位個体よりも圧倒的な強さを持っていることを。
「カミエル様あいつは誰ですか?」俺は今にも逃げ出したい気持ちを抑え込んで、聞いてみた。
「わからない。あんなやつ、似たようなやつも見たことがない。私でも勝てるかどうか…」
その一言でみんなが凍りついた。カミエル様も見たことのない敵、さらに勝てるかどうかだなんて…。
「おやおや、皆様どうか致しましたか?そうでした。自己紹介が遅くなってしまいました。私、アポステル第8席トマスと申します」
アポステル?第8席?一体誰なんだ?
「カミエル様、どうしましょう」という声があちこちからあがった。
「私が行く。ミールちゃん、一緒に来て」
カミエル様とミールはトマスに向かって行った。
「これはこれは、カミエル様ではないですか。私としては、ここで皆さんに帰っていただきたいのですが…」
「無理な話だ。目の前に敵がいるのに、帰ることはできない。お前はクローン人間と仲間なのか?」
「はい。ですが、奴らは我々の道具でしかありません」
強者にしかできない発言が続いている。
「どうしても帰っていただけないようですね。では、力ずくで返します」
トマスは2本の槍を取り出しかまえた。
「全員かまえろ!」とカミエル様が言うと、みんな武器をかまえた。