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9モラえどん

見てくださってありとうございます。

「何なのあの子!?」


「……申し訳ございません。私の妹ニアです。どうやらニアはビル様のことがとても気に入らないようです」


「でしょうね。唾吐いたもん。あの子」


「ニアだけではありません。他の魔族もビル様に対する印象は最悪と言っていいでしょう」


「感じてはいたけど……そんなに?」


「……さすがに殺すような真似はしないと思いますが……」


「それって言葉とは裏腹に頭によぎるだけの可能性があるってことじゃん」


リアの逸らした瞳がその可能性の高さを物語る。


「現状、ビル様を受け入れている者は私、ナル様、カムロ様の三人だけでしょうね……」


「カムロさんって……あの黒ずくめの恐そうな人?」


「はい」


ナルとリアが好意的なのはなんとなく分かる。しかし、カムロは予想外だった。

お世辞にも、カムロのビルへの視線は好意的とは言えない。むしろあの鋭い目つきは好意と対極に位置する印象なのだが、


「……信じられませんか?」


「当たり前だよ。あの人超恐そうじゃん。俺、一番苦手かも」


「……そうですか」


リアはクスリと意味ありげに笑う。


「……?」


その意味をビルが分かるはずもなく、 リアは構わず話を進めてくる。


「とにかく、ビル様には一刻も早く力をつけていただかなくては。魔法も使えない、身体能力も低いでは話になりませんから」


「そうは言っても……」


リアは「いいですか?」と出来の悪い生徒に噛み砕いて説明をしてくれる。


「魔法とは魔力エネルギーを元に引き起こされる物理法則を超越した現象のことです」


リアは人差し指を立て、指先に小さな炎を灯してみせる。


「おぉ


パチパチと拍手をして感心するビル。


「魔法を引き起こすのに一番必要なことは、物理法則……つまりは世界の理をねじ伏せるだけの強い意志の力です」


「意志の力……」


「はい。ですから、ビル様の弱気をどうにかしないといけないのです。ビル様の弱気はビル様の強大な潜在能力を殺してしまっているのです」


「……もしも俺にそんな潜在能力が無かったらリアさんはどうする?」


「その時は皆一緒に人間に滅ぼされるまでです」


「………………」


何てことないように口にしたリアだが、ビルは考えてしまう。 リアと道を共にしたい気持ちは変わらない。だが、果たして自分はこのままここにいて良いのかと。 果たして自分如きにリアを、魔族を守ることができるのかと。

魔族達が本当に必要としているのは自分ではなく……


「お話はこれくらいにして、そろそろお昼にしましょうか。行きましょう、ビル様」


「う、うん……」


リアと共に再び魔族の集う場所へと向かった。

皆、これから食事を始めるところだったようで、配給班の前に列ができていた。

配給班のリーダーである狸型の魔族、モラえどん。ビルのお腹ほどしかない小さな体躯に、三頭身のずんぐりむっくりのフォルムが特徴的な可愛らしい魔族だ。

彼は短い手をせっせと動かし、ポーチから取り出した食糧を大きな葉に包んでは並んでいる魔族に渡していく。


「「「「……ちっ」」」」


食事を受け取った魔族達はビルの存在に気づくと無言でそそくさとこの場を去っていく。


(めちゃくちゃ嫌われてる……)


先が思いやられるビルだった。

やがて、ビルとリアの順番がやってくる。提供された物は、


「乾パン……」


「嫌なら食べなくてもいいんだよ〜?」


乾パン。昨日の夜から今日の朝、そして昼も連続となるとさすがに飽きる。母親の作ってくれるおいしい料理が恋しくなるビルだった。


「……仕方ないのです。四次元ポシェットに収まる食糧として、乾パンは最適なのです」


「?四次元ポシェット?」


四次元ポシェット。見た目はただの小さなポシェットなのだが、違う。このポシェットには無限に物を収容することが可能で、収容した時の状態を保ったまま保存することができる。

もちろん、便利なだけでなく欠点もある。 ポシェットの出し入れ口に収まらないものは収容できないという欠点と、収容した物を取り出すことが不可能というどうしようもない欠点がある。

しかしながら、このモラえどん。なぜだか四次元ポシェットにしまった物を自在に取り出すことができる。

この魔族の集まりで、モラえどんが唯一四次元ポシェットを自在に扱うことができるのだ。

モラえどんと四次元ポシェットについてリアから説明を受けたビルは、


「もしかして、この旅の生命線ってモラえどんなんじゃない?」


「?まぁ……助かっているのは事実ですが……」


「……?違うの?」


「いえ……そのような考えを初めて聞いたものですから……」


「え……?」


魔族の価値観に驚くビル。リアの反応からすると、モラえどんはちょっと便利な存在くらいの認識みたいだ。


「魔族はね〜強い者が偉いんだ〜。ぼくは戦いはからっきしだから、そんな風に言われたのは初めてだよ〜」


「……変なの。誰よりも役に立ってるのに」


正直、強いからと偉そうにしているリザドンのような魔族より、モラえどんの方が貴重な存在だとビルは思う。


「なるほどね〜。ナルが面白いって言ってた理由が分かった〜」


モラえどんはポシェットをまさぐると、干し肉を一枚取ってビルに差し出してくる。


「え?」


「ぼくは君を魔王様だと認めることにするよ〜。それは忠誠の証〜」


「安い忠誠ですね……」


「まぁ、今はそれくらいの忠誠心ってことで〜」


「!ありがとう!モラえどん!」


ビルは感激してモラえどんに抱きつき、ついでにモフモフを堪能する。


「しょうがないなぁ〜新しい魔王様は〜」


困ったように笑うモラえどんは鬱陶しいであろうビルを振りほどくことはしなかった。


「そうだリア〜。そろそろ食糧の備蓄が心許なくなってきてるんだよ〜」


「……そうですか。30分後に皆を集めてください。これからの話をします」


「分かった〜伝えておく〜」


モラえどんは散り散りになった魔族達に伝令の役目を果たしに行った。

働き者だなとビルが呑気に思っていたところに、ふとリアから声がかかる。


「ビル様。これからが正念場です」


「え……?」


「詳しいことは後で。今は食事を済ませましょう」


「う、うん……」

次はビルに任務が課されます。パートナーが一人つくことになります。

……カムロのキャラ見せはもう少し先でした。

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