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4経緯、敬意

何も分からず言葉に窮するビルに代わり、リアが話を進めてくれる。


「これまでの世界は一言で表すなら、魔族の世界でした。魔族こそが世界の中心であり、支配者だったのです。そして、その魔族の頂点に立っていたのが、魔王様……ビル様の父君であらせられるフェルズ様です」


「うそ……」


「……?あの……父君が王であることをご存知でないのですか?」


「……初耳。信じられないけど……話を続けて」


消化するのは後でいい。今はとりあえず話を飲み込んでいくしかない。ビルはそう判断する。


「その魔王様ですが、二年前に人間に討たれて亡くなりました」


「……そう」


「ショックではないのですか?」


「あんまり会ったことないし。顔も思い出せないし、最後に会ったのもいつだったか分からないからね」


「………………」


ビルの冷めた答えにリアは何とも言えない表情を見せる。

ビルの言葉に反応したのはリアだけではない。リアの後ろに控えている小さな女の子は今にも飛びかかってきそうなくらいに険しい顔を真っ赤にさせて怒っている。


「グルルルルッ!」


「ひぃっ!?」


だが、事実なのだから仕方ない。何せ今の今まで父親か何者かも知らないくらいの関係性。距離の遠い他人同然の存在なのだ。


「ここにいる者達にとって、魔王様は特別なお方。軽んじるような発言にはお気をつけてください」


「わ、分かった……」


「魔王様が討たれてから、人間は人間による人間のための国を次々に立ち上げます。そして我々にとっての地獄……『魔狩り』が始まりました」


「さっき言ってた……問答無用で殺されるってこと?」


「場合によっては殺されるよりも残酷な仕打ちを受けることもあります」


「そんな……」


「我々の置かれた状況を理解していただけましたか?」


「いや、だけどさ、魔族って強いんじゃないの?世界の中心だったんでしょ?どうして急に人間の方が強くなっちゃったの?」


「これまで、魔族の力に対抗できる人間は『勇者の血筋』に限られていました」


「勇者の血筋って?」


「始祖の勇者ルトの血を受け継ぐ人間のことです。彼らは『聖力』と呼ばれる力をもって、人間離れした力を発揮します」


リアの補足によると、聖力には人間や物体に宿るエネルギーを増幅させる性質をもち、その性質によって人を超えた力を発揮する。

つまり、聖力を宿す勇者の血筋という存在は、


「要は強い人間ってことね」


「そんな簡単な言葉で片付けないでくれます!?実際そうなんですけど……」


雑にまとめられてぐぬぬと唸るリア。しかし、リアは理性的に話を進める。


「これまで魔族に対抗できるのは勇者の血筋だけだという話ですが、新たに脅威となる勢力が出てきたのです」


「どうして?どういう経緯で?」


「……分かりません」


「え?」


「それこそが魔族側の敗因。人間は魔族に悟られることなく、こっそりと、それでいて急速に力を溜め続け、魔族が気がついた時には手遅れの状況が出来上がっていたのです」


要は魔族が人間を侮りすぎていたわけだ。魔族は世界の中心であぐらをかき、その世界がひっくり返ることなどあるはずかないと高を括っていたのだ。


「その新しい勢力はデウス教徒と呼ばれており、皆、デウスという神を信仰しています。彼らは『神力』という魔力に似た性質の力をもって、強大な力を発揮します。デウスの信仰と力に何らかの結びつきがあることは分かっているのですが……それ以外に詳しいことは謎に包まれたままです」


「要は強い人間ってことね」


「だからその言葉で片付けるなと……!本当に分かってますか!?」


「聖力の勇者の血筋と神力のデウス教徒でしょ?デウス教徒の動きへの気付きと対応が遅れに遅れた結果、魔族は負けた」


「ぐぬぬっ……!」


「話が繋がった。魔王が死んだ今、リアさん達魔族は人間に滅ぼされる瀬戸際の大ピンチ。そこで、起死回生の一手として魔王の息子である俺を新たな魔王に担ぎ上げる……こんな感じ?」


「……その認識で問題ありません」


「そう……」


リアは突然地にひれ伏すように、ビルに頭をさげて告げてくる。


「ビル様!どうか我らにお力を!滅びゆく我らにもう一度!魔族が魔族として生きていける居場所を!この絶望を乗り越えるための希望を!どうか我らの王となって導いてください!」


リアに続き、ミノも、小さな女の子も、黒ずくめの女もビルに頭を下げる。一縷の望みをかけるように。全ての誠意を示すように。

これにはビルも心から向き合ってしっかりと答えを出さなくてはいけない。


「嫌です」


「「「「………………」」」」


「じゃあ、俺帰るので」


ビルは踵を返し、この場を去ろうとした所で重大なことに気付く。


「って、ここどこ!?」


ここは樹海の中。家に帰ろうにもどこを進んでいけばいいのか分からない。


「……生憎ですが、あなたに拒否権はありません」


「えぇ!?」


リア達は懇願の姿勢を解き、今度はビルを見下ろすように高圧的な視線を向けてくる。


「あなたを王にすることは魔王様のご意志ですので。あなたの意志は関係ありません」


「あの……リアさん?さっきまでの殊勝な態度は……?」


「筋を通しただけです。本意ではありません」


リアのピリピリとした空気に及び腰になるビル。


「これからあなたには王としてふさわしい力をつけていただきます」


「嫌だよ!人間と戦わないといけないんでしょ!?無理だよ!おうち帰る!助けてママ!」


「あぁ……あなたのその病的なまでのマザコンもムカつきます」


「それは私怨じゃん!」


「黙りなさい」


「ひぃっ!?」


「差し当たって、とりあえずその弱気なへっぴり腰からどうにかしていきましょうか」


「ちょっと待って!何をする気!?」


「ミノ様。ビル様の腐った性根を叩き直してください」


リアの言葉を受け、ミノタウロスのミノはビルの身体よりも大きな斧を肩に担ぎ、


「よろしいのでモ?」


「よろしいわけないじゃん!」


叩き直されるというより叩き殺されてしまう。


「冗談じゃない!俺は逃げるからね!」


リアは「遭難しますよ」とやる気の無い助言をくれるが、ビルは構わずに走る。が、


「カヒュッ!?」


突然の謎の圧迫感を首に覚えた瞬間に、ビルの意識は途切れたのだった。


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