34エピローグ 魔王
ここまで読んでくださってありがとうございました。これで一旦最後です。コメントなど反応をいただけると嬉しいです。
デウス教。主神デウスを崇める世界最大の宗教派閥。
その世界最大の宗教派閥を束ねるトップが教皇ゼント。 彼を主導とするデウス教徒の活動はデウスの教えを広めるだけでなく、学校や病院などの公共施設の設立、災害や戦禍に遭った土地の復興支援、先の魔族と人間の大戦の折には先陣を切って戦ったりと、その活躍ぶりは多岐に渡っている。
そんなデウス教徒の総本山たる聖アラリオ教会。 大きさは世界最大の国マルガリア帝国の城ほどにも迫る。 建物の造りも帝国の城に負けず劣らず荘厳である。
新生魔王軍のナルはまるで自分の庭を歩くような気軽さで、一般の立ち入りを禁じられた聖アラリオ教会の広大な敷地を歩いていく。
国宝と謳われるほどの芸術品の数々が並ぶ廊下を歩き、ナルがやってきたのは大聖堂。
教壇にそびえるデウス像に祈りを捧げているのは一人の男。歳の頃は30くらい。祈っている姿はまるで現世から切り離されたかのような、神聖なものだった。
彼こそが教皇ゼント。世界最大の宗教派閥のトップたる存在である。
彼はナルの存在に気づくと恭しくこうべを垂れる。
「これはナル様。いらしていたのですね」
「やあ。エルミカはいるかい?」
「はい。いつもの場所に」
ゼントはデウス像に触れると、触れた場所に幾何学模様の魔方陣が浮かび上がり、デウス像が光を発してスライドする。 すると、元に像の立っていた床にポッカリと穴が空いており、その穴は地下へと続く階段が伸びていた。
「どうぞ。ナル様が参られたらお通しするようにとエルミカ様より申し付けられておりましたので」
「そう」
ナルは勝手知ったるといった調子で降りていく。
先の見通せないくらいに長く伸びる通路。ナルが通っていくと、特定の地点をすれ違うタイミングで宙に魔方陣が浮かび上がり、罠が発動していく。
全てを灰燼に帰す煉獄の炎。一息吸い込めば即死に至る猛毒の霧。神の奇跡が生んだ守護幻獣の襲撃。 それら全てを作業のように跳ね除けてナルは進む。
やがて、光の差す出口が見えた。 澄み切った青い空に、太陽とは異なる別種の光。一面には緑の若草が広がっており、もっと遠くを見れば大きな木が鬱蒼と茂る森が見える。
自然だけではない。一面に広がる緑の中に、舗装された道がある。 その道が繋がる先は美しい花園だった。この世と呼ばれる世界には存在しない、見れば美しさのあまりため息が漏れる花々。
その花園の中央に、ティーカップを片手に優雅にお茶を楽しんでいる女がいた。 その女の背中からは純白の翼が伸び、頭の上にはどういう原理で浮いているのか、光の輪が浮いている。 大天使と呼ばれる存在だった。
「やあ、エルミカ」
大天使エルミカはナルの存在に気づいていたようで、驚いた様子を見せずに作り物めいた微笑みで応えてくる。
「ごきげんよう。ナル」
「ちっ」
「………………」
エルミカの側には彼女と同じく、翼と光の輪をもつ男女二人が控えているが、翼も輪もエルミカのそれに比べるとひとまわり小さい。
舌打ちをした男は天使のラウル。
無言でナルの存在を歯牙にもかけない天使の女はラブリエラ。
ナルもナルで二人のことは眼中に入れる様子はなく、エルミカに話を切り出す。
「今、話をしても?」
「もちろん。聞かせてちょうだい。新しい魔王はどう?」
「未完成もいいところさ。貧弱なくせに追い詰められたら蛮勇ときた。あんな調子じゃ、いつ死んでもおかしくはない」
「そう。使えないのね」
落胆の色を見せるエルミカに、ナルは「だが」と言葉を挟み、続ける。
「王としての資質は先代の魔王を凌ぐ。言うなれば壊れやすい大器といったところかな。晩成させれば君の望みは叶うかもしれない」
「へぇ……?」
エルミカの表情に初めて興味の色が浮かぶ。
「はっきり言えば、半分は諦めていたのだけれど……あなたがそう言うのなら少しは期待してみてもいいのかしら」
「彼の望みは今の人間とは相容れない。衝突は避けられないだろうね。全ては君の望み通り」
「なら、その大器とやらを決して壊さないようにしてちょうだい。必要なら力を貸してもいいけれど?」
「「……!」」
エルミカの申し出がラウルとラブリエラの眉をピクリと震わせる。
「いや、今は必要無い。その時が来たらよろしく頼むよ」
「そう。それにしてもナル、あなた随分と働き者になったわね」
あらゆる全てを見透かすようなエルミカの視線。ナルは肩をすくませて言う。
「……ボクは別にキミの野望に興味は無い。人間が滅ぼうが魔族が滅ぼうが、ボクにはどうでもいいこと。キミはキミの好きにすればいい」
「あら人聞きが悪いわね。私は人間を滅ぼすつもりは無いわよ?」
「くくっ、似たようなものだろう」
「「貴様っ!」」
ナルに怒りを向ける二人の天使をエルミカが手で制す。
「まぁ、ボクにはキミが約束を守ってくれることに賭けることしかできないわけだけど」
「ふふっ、心外ね。大天使たるこの私が約束を反故にするわけがないじゃない」
「そう願うよ」
✳
大森林を抜けた先は港町『ポプ』がある。 新たに加わったリリエラとカムロが街へ潜入し、闇船の手配をしてみせる。 この闇舟の行き先は暗黒大陸。魔族が人間に脅かされずに生きていける唯一の場所だ。
新生魔王軍の全員を人の目につかずに船へ入れるのはかなりの難題のように思えたが、そこは相手もプロ。惚れ惚れするような鮮やかな手際で船に乗せてくれるのだった。
かくして、新生魔王軍は闇船に乗じ、海路を進んでいた。
今は人間の目を気にする必要が無い。加えて広い海を目の前にしていることから、魔族達は解放感で大はしゃぎしていた。
甲板では飽きることなく魔族達のどんちゃん騒ぎ。 そんな魔族達とは離れた所でビルは一人、潮風に吹かれながら手紙を読んでいた。
「ビル様」
背後からビルを呼んだのはリアだった。
「リアさん……」
「心強いですね。人間の味方というのは。リリエラもカムロ様も、このような立派な船を用意してしまうのですから。おかげで、暗黒大陸までの道のりが遥かに楽になりました」
「そうだね。本当に凄いよ」
リリエラとカムロの手腕は素晴らしく、その活躍に魔族達は皆、二人の人間を仲間だと認めている。 自分もいつかそんな風に認められたらと思いつつ、ビルは苦笑する。
「……ビル様はもう少し自信を持つべきですね。ビル様も凄いお方なのですから」
「顔に出てた……?」
「ふふっ、はい」
自分を簡単に理解されてしまう情けなさに、ビルは小さくため息をつく。
「なぐさめてくれてありがとうね、リアさん」
「なぐさめではありません。ビル様は凄いですよ。少なくとも、私が自分の未来を預けても後悔しないくらいには。ビル様は詳しく話してくださりませんでしたが、リリエラから聞きました。街であったこと全て。それを耳にしたらビル様を認めないわけにはいきません」
「え……?」
「安心してください。リリエラのことを恨んではいません。ビル様がニアを守ってくださりましたから」
「なら、いいけど……」
リアにはリリエラとリリエラをかばうビルを糾弾する権利がある。しかし、それを飲み込んでビルの意思を尊重してくれるくらいに、リアはビルに忠誠を誓っていた。
リアはビルの心情を察してか、リリエラの話を打ち切った。
リアの視線がビルの手にしている物に向けられる。
「手紙……ですか?」
「うん。前にもらったママからの」
「ふふっ、前に読んでいた時はピーピー泣いていましたよね」
「うぐっ……」
リアはいたずらっぽく笑ってビルの隣に腰掛ける。
「もう……泣かなくていいのですか?」
「うん。前はママと離れ離れになることがショックで手紙を読むだけでも 辛かったんだけど……今はまた違って見えるんだ。ママが本当に伝えたかったことが、今なら少し分かる気がする」
「……そうですか」
他の魔族が聞いたら茶化すような話を、リアは優しく微笑みながら聞いてくれる。
「強く……なりましたね」
「ふふっ、そうだといいけど」
分かっている。自分がまだまだであることなど。しかし、リアから見て少しでも進歩を感じてもらえるなら少しは救われる。
「ねぇ、リアさん。パパの話、聞かせてくれる?」
「え……?」
「ここにいる皆が心酔していたパパってどんな人だったのかなって」
「ビル様……」
「最初は俺が魔王にって話を受けた時、どうしてこんなに身の丈に合わない役目を押し付けられたんだって……迷惑でしかなかった。だけど、リアさんやニアと接していく内に、段々と魔族のことが好きになってきたんだ」
もちろん、苦手な魔族もいる。というより、苦手な魔族の方が圧倒的に多い。しかし、ニアと分かり合えるようになったことをきっかけに、他の魔族のことも知っていきたいと、関係を築いていきたいと思うようになった。
ここにいる魔族だけではない。まだ見ぬ魔族達とも、広く知り合っていきたいと思うようになった。
「パパが皆のことを大事にしてた気持ち、分かるんだ。だから、教えてよ。リアさん」
いつかは、父親のように多くの同族を守れるような、皆と深く繋がれるような、そんな存在を目指していくのも悪くないと思えるようになったから。
「皆にとって魔王はどういう存在で、どんな人だったの?」
リアは目を丸くして驚いた後に、淡く微笑み、優しく語ってくれる。
「そうですね……何から話しましょうか……」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。我ながら荒削りな部分が多々ありましたが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
最後といっても、物語の全体から見れば導入部分だけなんですが……第二部は書いてはいるものの投稿は未定です。気が向いたら投稿しようかな。
今回主人公をマザコンに設定した理由は「マザコンキャラってあんま見ないな」と思ったので、実験的に設定してみました。
ビルのコンセプトを例えるとマヒ状態のポケモンです。普段はお荷物だけれど、ここぞという時に動いて窮地を救ってくれる……そんなイメージです。
次はまた別のお話を投稿しようか、それともしばらくお休みしようか、気まぐれで決めていこうと思います。どうもありがとうございました。




