33仲間
この次で最後です。ここまで読んでくださった方(いるかな?)本当にありがとうございました。何か反応などいただけたらとても嬉しいです。
カムロさんの案内で街道を迂回していく。
「森林の川沿いに開けた丘がある。そこが合流地点だ」
「あの……魔族が大勢で合流するには人里から近いような気が……」
人間に見つかって通報されたら今度こそおしまいだ。
「案ずるな。あの森林は禁足地に指定されている。立ち入るには街の許可が必要なんだ。滅多なことでは見つからない」
確かに通報をしたのはナルさんの裏切りによるものだ。だけど
「でも、騎士が追ってきたりは?」
「こちらはあのエレノア・ブレイドを退けたんだぞ?そんな手勢を相手にロクな準備もせずに再び仕掛けてくるほどヤツらも無策ではないさ」
「……そうだといいんだけど……」
カムロさんの言うことが本当に正しいのかは分からない。 とにもかくにも自分達はカムロの示してくれた道筋を辿るしかない。
「そろそろ着くぞ」
森林に入ってから30分程。徐々に視界を覆う緑が薄らぎ、やがて開けた場所に辿り着く。そこには、
「!皆……!」
いた。輪になって仲睦まじく食事を楽しむゴブリン達。巨大な斧を振り回し、鍛錬に勤しむミノ。コップを片手に仲間達と談笑するリザどんとミニオーク。包帯を手に取って仲間の怪我の手当てをしているモラえどん。そして、こちらを見て驚きに目を丸くしているリアさん。
「ビル様っ!ニア!よくぞご無事で!」
「モ?おぉお!カムロ様!我輩は無事だと信じていましたモ!」
ゾロゾロと寄ってくる魔族達から一人駆け出して寄ってきたのはリアさんだ。
リアさんは俺達に安堵の笑顔を見せてくれる。
「リアさんもよく無事だったね。皆を守ってくれてありがとう」
「いえ、私は別に……カムロ様がいなければ何もできませんでした……」
「けっ……いいご身分でございますなぁ?おい達が殺されかけていというのに、のうのうと遅れてやって来るとは」
「そうだぜ。いい気なもんだ」
好意的に迎え入れてくれるリアさんとは別に、リザどん達はこちらに恨みがましい視線を向けてくる。
「ひぃ!?すみませんすみませんすみません!」
「謝ってんじゃないわよ!」
俺の背中をピシャリとはたいてそう口にしたのはニアだった。
「ビルはきちんと大事な役目を果たした。それだけじゃない。騎士に殺されそうになったあたしを助けてくれたんだから!」
「「「「……!」」」」
「いい機会だわ。あんた一回こいつら全員ぶちのめしてやりなさい。どっちが上かを思い知らせてやるのよ」
「えぇええ!?」
「大丈夫。あの時のあんたなら楽勝よ」
物騒なニアの提案など論外だ。俺は迷いなく却下を告げようとするが、
「おもしろいでごわすなぁ。それならばまず、おいが試させてもらいもす」
「ふっ、決まりね」
「勝手に決めないでくんない!?」
しかしながら、俺の願望とは裏腹に、決闘の匂いをかぎつけた魔族達がゾロゾロとギャラリーと化して俺達を囲い始める。
リザどんは腰から剣を抜き、こちらに切っ先を向ける。
「さぁ!どこからでもかかってくるがよか!」
「うっ……」
脳裏にいつぞやボロボロにされた光景がちらつく。 正直、戦いたくなどないのだが……
「見せてやりなさい。あんたの本当の力を」
もう退けない。 俺は聖力を……
「……あれ?」
発現できなかった。 力を引き出そうとすると、途端に水が引いていくように消えていく。
「あれ?なんで?」
何度試しても同じ。俺の身体に聖力が発現することは無かった。
ギャラリーの魔族達は焦れて野次を飛ばし始める。
「さっさとしろよ!騎士を倒したってのは嘘か?あぁん?」
「どうしたのよ!?こんな時にヘタれてんじゃないわよ!」
「ひぃい!?ごめんなさいごめんなさい!もうちょっと待って!」
だがダメだ。リザどんももはや戦う気も失せてきたのか剣の切っ先が降りてしまう。
「恐れは聖力の制御を狂わせる。勇者の間じゃ常識っスよ」
「……え?」
この場に似つかわしくない声。声の方に恐る恐る視線を向けてみると、
「り、りりりリリエラさん!?」
「ども」
ニパッと人懐っこい笑みで応えてくるリリエラさんの姿があった。
「あばばばばば!?」
俺は今度こそ腰を抜かして地面に倒れた。
「人間だぁあ!」
「「「「!」」」」
魔族全員が武器を手に取り、警戒の態勢を取る。
「なんなんなんで!?」
見ればリリエラさんは剣こそ携えているものの、騎士服ではない。それに、背中には大きなリュックサックを背負っており、まるでどこかへ遠出するような格好だ。
「落ち着いてください。戦うつもりは無いっス」
リリエラさんは両手を上げて敵対する意思が無いことを示してくる。
「まぁ、どうしてもって言うなら相手してもいいっスけど」
「皆!絶対に戦っちゃダメだからね!?」
魔族達もリリエラさんが只者でないことが分かっているためか、慎重に事の成り行きを見守っている。
たぶん、リリエラさんと落ち着いて話ができるのは俺だけだ。
「……それで?どうして俺達を追ってきたの?」
「それなんスけど……自分、騎士を辞めてきたっス」
「!そっか。にしても、よくそんな急な話を通してきたね……」
「魔王様の言った通りだったっス。団長は自分の我儘を許してくれました」
どうやらリリエラさんは律儀に挨拶をしに来てくれたらしい。
「なんか……吹っ切れたって顔してる」
「まぁ……そうっスね」
「?」
今度は何やら歯切れが悪い。リリエラさんは少し目を泳がせ、やがて意を決したように口を開く。
「……魔王様は言ってくれたっスよね?これからは自分や誰かの幸せのために生きて欲しいって」
「うん……」
「そんなの……どんなに考えても答えなんて出てくるはずもない。そう思ってたんスけど……一つだけピンとくる答えがあったんスよ」
「それって……?」
俺の問いに、リリエラさんは笑みを浮かべて俺を指差した。
「あなたの作ろうとしている世界。それが答えでした」
「え……?」
「魔族も人間も笑って暮らせる世界。それは誰もが幸せに暮らしていける世界ってことっス」
「それは……」
その願いは俺とリアさんとママの間だけの話だ。他の魔族にはまだ話していないことなのだが……
「ご安心を。ビル様。ここにいる者達はビル様の目指す世界に納得しています。正確にはフェルズ様のビル様の選ぶ道を尊重するようにとの命令を」
「……そうなの?」
ビルは周囲の魔族の様子を伺う。
「そのことについて、おいからは何も言うことはありもはん」
「ありもはんって、あるの?ないの?」
ありませんという意味ですとリアからツッコミが入る。 リザどんに続き、
「いいんじゃねぇか?あんたはそれで」
「今は人間に困らされてるから人間がムカつくけどよ、もしもオレらが昔みたいに笑って暮らせるなら、人間のことはどうでもいい。少なくとも、敵対の意思は無い」
「皆……」
意外な反応だった。てっきり人間は皆殺しにしてやると口にしそうな者達ばかりだと思っていた。
「あの……さっきから思ってたんスけど、足並みが全然揃ってないじゃないっスか。それに魔王様、全然敬われてないような感じっスけど……」
「そうなんだよねぇ……」
「土壇場での力は目を見張るっスけど、土壇場以外では基本ポンコツなんスね……先が思いやられるっス」
「え……?」
先が思いやられるって……もしかして……
「話が脱線したっスけど、改めて。魔王様、どうか自分を……リリエラをあなたの配下に加わらせてください」
「「「「!?」」」」
魔族達は目を見開いて驚愕した。
「なんとなく……そんな話かなとは思ってたけど……」
予想はしていても内容が内容だけに思考が回らない。
「……ビル様、いかがなさるおつもりで?」
「いや……どうしよう……?」
「自分、役に立つっスよ〜?そんじょそこらの騎士にはまず遅れは取りませんし、街への潜入、情報収集、何でもござれっス」
「そうよ。迷うことなんて無いじゃない。こいつ超強いし。ミノ様と同じくらい……もしかしたらそれ以上強いかもしれない。こんなお得な話、断る理由が無いわ」
意外にも、リリエラさんの加入に肯定的な第一声はニアからだった。
「ニア……」
「あの……正気っスか?」
「どういう意味よ!?」
「いや……だって……ねぇ?」
それはそうだ。自分を殺そうとした相手を仲間に引き入れるなど、普通そんなに簡単に割り切れるものではない。
「あんたは敵対するよりも味方にした方が遥かに得な話ってだけよ。それに……悪いヤツじゃなさそうだし……」
「……凄いっスね。ニアちんは」
「急に馴れ馴れしいのはウザいけどね」
「さーせん」
リリエラを認めたのはニアだけではない。
「強い味方なら魔族でも人間でも歓迎するモ」
「そうじゃ!断る理由が無か!」
「まぁ、カムロの姐さんも人間だしな。いいんじゃねぇか?」
ニアの宣伝が効いたのか、元々強さを重んじる魔族の習性からか、リリエラさんを受け入れる声が広がる。 しかし、俺は首を縦に振らない。
「……正直、リリエラさんが一緒ならすっごく心強いよ。でも……リリエラさんにとっては過酷すぎると思う。だって人間に……これまで味方だった立場の人から命を狙われる立場になるんだよ?」
そんなの辛すぎる。ここでリリエラさんの申し出に安易に甘えるのは違うはずだ。
「魔王様……本当、優しい人っスね」
「別に優しくなんて……」
「ビル様。はっきり言って、人間の強力な戦力は私達としても喉から手が出るほど欲しいです。それを我慢してこの騎士の身を案じているのです。甘ったれたことを言える状況でないことを分かった上で。優しいを通り越して阿呆です。ビル様は」
「うぅ……」
「まぁ、魔王様の許可があろうと無かろうと自分はついていくつもりっスけどね」
「それ……もう断るの無理じゃん」
「そう。無理っス♪」
ここまでリリエラさんが意志を固めてる以上、俺にできることは何も無い。
「はぁ……」
「む。せっかく美少女の自分が配下になったってのに、ため息なんかついちゃって……そんなに自分のことが邪魔なんスか?」
「邪魔じゃなくて心配なの。リリエラさんのことが」
「!そ、そっスか……」
リリエラさんは頬を染め、毛先をクルクルと指でいじる。
「でも、そういうことなら……これからよろしくね!リリエラさん」
「!はいっ!魔王様!」
正直、心の底では納得していないけど……そんなこんなで新生魔王軍は新たにリリエラさんを仲間に加えるのだった。
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