32エピローグ the other side
次か次の次でラストになります。どうか最後までお願いします。
エレノアは現在執務室にてリリエラから今日の詳細な報告を受けていた。
報告によれば、結局魔族の襲撃の手がかりは見つからなかった。 二人の魔族が人間に紛れて潜んでいたらしいが、目的は物資の調達だけだったらしい。
この結果をエレノアが耳にした時、すんなりと腑に落ちたのはユリからあらかじめ聞かされていた話があってこそだった。
それよりもその先。リリエラから口にされた報告にエレノアは自分の耳を疑った。
エレノアは何かの聞き間違いを本気で疑い、改めてリリエラに問い返す。
「……すまん。もう一度言ってくれるか?」
「……魔族に負けました」
「……何の冗談だ?」
「単純な力比べで負けて、人としても負けたっス。それはもう完膚なきまでに」
『たはは』と冗談めかして苦笑するリリエラ。
「……?おまえは何を言っている……?」
エレノアにはリリエラの言っている意味が欠片たりとも理解できなかった。更に、
「……悪いんスけど、自分今日限りで騎士をやめさせてください。自分にはもう勇者としての責務は全うできません」
「……ふざけているわけじゃなさそうだが、さすがにそんな話がすんなりと通るわけがないだろう」
「自分ても無茶苦茶言ってることは分かってるっスよ。でも……もう決めたことなんで」
「……何を言っても退かないって顔をしているな」
いくらなんでも話が急すぎるせいで何も見えてこないが、リリエラの強い意志だけは感じられる。
「おまえと戦った魔族と何があった?」
「……思い知らされました。己の浅はかさと未熟さ、弱さ。そして、今まで自分が目を逸らしてきたこと」
エレノアには分からない。リリエラの浅はかさや未熟さなど。
「このままでは終われないっス……!団長!どうかお許しを!」
「…………はぁ。許すも許さないもないだろう。私が何を言ったところで、おまえはもう止まらないのだから」
「!」
「ただ一つ約束しろ。これから先、この選択を後悔することは絶対にしないと」
「……はいっ!約束します!」
リリエラは騎士として最後の敬礼をエレノアにしてみせた。
「それで、騎士をやめてこれからどうしていくつもりなんだ?」
「……旅に出るっス」
「……出発は?」
「すぐにでも」
「何から何まで急なヤツめ……」
「ははっ、さーせん」
「まったく……まぁ、おまえに困らされることを嘆くのも今更だがな」
それも、もう無くなってしまうわけだが。
「それじゃあ、行ってきます」
「ちょっと待て。餞別だ」
エレノアは腰元に携えた短剣を一振り、リリエラに渡してやる。
「ちょっ……これ!?」
「聖剣だ。持っていけ」
「いやいや……さすがに聖剣は……」
聖剣。勇者の血筋に連なる者にしか扱えない宝剣。 使用者の聖力を取り込み、剣としての強度が上がるだけでなく、取り込んだ聖力から魔法じみた攻撃を行うこともできる優れもの。 値段をつけるなら家の一件や二件が建つくらいに高価なものではあるが……
「きっと険しい旅になりそうだからな。きっとおまえの助けになるはずだ」
「いや……ですけど……」
「これまでおまえに助けられた分に比べれば安いものだ。受け取らねばこの場で破壊してやってもいいんだぞ」
「……分かりました。ありがたく頂戴します」
「ああ。達者でな」
「はい。団長も」
リリエラは踵を返して執務室から去っていく。 一人執務室に取り残されたエレノアは、
「はぁ……」
深く溜息をつくことしかできなかった。




