30すれ違い
もうすぐ終わりです。ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。終わりまでもう一波乱あります。
「自分達のことだけで精一杯だったけど……皆もピンチだったんだよね」
ビルとニアは互いの危機を乗り切ることができたが、ゲーロン湖に残った待機組の安否は未だ分からないままである。 合流の予定時刻はすでにオーバーしている。
現在、ビルは聖力によって強化された身体能力に物を言わせ、ニアを抱っこしながら街道を爆走していた。
「……急いでも、もう間に合わないわよね。ねーさま……」
人間の強さを目の当たりにしたニアは、どうしても胸に嫌な予感が渦巻いてしまう。リリエラであれだけ強かったのだ。エレノア・ブレイドがその上をいくというのなら……
「大丈夫。きっと無事だよ」
「そんなこと言ったって……」
「ほら、俺達だってなんやかんやで無事だったわけだし」
「それとこれとは話が違うじゃん!」
根拠の見えないビルの気休めに、ニアは怒鳴ってしまうが、
「一緒だよ」
「え……?」
「どっちのピンチもナルさんが仕組んだことだよ」
「あのクソ野郎……!」
思い出すだけで腹が立つ。お遊び感覚で他人を地獄に突き落とすクソ野郎。やつは許されないことをした。
しかし、ビルは言う。
「だから、俺達が極限の危機に晒されても、本当の一線は守ってくれてる……そんな気がするんだ」
「はぁ!?あんたあのバカを信用してんの!?」
生きるか死ぬかの地獄に叩き落とされても尚、そのような口がきけるとは……いや、リリエラを見逃した時点で分かっていたことか。
あのバカを信用するなどありえない話だが……しかしビルの言葉ならば、ありえない話でも少しは信じてみてもいい。
「ねーさま……」
無意識にビルにしがみつく手に力がこもる。
「!あれは……」
ビルが息を呑んだ。
「っ!?」
注視すべきは前方。 街道の道半分を埋めつくす騎士の集団。 ゲーロン湖から引き返してきた騎士達だ。何やら移動を急いでいる様子だ。
「くぅっ……重っ……」
咄嗟にビルが聖力を解除した。
「……しょうがないわね」
ニアは痛む身体を堪えてビルの腕から離れ、自らの足で立つ。 ……本当はもっと抱っこして欲しかったが……そうも言っていられない。今は手を繋ぐだけで勘弁してやろう。
「………………」
騎士達は檄を飛ばしながら街を目指して駆けていた。騎士はこちらに気づいている様子は無く、ビルの聖力は感知されていない。
「っ」
すれ違う。
ビルとニアは怪しまれないように、騎士の注意を潜り抜けていく。 不自然に目を逸らすことはせず、かといって何も感じていないような自然さを出すわけでもなく、どこまでもほどほどに。
冷静にやり過ごせる。そう考えたニアだったが、
「「!?」」
騎士達の後ろから突如として現れた閃光。 その閃光は騎士達の前で動きを止め、その正体を露わにする。
淡く輝く金の髪。芸術品のように整った顔立ちに、仮面のように冷酷な表情。存在そのものから迸る圧倒的なオーラ。 間違いない。あれこそが英雄マリウス・ブレイドの娘。
「エレノア様!」
「団長!」
エレノア・ブレイドの出現により、隊士達が背筋を正す。
「……アンからの報告は受けた。内容の真偽を確かめるために、私は先に戻る。皆も街に戻り次第、警邏にあたれ」
「「「「はっ!」」」」
隣のビルは放心状態でエレノアを眺めていた。
「ちょっと……バカ……行くよ」
ニアはビルを引く手に力を込め、意識をこちらに向ける。
ようやくビルの足が動き、移動を再開させる。
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