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3ビル・スターン

見てくださってありがとうございます。

意識が覚醒して、最初に感じたのはユッサユッサといった身体の揺れだった。

次に感じたのは瞼越しからでも分かるくらいの上空からのまばゆい光。その光は今まで生きてきて感じたことのない明るさと心地よい暖かさがあった。


「んぅ……?」


ゆっくりと瞼を開けると、視界に牛の怪物の顔がドアップで飛び込んできた。


「ぎゃぁあああ!?」


目の前の怪物の恐ろしさの余りに頭がグチャグチャになるビルであったが、残った冷静な部分で自分が今、牛の怪物に担がれ、運ばれていることを理解する。

身体をジタバタとさせて化物の手から逃れようとするビルであったが、悲しいかな、びくともしない。


「む?お目覚めですかモ?」


「あんた誰!?ハウアーユー!?」


「某、ミノタウロスのミノ・モンターギュと申しますモ。よろしくお願いしますモ。ビルどの」


「ひぃっ!?」


ニカッと笑ってみせるミノだが、いかんせん外見が怖すぎる。ミノは親しげに振舞っているつもりなのだろうが、ビルには獲物を見つけた猛獣にしか見えない。

とはいえ、いつまでも怯えているわけにもいかない。ビルは勇気を出して気になっていることを順番に尋ねてみる。


「……俺のこと、知ってるの?」


「生憎、ほとんど知りませんモ。ですので、これからどうぞよろしくお願いしますモ」


「……?」


これからよろしくとはどういう意味か。

会話を重ねても分からないことが増えていく。何から質問していけば良いものか……


「どうぞ、お近づきの印に」


そう言ってミノが差し出してきたのはグラスに入ったミルクだった。


「これは……?」


「喉が渇いているでしょうモ。どうぞ召し上がってくださいモ」


「……じゃあ、ありがたく……」


喉が渇いているのは確かだ。 ビルは遠慮なくミルクを口にする。


「!」


程よい冷たさが、喉に気持ち良い。口に広がるほのかな、そしてコクのある甘味。濃厚でありながらスッキリとした味わい。


「おいしい!」


これほど美味なミルクを口にしたことは無かった。ビルは恐怖を忘れて感激した。


「ふふっ、某自慢のミルクですからモ」


「ヤギのミルクとは全然違う……このミルク、どこで手に入れたの?」


「どこでも何も……某のミルクですモ」


「だから、それをどこで……」


嫌な予感が脳裏をよぎる。ビルの無意識の防衛本能がその予感を追い出そうと働きかけるが、


「某の身体が出したミルクですモ」


「ブフゥーッ!オェーッ!オェーッ!」


嫌な予感が的中した。


「あんた男じゃないの!?」


「男でもミルクは出せますモ」


「出ないよ!?」


というか出さないでほしい。


「ミノ様のミルクは極上の味わいと豊富な栄養のおかげで大人気なんですよ。まぁ私は絶対に飲みませんけど」


背後からかけられた声。視線を向ければ見覚えのある女がいた。


「あなたは……」


突然に家に押しかけてきた女だ。女はペコリとお辞儀をしてくる。


「リアと申します。お見知りおきを」


「リアさん……この状況はどういうこと?俺をどこに連れていく気?というか、ここどこ?」


矢継ぎ早に質問を飛ばすビル。


「まず、結論から申し上げます。ビル様には我らの新たな王となっていただきます」


「……え?」


「次に我々の向かっている場所ですが、暗黒大陸に向かっています。この地はもはや人間の領域。魔族が人間に問答無用に狩られる……我らにとってはこの世の地獄。我々はこの地を離れ、人間の侵略を受けていない暗黒大陸に身を隠し、立て直しをはかります」


「ちょっと待って!?全然飲み込めないんだけど!?」


「……分かりました。一度、腰を下ろしてしっかりと話をしておきましょう」


リアは号令をかけるように大きな声で告げる。


「皆様、ビル様が目を覚ましました!ここで一度休憩を取ります!」


見れば、リアの更に後ろには魔族の集団が列を作ってぞろぞろと続いていた。


「………………」


絶句するビル。 自分はなぜこの恐ろしい魔族の集団の中にいるのか。更には自分をこの集団の王にしようなどと言い出す者も出てくる始末。

できることならすぐにでも逃げ出して家に帰り、母に甘えて癒されたいビルであったが、状況は許してくれそうにない。

リア、ミノに加え、リアの面影を感じさせる小さな女の子と、美しい外見でありながら軽薄そうな男、そしてマフラーで顔を隠した黒ずくめの女がこの場に集まる。


「「「「………………」」」」


ビルに向けられる視線は様々。 小さな女の子は興味津々といった好奇に満ちた視線。軽薄そうな男はニヤニヤと観察するような視線を。黒ずくめの女は元々の目つきが鋭いのか、射るような視線。

今まで感じたことのない居心地の悪い空間を前に、ビルは忙しなく視線を彷徨わせる。


「それではまず、現状を理解していただくために魔族と人間との間にあった出来事を順番に追っていきましょう」


未だ混乱するビルを待たず、リアはそう切り出してくるのだった。

続きもお願いします。

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