28素人
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実力はどう贔屓目に見繕ってもこちらが圧倒的に上。だというのに、どうしてここまで手こずっている?
「うぉおおおおおお!」
ギンッ!
「っ!?」
初めて、リリエラの剣がビルに押し返された。
(余計なこと考えてる場合じゃない)
改めてリリエラはビルから距離を取り、頭を冷やす。
「はぁっ……はぁっ……」
未だ致命的な一撃を受けてはいないとはいえ、ビルの全身は血塗れ。呼吸も乱れ、体力は相当に消耗している。
対するこちらは無傷な上に疲労は一切無い。 だというのに、
「っ……!」
リリエラの頬に一筋の汗が伝う。
(相手はど素人。侮ることはなくとも、恐れることは無い)
そう事実を改めて認識するリリエラだが、
(素人……?だったらなぜここまで手こずって……)
騎士隊の中でもリリエラと真正面から戦って数秒間も無事でいられる騎士はエレノアくらいのものだ。 だというのに、どうして目の前の素人はまだ倒れていない?
リリエラの胸の違和感は膨れ上がっていく。
(素人……本当に素人なのか……?)
ビルの剣の握り方が、いつの間にか変わっている。剣だけではない。呼吸を荒げ、フラフラなくせに、身体の重心、姿勢にブレは無く、隙と呼べるものは無い。 そして、
「なんなんっスか……」
揺るぎの無い強い瞳は真正面からリリエラを見据えてくる。
「はぁっ……はぁ……ふぅ……」
ビルの乱れていた呼吸が、落ち着きを取り戻してくる。
「今度はこっちの番だ」
ビルが剣を構える。今度は守るためではなく、こちらを倒すために。
「ガキが……調子に乗るな!」
「いくぞぉおお!」
ビルの身体が僅かに沈んだと認識した途端、ビルの姿がかき消えた。
来る……!
リリエラは反射的に剣をかざすと、鈍い衝撃が襲いかかる。
「なっ……!?」
速い。速いだけじゃない。剣捌きもまるで別人。
「おぉぉおおおお!」
「くぅっ……!」
ビルの宣言通り、今度はビルがリリエラに襲いかかる番となった。 膂力はこちらが上。しかし、ビルの剣は練度が格段に上がっており、その大きすぎる太刀筋の変化にリリエラは押される。
油断すれば一気に崩される。 リリエラは一切の慢心を捨て、目の前の敵に集中する。
「ちっ!」
「がはっ!」
なんとかビルの剣を捌き、カウンターでビルの腹部に蹴りを入れたところでビルの剣は止まる。
追撃で一気にカタをつけようかとリリエラの頭によぎるが、冷静な部分がそれを制した。
「その太刀筋……どういうカラクリっスか?」
「ただ逃げてるだけかと思った?残念でした」
ビルは腰を上げて再び構える。
「ナルさんが言ってた。リリエラさんは糧だって。つまりは俺が強さを学ぶためのヒントがあるはず」
「……どういうことっスか?」
「何かを学ぶ時の一番の近道は真似をすること。ママに教わらなかった?」
「この短い時間で自分の太刀筋を学んだと?」
「そういうこと」
「あはっ」
ギィイイイイン!
再び、二人の刃が火花を散らして交差する。 真似だけで自分に勝てると?
「調子に乗るな」
「ぐぅっ!?」
精度が異様に優れていようが、所詮は付け焼き刃。 本気のリリエラを受けきるだけの力は無い。
リリエラの刃がビルの身体を切り刻み、身体をぶつけてビルを吹き飛ばし、蹴りでビルを痛めつける。
「……もう諦めたらどうっスか?」
「っ……!ここで倒れるわけにはいかない……!今、ニアを護れるのは俺だけなんだ!」
「ビ……ル……!」
「絶対に負けないから……!だから、もう少し待ってて」
ビルは気丈にニアに笑ってみせる。
「……っ」
そんなビルに、リリエラはなぜだか苛立ちを覚えた。
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