24撤退
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先の大戦において魔王軍の幹部達を次々に葬ってみせた恐ろしき勇者。エレノア・ブレイド。 軍略に深く関わっていたリアがエレノアの姿を見間違うはずもない。
状況は最悪。いくらミノといえど勝てる相手ではない。更にリアに追い討ちをかけるように悪い状況は重なっていく。
「戦わずして撤退など……魔族達も随分と腰抜けになったものだ」
エレノアの嘲笑が、魔族の反骨心に火をつけないわけがなく、
「んだとコラぁあ!?」
「上等だあ!ぶっ殺してやるぜ!」
その火は容易く一瞬にして魔族の間に燃え広がる。 この場にいる魔族達は戦の中枢から遠ざかっていた雑兵ばかり。エレノア・ブレイドの恐ろしさなどまるで分かっていない。
恐れを知らない魔族達は自ら死の道へと歩みを進んでいく。
「落ち着……」
ダメだ。落ち着けと口にしたところで彼らの熱はもう冷めない。ならば……!
「聞きましたか!?その場凌ぎの頭の悪い挑発を!人間どもはよほど撤退をされたくない様子!」
「「「「!」」」」
ここだ。一気に引き込め……!
「我らも姑息な人間に倣ってたまには嫌がらせに興じてみようではありませんか!そして、人間どもの悔しがる顔を肴に酒でも飲み交わしましょう!どうです?最高のエンターテイメントだとは思いませんか!?」
自分には皆を率いていくだけのカリスマは無い。それでも、この時だけは……! 不敵に笑ってみせるリアは内心でただただ祈った。
「おもしれぇ……!いいじゃねぇか!リアの姉御!」
「ただぶちのめすだけじゃつまんないしな!いいぜ!乗ってやろうじゃねぇか!」
「撤退!撤退だぁ!」
祈りは通じた。 撤退だ。
エレノアは目を丸くしてリアを見る。 しかし、それも一瞬。
「まぁ、こちらのやることは変わらん。皆殺しだ」
「!?」
ゾクリとリアの背筋に悪寒が走ったと同時に、リアはその場から飛びのいていた。 みっともなく地面を転がりながら見えた光景は、自分の元いた場所で剣を振り抜いたエレノアの姿だった。
エレノアの瞳は転がっているリアをしっかりと捉えており、剣の切っ先がリアに死を突きつけていた。
「どうやら一番厄介なのはミノ・モンターギュではなくおまえだったらしい。悪いが、ここで始末させてもらう」
「!」
もうかわせない。足掻かなくては死ぬというのに、身体はちっとも動いてくれない。
死。
こちらの準備などおかまいなしなこうも突然にやってくるとは。
「ぅううモォオオオ!」
「っと」
ガッギィイイン!
巨大な斧による一撃が、リアの死に待ったをかける。
鍔迫り合いがギリギリと嫌な摩擦音を奏でる。
巨木のような両腕でエレノアを押し潰そうとするミノ。 しかし、対するエレノアは片手で握った剣だけでミノの怪力を受け続けている。
「……さすがに片手では押し返せないか……」
ギンッ!
エレノアが剣を振るい弾き、ミノを崩しにかかる。
「モッ……!」
重心を崩されるミノだが、崩れない。巨大な斧を軽々と盾のように振るい、器用にエレノアの雨のような斬撃を受け流していく。 それでも、どうしても捌ききれない斬撃が出てきては、ミノの身体に浅く血が噴き出していく。
誰がどう見ても防戦一方。ミノがエレノアに圧倒されている光景を前に、
「う、ウソだろ……!?あのミノ様が……」
「ば、化け物だ……!化け物だぁああ!」
まとまりかけた魔族が再び浮き足立つ。
「狼狽えるなぁあああ!」
戦場に轟く怒号。 魔族だけでなく、エレノアの注意まで引き寄せたのはカムロだった。
「やることは変わらない。撤退だ。この場は私とミノで請け負う。リア、おまえが先導して撤退しろ。リザドン、おまえは殿だ」
「カムロ様!?」
「正直、あんな化け物と戦うだなんて御免被りたいところだが……そうも言ってられん。安心しろ。死ぬつもりはない」
「しかし、相手はあのエレノア……」
「いいから行けぇえ!」
「っ!
問答をしている時間をエレノアは許してくれない。
リアは踵を返し、先導して走っていく。
「行かせると思うか?」
まるで死神に語りかけられているかの ような気分だった。 再び死の気配が近づいていくのを感じるリアだったが、リアは構わず走った。
「撃てぇえええ!」
「「「「!?」」」」
人間側の伏兵。エレノアの号令の直後、大気が連続して爆発する。 銃撃だ。
扇状に包囲された新生魔王軍達は目で追えぬ銃弾を前にたたらを踏んだ。 逃げ場は一見無いように見えるが、
(あそこならギリギリ押し通れるか……!?)
包囲網の端。兵の密度が僅かに薄い。 リアは先導して駆けるが、ふと視界にエレノアの姿が映る。
エレノアは急ぎ、リアが突破しようとした場所に兵を向けようとするが……声色とは別に、顔に焦りは無い。 これは……罠だ……!
「湖です!湖に飛び込んで逃げるのです!」
「「「「はぁ!?」」」」
幸い、ここの湖は広大。泳いだ先まで陸から迂回して追いかけようとするならば相当な悪路と長い道のりを辿らなければならない。 勇者の血筋ならともかく、並の人間が追いつくことは不可能。 逃げるにはここしか無い。ただし、果ての見えない向こう岸まで泳ぎきることができればの話だが。
「おい、どうする?」
「どうするって……ええい!しょうがねえ!行くぞ!」
「こうなりゃヤケだぁあ!」
リアに続き、他の魔族も決意を固めて続々と湖に飛び込んでいく。
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