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22取り引き

見てくださってありがとうございます。

「さぁ、話を聞かせてもらいましょうか?この街に忍び込んで一体何をするつもりなんで?」


リリエラの問いかけに、ビルは不敵に笑って答える。


「ふふっ、状況は思ったよりも切迫してるようだね?」


キン。

銀の一閃が走ると、ビルの視界にかかっていた前髪の一部がハラリと落ちた。 そして、前髪の代わりに視界に入ったのは剣の鋭い切っ先。


「この状況を終わらせてもいいんスよ?」


「でもできない。俺達こそが唯一この状況を解き明かすことのできる重大な手がかりだから」


「……本当、肝の据わったおにーさんっスね……眉間に剣を突きつけられて眉一つ動かさないとは……」


肝が据わっているわけではない。感覚が現実に追いついていないだけだ。少しでも意識すればズボンに鮮やかな黄色いシミが出来上がる自信がビルにはある。


「おにーさん達が唯一の手がかり……つまりは内部に潜んでいる魔族はそこのお嬢ちゃんだけってことっスね。貴重な情報をどうも」


「そこで、俺達が何をしにここへ来たかって話に戻ろうか」


「へぇ……?」


「見ての通り、俺もニアも戦う力なんてありはしない。ならば、なぜ俺達がここに送り込まれたか?」


「できることといえば情報収集くらいっスよね?」


ビルは必死に表情を取り繕い、不敵に笑ってみせる。


「エレノア・ブレイドは留守にしてるんだって?貴重な情報ありがとう」


「!」


「情報収集ってのは半分正解。もう一つの役目は魔法による伝令だ」


「……なるほど。これは一本取られた。まさか網に引っかかったのはこっちの方だったとはね」


苦笑して頭をかいてみせるリリエラ。そして、


「がっ!?」


ビルの天地がひっくり返ったと同時に、背中に重い衝撃を覚える。 仰向けに倒されたビルはリリエラに胸倉を掴まれ、剣の切っ先を向けられる。


「吐け。お前達の他に魔族はどこに潜伏している?」


先ほどまでのようにリリエラは表情を取り繕うことをやめた。

ビルは自分に向けられる殺気を無理矢理スルーして話を進める。


「……取り引きをしてほしい」


「……応じると思うっスか?」


「いくらリリエラさん達でも街の人全員を守りきるのは無理でしょ?」


「!ちっ……最悪の展開っスね……」


「だけどニアはこうも命じられている。計画に支障が出た場合は早急に報告するようにと。つまりは、実行に移すのも中止にするのも俺とニア次第」


「……完敗っスね。わかりました。取り引きの話をしましょう」


リリエラはビルの拘束を解き、ビルを立たせてくれる。 リリエラの部下達は泡を食ったようにリリエラを問い詰める。


「リリエラ様!?よいのですか!?ただのハッタリかもしれないのですよ!?」


「このような大事なお話!団長に知れたらどうなることか!」


「いーんスよ。団長がこの場を自分に任せたんスから。責任は全部団長持ちってことで」


リリエラは冗談めかして言う。そして今度は真面目な顔で。


「所詮は状況証拠。確かにハッタリかもしれない。だけど本当の話かもしれない。自分はこの街の人が犠牲になる『かもしれない』を捨て置くことはできないっスけど、皆さんはどうお考えで?」


「「「「………………」」」」


リリエラの言葉に異を唱えることのできる者はいなかった。


「待たせましたね、おにーさん。取り引きとやらを始めましょうか」


「こっちの要求は二つ。俺達を逃すことと、エレノア・ブレイドの隊をこの街に帰還させること。エレノア・ブレイドの帰還は不測の事態による襲撃中止の辻褄合わせの意味合いが大きい」


「……おにーさんは襲撃に乗り気じゃないってことっスか?」


「……うん。この街の人達を盾にして話を進めておいて変な話だけど、こっちも生きるか死ぬかの瀬戸際だからね。気持ちの話をすれば、襲撃なんて絶対に嫌だよ。やれ人間だの魔族だのくだらない理由で殺し合うだなんて」


「くだらない理由……スか」


リリエラは目をパチクリとさせた後、ビルの言い分を理解したと頷いてみせる。そして、今度はリリエラが要求を告げる番である。


「こっちの要件は一つ。この街の襲撃そのものをやめさせること」


「それって……中止ってわけじゃなくて?」


「当然っスよ。騎士が魔族を見逃すんスよ?それくらいしてもらわないと釣り合いが取れないっス」


「そんな……」


もちろん、この都市への襲撃の計画なんて初めから無いのでどうということもないのだが、ビルは無理を押し付けられた演技でリリエラの疑いをかわす。


「わかった。やるしかないみたいだし」


「取り引き成立っスね」


「うん」


リリエラは早速部下に指示を飛ばす。


「アン。団長に報告をお願いするっス」


「は、はい!ただいま〜!」


アンと呼ばれた赤髪の女騎士は、身体に淡い光を走らせると、おとなしそうな外見からは想像もつかない速度で街の外へと駆けていく。 人間の身体能力を遥かに超えたスピード……勇者の血筋。聖力によるものだ。


「他の者は引き続き見回りを続けてください。一応、警戒は怠らないようにお願いするっス」


「「「「はっ!」」」」


「………………」


……乗り切った。絶体絶命と思われた最悪な局面を何とか乗り切ることができた。 後はエレノア・ブレイドの襲撃の中止が間に合うか……気がかりはそれだけだ。


「なら、詳しく話を詰めていきましょうか。二人とも、とりあえず屯所の方までお願いするっス」


「……分かった」


可能ならば今すぐにでもこの場から逃げ出したいところだが、焦ってはいけない。話が都合のいい方に進んでいるのは確かだが、綱渡りの状態は変わらないのだ。 だが、あと少し。あと少しでこの絶対的な危機を乗り越えられる。そんな淡い期待が、ビルの胸によぎる。

それから間もなく、一人の男によって全てをぶち壊されることも知らずに。

続きもお願いします。

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