20予感
見てくださってありがとうございます。
「……なんか嫌な予感がする」
宿を出て一番、浮かない顔でビルが呟いた。
「あっそ。行くよ」
「軽く流さないでくんない!?」
「面倒臭いんだけど……」
「そんなこと言わないでよぉ!」
「えーい!服を引っ張んないでよ!どうしたの!?」
「だから嫌な予感がするの!このまま行くのちょっとやめよ?」
「……こっちに来てからは割とマシだったのに、どうして今になってチキンモードなの?」
「分かんないよ。ただ、さっきから背筋に悪寒が止まらなくてさ……嫌な感じがするんだよ」
「…………しょうがないなぁ」
行動を共にする前なら一蹴したであろうビルの頼みをニアは受け入れる。
「で?出発を遅らせればいいわけ?」
「!ありがとう、ニア!」
パァッと花の咲くような笑顔で、ビルはニアの手を取って感謝を告げてくる。
「でも!合流は今日の昼以降なんだから!あんまり遅れるのはダメだからね?で、いつ出発するわけ?」
「そうだなぁ…………」
ビルは上を見てしばし思案する。が、やがて、さっきと同じ困り顔へと変貌を遂げた。
「あの……待ったら待ったで今度は別の嫌な予感が……」
「フン!」
ドスッ!
「ゴフッ!?」
ニアの拳がビルの鳩尾に突き刺さる。 糸の切れた操り人形のように地面に沈むビル。
「ふざけんのも大概にして。行くよ」
「ガハッ……は、はい……ゼヒューッ……」
ビルは結局ニアの暴力に屈し、二人は移動を開始する。
必要な物資は全て四次元ポシェットにしまってあり、ポシェットもニアの細いお腹に括り付けてある。 あとは街を出るだけだ。
ビルの不吉な予感など、注意を深めれば事足りる。そう思っていたニアだったが、街を進む内に一つの違和感に行き当たる。
それは隣を歩くビルも感じ取ったようで、
「ニア……なんか騎士の様子変じゃない?」
「確かに……少しピリピリしてる感じがする……」
ニアもビルもこの街の騎士を見るのは数えるくらいのものだが、それでも今回の騎士達の様子は普段と違うことを感じた。 騎士達は普段通りを装っているらしいが、歩く速度は明らかに早いし、表情には一切の感情を悟らせないくらいにフラット。何より顔こそあまり動いてはいないものの、瞳の向かう先は忙しなく動き回っている。
その様子はまるで、異常が無いかを見回っているのではなく、どこで異常が起こっているのかを探しているような……ある種、確信めいたものに基づいた行動に見て取れる。
「ねぇ、ビルの嫌な予感って当たるの?」
「?逆に外れることってあるの?」
「………………」
つまりはビルの予感は天性のものであるらしい。 であるなら、あの慌て方にも納得がいく。
ニアは慣れない頭を働かせる。 恐らくは予感が当たるとすれば、人間に囲まれたこの街で問題が起こることが予想できる。だとするなら、
「今すぐこの街を出て皆の所に戻ろう」
「え?」
「あんたの予感通り、これから問題が起こるとしたら、この街で起こるのが一番致命的。違う?」
「そ、そうだね……一理ある。どうしたの?そんな急に頼もしくなっちゃって……」
「あんたが急に頼りなくなるからだし!」
方針は決まった。
「さっさと行くよ」
「うん……」
ニアはいつもより帽子を目深に被り、ビルと離れ離れにならないように手を繋いで歩いていく。
普通にしていれば大丈夫。分かってはいるものの、どうしても歩みは早くなってしまう。 街を出るまであと少し。そう思ったところで、ビクリとビルが身を竦ませ、背後を振り返った。
「……?」
ニアもつられて振り返ってしまう。そして、気づいてしまう。 目の前を行き交う人垣の中。その中に一つ、確かに向けられている二つの瞳。
ゾクリと、先ほどビルの感じたであろう悪寒がニアの背筋を走る。
「ニア、振り返らないで。そのまま歩くよ」
「う、うん……」
ニアはビルの指示に黙って従う。
大丈夫。この人混みの中、自分達を魔族だと見破ることなど不可能だ。帽子だって外れる気配は無いし、耳もツノもしっかり隠れている。 絶対に大丈夫。ニアは必死に自分に言い聞かせるが、嫌な予感は消えてくれない。
そして、
「あのー、ちょっといいっスか?」
正面からそう声をかけられた時、ニアの予感は実感に変わった。
声をかけてきたのは小柄な少女。ニアよりは一回り大きいが、リアよりは一回り小さい。
少女は人懐っこさを感じる笑顔で話しかけてくるが、その視線は先ほど背後で感じたものと全く同じ。
こちらが視線に気づいたことに気づき、目にも留まらぬ速さで正面に回り込んだのだと推測できる。 そして、何よりも少女が身に纏う騎士服が、この少女がこちらにとって最悪な相手だと告げている。
ギュッ。
「……?」
震えそうになるニアの小さな手が、ビルの大きくて温かな手で包み込まれる。
『大丈夫』そうビルの手が告げてくれる。その温もりは自分で言い聞かせた時よりもニアの心に力を与えてくれた。
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