14エレノア・ブレイド
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マルガリア帝国。現世界で一番の大国である。
マルガリア帝国の成り立ちについて。マルガリアは元々小さな集落であった。一見すれば何も特筆すべき点は無いのだが、ただ一つ、その集落には魔王を討った勇者であるマリウス・ブレイドを始めとする勇者の血筋を多く擁していたのだった。
その集落の勇者たちは魔族の討伐をかかげ、戦いを挑んだ。マリウスを中心とした勇者達の力は凄まじく、破竹の勢いで連戦連勝。いくつもの魔族の都市を滅ぼし、併呑していった。
やがてマリウスの元には多くの人間が集まり、肥大化し、マルガリア帝国と呼ばれるようになった。そして、マリウスが魔王を討ったことで、マルガリア帝国の地位は人間社会で確固たる地位を築いたのだった。
現在、マルガリア帝国を治めているのはマリウスの弟であるユリウス。ユリウスだけでなく、マリウスの血族はそのほとんどが帝国の重鎮として君臨しているのだが、何事にも例外はつきもので、エレノア・ブレイドは帝国の中枢から遠く離れた小さな要塞都市ボズにその身を置いていた。
要塞都市ボズ。かつては魔族との戦いにおいてその役割を存分に発揮していたのだが、魔族という敵がいなくなった今、その機能は持ち腐れになっているのが現状である。
現在は魔族の残党に備えてという名目で、かろうじて要塞としての色が残っているものの、いずれはその色も失われていくだろうというのが大方の考えである。
そんな政治的にあまり価値の無いボズにエレノアが身を置いている理由は誰にも理解されていない謎である。
*
日が暮れて夜も更けようという遅い時間。エレノアは執務室で黙々と書類仕事をこなしていた。
「………………」
淡く部屋を照らすランプの光。それに呼応するように彼女の金糸のような髪が煌びやかな光を発する。
薄暗い部屋の中でも分かるくらいに、白く磁器のように美しい肌。彼女の外見は完成された芸術品のような美しさがあり、老若男女を問わずに目を惹く力がある。
しかしながら、キリリと鋭い目元と人を寄せ付けない氷のような瞳が、見る者に美しさよりも近寄りがたさを印象付ける。
長時間椅子に座って仕事を続けていたエレノアは凝り固まった肩を脱力させ、一つ深く息をついた。
そこへ、部屋の扉から控えめなノックの音が響く。
「入れ」
「失礼しまーす」
張り詰めたエレノアとは対照的な、気怠げに間伸びした女の声。
入ってきたのは小柄な女。軽薄そうな表情とかっちりとした騎士服のアンバランスが印象的である。 名をリリエラという。
リリエラは仕事を続けているエレノアを見ると呆れたように溜息をついた。
「まーだ仕事やってんっスか?いい加減休まないと身体壊しますよ?」
「問題無い。大丈夫だ」
エレノアは仕事の手を止めることなく事務的な答えを返す。
「やめる気は無いと……」
リリエラはもう我慢できないと頭をかきむしる。
「あぁもう!仕事仕事仕事ばっか!年頃の女なんスよ!?他にやるべきことがあるでしょう!?」
「やるべきことで思い出したが、リリエラ。調査の報告書、まだ出ていないぞ。期限は今日までのはずたが」
「自分のことはいーんスよ!」
「………………」
良いわけないのだが、エレノアはリリエラの開き直りに怒るよりも呆気に取られる。
「もう魔王はいないんです。そこまで根を詰め続ける必要なんて無いじゃないっスか」
騎士の立場で言って良い言葉ではないが、リリエラの口にしたことは一般論だ。
己への気遣いから出てきた言葉なので、エレノアは咎めることはせずに会話に応じる。
「どうかな。私は今の世界の平和が続くとは到底思えない」
「……デウス教徒っスか?気にしすぎだと思いますけどね」
「……理解は求めていない」
デウス教徒。魔王との戦いを経て、勇者の血筋に劣らない人間界の救世主。
世間が手放しでデウス教徒を賞賛する中、エレノアは疑いの目を向けていた。
このエレノアの疑いを理解してくれる者はエレノアの周りには一人もおらず、リリエラもその例に漏れなかった。 エレノアもエレノアで理解を求めることは半ば諦めている。それほどまでに、デウス教徒の立場は強い。
「実際、デウス教徒がいなかったら魔王の討伐も、新しい国の運営も成り立たなかったじゃないっスか。人間にとって害のある集団には思えないっていうか……警戒する意味が分かんないっスよ」
「それは言い換えれば、デウス教徒が帝国の打倒に舵を切った場合、今の平和ボケした帝国に凌ぐだけの力は無いということだ」
リリエラはエレノアの突飛な考えに深く溜息をついた。
「自分らが平和ボケしてるってなら、団長はいつまで戦争やってんスか?世界は変わったんです。団長もいい加減に平和を受け入れて新しい人生を楽しんでみればいいじゃないですか」
「人生を楽しめと言われてもな……どうすればいい?」
「ぅえ?えっと……恋……とか?」
「恋…………ふっ」
「あぁ!鼻で笑った!自分別に変なこと言ってないし!」
エレノアはしっしとリリエラを手で払う。
「くだらん。恋など私には無縁だ」
「……この残念美人め」
リリエラの恨みがましい視線を涼しげに受け流し、エレノアは書類仕事に戻る。
「仕事はもう少しで切り上げる。世話をかけたな。エレノア」
「……なら、いいっスけど。ちゃんと寝てくださいよ?」
本当に切り上げるつもりがあるのかと瞳には疑いの色が残っていたが、リリエラはおとなしく引き下がった。
「…………ふぅ」
再び誰もいなくなったら部屋でエレノアは黙々と仕事を進める。エレノアがしっかりと休めたのはそれから一時間後のことだった。
次の話でエレノアとビルが出会います。どんな出会いになるのでしょうか。続きもお願いします。




