13ニア
見てくださってありがとうございます。
ベンチで休憩してから一時間程経って、ようやくビルはベンチから立ち上がり、凝り固まった身体を伸ばしていく。
ニアもビルに習ってピョコンと立ち上がると小さな身体をうんと伸ばした。
「いこっか?」
微笑んで差し出されたビルの手を、
「うん」
はにかむような笑顔で応え、ビルの手を躊躇いなくとった。二人の手は、宿に着くまで離れることは無かった。
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二人の泊まる宿は商業区の外れにある小さな宿。
どうやらこの街は宿を必要とする者があまりいないようで、宿そのものの数が少ない。
ビルとニアの泊まる宿は全て空室で繁盛していないせいか、宿の主人の愛想はすこぶる良い。
宿の雰囲気は落ち着いた感じで、柱や天井などのくすんだ木目を見ると年季が入っているのが分かる。
シャワーは共用ということだったのだが、事実上の貸切。ニアがシャワーを利用する際は、ニアが帽子を外した状態で主人と出くわさないよう、ビルが見張り役をする一幕があった。
蛇足であるが、ポロリは無い。
夕食を終え、後は寝るだけ。 小さなランプの明かりを残して、ビルとニアはダブルベッドに並んで寝転んだ。
ちなみに、ニアは現在パジャマ姿なのだが、
(可愛いな……)
小さな体躯のニアを包み込むようなモコモコのパジャマ。人間には無い角と尖った耳を隠すのはナイトキャップ。
「……なんでそんなに見るの?」
無意識にずっと見つめていたらしい。
「……ごめん。あまりにも可愛いから……」
「ぅえ!?」
ビクリと痙攣を起こしたようにニアの身体が跳ねる。
今のニアからは当初のトゲトゲしい感じは抜けており、人間を前にした時の強張りもほぐれ、シャワーの後でリラックスした状態。 簡単に言うと、無防備で気を許している状態。
そんな歳相応の無邪気であどけない表情とモコモコのパジャマを身に包んだニアは、ビルが今まで見てきたニアの中で一番可愛く見えた。
「ほっぺツンツンしていい?」
思わず変態な言葉を口走ってしまうほどに。
「何言ってんの!?バカじゃないの!?」
一度可愛いと思ってしまうと、この憎まれ口すら微笑ましい。 ニアは困ったように怒って、話を打ち切るように言う。
「……もう寝るよ?」
「うん」
ビルはまどろみに任せて目蓋を閉じた。
ギュッ。
「……?」
もう癖になってるのか、ニアが布団の中でビルの服の裾を握ってくる。
「…………ふふっ」
本当なら頭を撫でて愛でたいところだが、自重する。
ビルは気を取り直して目蓋を閉じる。
歩き回った身体の疲れと無意識に張り詰めていた気の疲れが瞬く間に睡魔と化してビルの意識を刈り取ろうとしたところへ、 クイクイ。
「…………んぇ?」
水底から浮上するように戻る意識。見れば、ニアがムスッとした顔をしてこっちを見ている。
「……なんか喋って」
「えぇ……?寝るんじゃないの……?」
そう言われても困る。ビルはもう眠るモードになっているのだ。
「寝ようよ……俺もう眠いよ……」
「寝ちゃダメ。わたしが眠るまでなんか喋って」
「そんな……」
どうやらニアは目が冴えてしまっているようで、瞳から眠気が一切感じられない。 正直、睡魔と戦ってまで付き合いたくないのがビルの本音であったが、
「……寂しいの?」
「………………」
少しの沈黙があって、やがてニアはコクリと頷く。
「……寂しいのは辛いよね」
「…………うん」
寂しい辛さはビルのよく知るところ。ニアを放っておく選択肢がビルの中から消え失せる。
「俺がママと別れて凄く寂しかった時さ、リアさんに優しくしてもらったんだ」
「ねーさまが……?」
「そう」
お伽話に興味を惹かれる子供のように、ニアの目が先をせがんでくる。 ビルはリアとのやり取りを思い出しながらニアに聞かせてやる。
「……信じられない。ねーさまがそんな優しいなんて……」
「えぇ……?驚くこと?ニアには優しくないの?」
「優しくないよ!ちょー厳しいよ!」
ニアはリアと共に魔王の側仕えであったのだが、どうやら仕事のできるリアとは対照的にニアはあまり仕事が得意でなく、且つ、サボり癖があるためリアから頻繁に叱られていたらしい。
魔王はニアに甘く、ニアの行いを笑って許していたそうなのだが、リアのお叱りはかなり厳しかったようで、ニアに数多くのトラウマを植え付けたのだとか。
ニアの口から具体的なことは語られなかったが、どうやら磔にされたり色々されたらしい。
「ねーさまってしっかりしてるように見えるけど、頭のネジ飛んでるからビルも気をつけた方が良いよ」
「うん……気をつける……」
まぁ、リザドンと戦わされた時点でリアのヤバさには気づいていたが。
それから、ビルとニアは眠気を忘れておしゃべりを続けた。最後に、
「ビルってさ、まおーさまと全然似てないよね。弱っちいし」
「……まぁね。見た目もこの通り人間とほとんど変わらないし」
父親の顔をうまく思い出せないが、自分と似てないことくらいは分かる。しかし、
「でも、今はビルがまおーさまの子だって少し分かる。まおーさまと同じところ見つけた」
「え……?」
「優しいところ」
「………………」
「あと、笑った時の優しい目元がそっくり」
ニアはビルの目元をツンツンとイタズラっぽく突いて笑う。
「…………そう」
まさか、自分と父親に共通点などあるだなんて考えてもいなかった。ビルは記憶を遡って父親の姿を探してみるが、朧げな姿しか見つからなかった。
ふと、虚しさが胸をよぎるが、目の前で楽しそうに笑うニアを見ると、それは消え失せ、気がつけばビルもつられて笑っていた。
ニアとこうして一緒に過ごす時間はビルにとって母と別れてから初めて楽しいと思える時間だった。
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