12やるじゃん
具合が悪くなって間が空いてしまいましたが、見てくれる方はいるでしょうか?よろしくお願いします。
「すごい……」
人間の都市を初めて目の当たりにして、ビルの出せた言葉はそれだけだった。
見たことのない大きな建造物の数々。視界を埋め尽くさんばかりの人、人、人。身体に響くは活気に満ちた人々の営みが織りなす喧騒。
ビルが隣のニアに視線を向けてみれば、ビルと同じく口を開けて呆けていた。
「……ニアもこういう所は初めて?」
「……ここまで大きい人間の街はね」
いつまでも立ち止まっていては通行人の妨げとなり、視線を集めてしまう。 ビルとニアは互いに寄り添うように都市の中へ足を踏み入れていく。
幅の広い石畳の上を所狭しと人が並び、流れるように進んでいく。
「「………………」」
ビルもニアも、この時ばかりは自分達の為すべきことを忘れ、目の前に続く光景を眺めることしかできなかった。
友人を連れて楽しそうに闊歩する者達。小さな子供を連れて微笑み合う夫婦。道の両脇には店が並び、活気に満ちた声で客引をする店員。 まるで異世界だ。
「とりあえず、腰を下ろして落ち着ける所に行こう」
「うん……」
二人は異世界の中を彷徨うように、街を歩いていく。
やがて辿り着いたのは大きな噴水公園。都市の中でもこの場所だけ毛色が異なり、大きな建物も無ければ、たくさんの店が並んでいるわけでもない。
「……都市の中にこんな所があるんだ……」
地面には丁寧に手入れされた芝の絨毯が広がり、遠くを見てみれば大きな樹木が並ぶ林道がある。
「あぁ〜もう疲れた〜」
ニアは倒れ込むように、ベンチで横になる。
「ニア。そこで少し待ってて」
「……?ん〜……」
公園には軽食の露店がポツポツと存在し、焼き菓子などの甘い匂いや肉の焼ける香ばしい匂いがビルの鼻腔をくすぐる。 ビルは手元の財布を確かめ、またそれぞれの店の様子を観察。中でも一番客のいない露店を見繕い、ビルは足を運ぶ。
ビルの向かった露店の店員は客引を行うことすらせず、退屈そうに新聞を眺めていた。
「へい、らっしゃい」
ビルの存在に気がつくと、店員は視線だけをよこして接客を始める。
ビルは乱雑に書かれたメニューを眺め、ぶどうのジュースとポップコーンを二つずつ購入する。
「800ゴルドだ」
「はい」
ビルは1000ゴルドの硬貨を二枚渡す。
「おい、一枚多いぞ?」
「いいんだ。それより、少しこの街に関する話を聞かせて欲しいんだけど……ダメ?」
「……答えられる範囲なら構わん」
「ありがとう」
ビルは安く泊まれる宿や、宝石を換金できる店、食糧を調達するための市場の情報を店員から聞き出した。
話は少し長くなってしまったものの、ビルの目論見通り、来客によって遮られることなくスムーズに情報を集めることができた。そして、
「この街って治安は良い方?」
「治安?」
「旅の途中に立ち寄った村で魔族の略奪に巻き込まれそうになってさ。それで気になって」
店員は災難だったなと苦笑してから答える。
「ここじゃ大丈夫なんじゃねぇかな。そもそも魔族なんかが立ち寄れる場所じゃねぇよ。ここは」
「?どうして?」
「この街には大きな軍の駐屯地がある。騎士の質も数も装備も半端じゃない。少し街を歩いたなら見かけたはずだぜ?」
「ふぅん……」
たまたまビルは目にしていなかったが、どうやら街を巡回している騎士はこの街に住む者にとってかなり身近の存在らしい。
「噂の勇者の血筋ってやつ?」
「そんなエリートは軍の中でも一握りくらいのもんだ」
しかしながら、ここの人間には魔族を退けるだけの力があるらしい。
「勇者の血筋でなくても、武器があるからな。使い方さえ覚えれば十分に魔族に太刀打ちできる。それだけここ数年の武器の進歩は目覚ましい」
この店員の口振りからすると、恐らく実際に目の当たりにしたことがあるのだろう。魔族を人間がねじ伏せるところを。
「まぁ安心していいぜ。いざとなったらあの方もいらっしゃることだしな」
魔族であるこちらとしては安心から遠ざかる情報なのだが、しかし聞かないわけにはいかない。
「……あの方?」
「勇者エレノア・ブレイド様。魔王を討った勇者マリウス・ブレイド様の娘さ」
「!」
それから店員の話は勇者エレノアの武勇伝に花が咲き、聞けば聞くほどにとんでもなく恐ろしい女であることが分かる。
一人で魔族の大軍を皆殺しにしたとか、聖剣でどこかの山を丸ごと消し飛ばしたとか、武勇伝というよりはおおよそ化物の所業としか思えないようなエピソードの数々であるが、人間側からすると英雄のような扱いらしく、目の前の店員もエレノアのことを話す時は楽しそうで好意的な印象をもっていることが分かる。
「いろいろ聞かせてくれてありがとう」
「なに、こっちもいい暇潰しになった」
店員は気の良い笑顔で答える。 耳の痛い情報もあったが、この街や人間のことを知ることができた。2000ゴルド分の価値は十分にある収穫だ。
「……さて」
少し長くなった。ぶどうのジュースがぬるくなってしまっただろうか。 ビルはニアの休むベンチに戻ろうとしたところで、
「あれ……?」
ニアがいない。ゾクリと背筋に悪寒が走るのとドンと腰に柔らかい衝撃を覚えるのは同時だった。 視線を下ろしてみれば、
「ニア……?」
ビルの腰にしがみつくように、ニアはいた。 ニアは潤んだ瞳でビルを睨みつける。 「一人にすんな……バカ……!少しの時間って言ったじゃん……!」
「……ごめん」
「ダメ……!許さない……」
ニアはもう放さないと言わんばかりにビルの服の裾を小さな手で強くギュッと握りしめる。 ニアが人間の街に戸惑っていたことは分かっていた。確かに敵地のど真ん中に長らく放置されたとなればこれだけ怯えてしまうのも無理は無い。 ビルは己の無神経さを反省した。
とにかくニアに元気を出してもらわねば……
「……ジュース……飲む?」
「………………飲む」
ビルとニアは揃ってベンチに腰を下ろし、揃ってストローをチューチューする。
「………………」
「………………」
ビルば自分の腰の辺りに視線がいくと、思わず苦笑してしまう。 ニアがカップを持つ手とは反対の手で、ビルの服の裾をつまんでいるのだ。
よほど恐い思いをさせてしまったのだという罪悪感とニアが自分を頼ってくれているという嬉しさに、ビルは心地良い戸惑いを覚える。
「…………で?」
「え?」
「……わたしを長いこと放っておいて人間と何を話してたの?」
「あぁ、それは……」
ビルは店員から得た情報をニアに伝える。 最初は渋い顔をしていたニアだったが、次第に氷が溶けていくように顔から険しさが抜けていく。 やがて、話を聞き終えた頃には、
「…………やるじゃん」
「……え?」
ポツリとだが、初めてビルに出たお褒めの言葉。 あまりにも予想外の言葉だったため、少し理解が遅れたが、
「ふふっ……ありがとう」
込み上げてくる嬉しさにビルは笑った。 その後は何を言うでもなく、二人はポップコーンを間に置いてパクパクと食べていく。
食べ終わってからも、二人は何も言わずにベンチに留まる。暖かい日の光を浴びてまどろみ、二人は身を寄せ合って旅の疲れを癒していくのだった。
これからニアとビルの距離が段々と縮まっていきます。続きもお願いします。




