11カムロ
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ビルとニアが人間の都市に向かった一方で、残った魔族は人間の寄り付かない森の深くで野営をしていた。
野草や川魚など食料を調達する者、人や魔獣などの脅威に目を光らせて巡回する者、身体を休める者、時間の過ごし方はそれぞれなのだが、
「………………」
ソワソワソワソワソワソワ。
挙動不審に意味も無く同じ場所をグルグル歩き回り、病的なまでに落ち着きがない者が一人。
たまたまそんな不審者に出くわしてしまったリアに、尋ねる以外の選択肢は無かった。
「……どうしたんですか?カムロ様」
不審者の正体は黒ずくめの女、カムロだった。 カムロは鋭い目をクワッと見開き、
「どうしたもこうしたもあるか!」
普段からは想像できない程に声を張り上げて言った。
「ビーちゃん……今頃きっと恐くて泣いているに違いないわ……待ってて……ママが今助けに行くからね!」
カムロは顔を隠していたスカーフを取り払い、その正体を露わにする。
「お待ちくださいユリ様!」
カムロの正体はビルの母であるユリだった。 光の無いどこまでも冷たい瞳は現在、子供のように感情が剥き出しの状態で、薄く涙が滲んでいた。
「というか、ボロが出るの早すぎじゃないですか?」
「今はいいの!ビーちゃんいないから!……ビーちゃんが……いない……うぅ……」
ユリは地に膝をつき、絶望に打ちひしがれた。ビルのマザコンも大概だが、ユリの子煩悩も相当なものであった。
「そもそも、ユリ様の存在がビル様の成長を妨げるからと正体を隠そうと言い出したのは他ならぬユリ様の方じゃないですか」
「それはそれ!これはこれ!」
「えぇ……?」
目の前の女の子は誰だ。初めて出会った時のユリともカムロとも違う。
「ビーちゃん……」
熱にうなされるような頼りなく震える手で、スチャ。ユリは懐から指人形を取り出し、指にはめる。 その指人形の顔はビルにそっくりで、
「クオリティ高っ!気持ち悪っ!」
というか、ビルそのものだった。ビルをそのまま縮小したかのような指人形に思わずリアの口調が乱れた。
ユリは指人形のビルと顔を合わせ、会話を始める。
「『ママ〜!』あらあらビーちゃん。しょうがないわね」
「なんか始まったんですけど……」
「『ママ〜お腹空いた〜!ご飯何〜?』ふふっ、今日はね、ビーちゃんの大好きなシチューよ。『やった〜!シチューだ!』」
「この人マジで恐いんですけど!?」
しかもビルの声真似が恐ろしい程にそっくりで、まるで指人形にビルの魂が本当に乗り移ったかのようで、ちょっとしたホラーだ。
「あの……カムロさんの人格はどこに行ったんですか?」
ユリは再び顔をスカーフで隠し、カムロとして振る舞う。
「……カムロというのは昔、私が人間の側に属していた時の忍の名だ」
「……勇者の血筋ですね」
「少し昔の自分に戻るだけ。ビルを魔王の道に送り出した時はそう考えていたが…………やっぱり寂しいよ〜!ビーちゃ〜ん!」
「出てます。ユリ様が出てます」
「くっ……!行き場の無い母性がこれほどまでに制御できないとは……!」
どれだけ母性を持て余しているのだ。
「仕方ない。またあのリザードマンを半殺しにして昔の冷酷な感覚を……」
「それはやめてくれませんか!?本当に死んじゃうんで!」
ビルを痛めつけたリザドンとビルに暴言を吐いた魔族をカムロはこっそりと半殺しにしていたのであった。
「ビル様が早く帰ってくることを願うしかないですね……」
カムロに八つ当たりでリザドン達が殺されてしまう前に、ビルの帰還を願うリアだった
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