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82 狙撃勝負

草原に出て、明確なルールが語られた。


「うりゃ!」


レイが近くの木を蹴ると、ボトボトと木の実が落ちてきた。


「そんで、この固い木の実を、投げるッ」


レイが、次々と木の実を投げる。段々と遠くなっていくようで、最終的には全力投球。まったく見えない遥か彼方に飛んで行った。


「2キロくらいは飛んだか」

「いや化け物すぎるー!」


レイの独り言にたまらずエフテルが突っ込んだが、スルーされた。


「20個投げた。交互に撃って、外したら負け。分かりやすいだろ」

「ああ、いいね。単純で、実力もわかる」


ロンタウも納得のルールのようだ。


「そこの…一番ちっこくてうるせえガキは、当たったかどうかの判定をしろ。どっちかが外したら戻ってこい」

「え、ちっこくてうるさいガキってあたし?」


嫌々ながらも、一番間近で見ることができる役回りということで、トボトボと木の実の元へ歩いて行く。

最初の地点も十分遠いな。

100mほどか。


「悪いな指導役、手は抜かないぞ」

「あい…適当にやるよ」

「いや、真面目にやってほしい。ロンタウは、噂に聞く特級狩人の実力を見てみたい」


そう言うロンタウは真剣な眼差しだ。そこまで言われてしまえば、わざと負けるなんてことはできないな。

そもそも、レイが投げた木の実は20個。お互いが10回外さなければドローだ。それがいい。


「じゃ、ハンデとしてお前から撃っていいぞ、2級」

「ちっ、いちいち腹立つ野郎だな…指導役とは大違いだ」


地面に腰掛けたロンタウは、碌に狙いもせずに、片手で銃の引き金を引いた。


「あ?やる気あんのか?」

あまりの適当さにレイが苦言を呈するが、エフテルは戻ってこない。

つまり、ヒットだ。


「すげえ!ロンタウ姉さんすげえよ!ただのサービス精神旺盛な女じゃねえ!」


興奮しているコウチの後頭部にはカーリの拳骨が落ちた。


「ほう。少しはやるな。じゃあ、次相棒。さっきより少し遠いが…外すなよ」


レイからは凄まじいプレッシャーをかけられる。


「カーリ、ちょっと片手じゃきつい。手伝ってくれ」

「はいぃ!わたくしが、お師匠様の射撃のお手伝いを!」


カーリが喜色満面の笑みで駆け寄ってくる。


「やっぱいい…ひとりで撃つ…」

「はぅん…なぜ…」


精密な動作を要求される勝負だ。そんな興奮して息が荒い人間じゃ困る。

ロンタウの銃は狙撃用なので、銃身が長く、片手で構えるのは非常にキツイ。

だが、まあ、先ほどのロンタウのように、不可能ではない。

木の実は…あそこか。まだ見えるな。

引き金を引く。


「お姉ちゃんは戻ってこないね」


まずは成功…と。安心した。腕はなまっていない。


「じゃあ次はロンタウだな」


ロンタウが言うので、彼女に銃を渡す。

というか、貴重なカートリッジをこんな遊びで20本も消費することになっているんだが、ヒシガツマ村なら豊富に購入できるからいいのか?

当然のようにヒットさせるロンタウ。

次は俺の番だが、俺も当てる。

そのやりとりが10回以上は続いて、最早木の実どころか近くに立っているはずのエフテルすら見えない。

いつの間にかアオマキ村の住人も何度も続く爆音につられて、観客が増えている。


「すすす、すごいですわ!お師匠様はマルチウェポンと呼ばれる全ての武器を使いこなす狩人だとは聞いていましたが、現役を退いてなお、この腕前!このカーリ、感動が止まりませんわ!」 

「確かに、やるな、指導役。ロンタウにここまでついてこれる狩人がどれだけいるか」


カーリはもう、ずっと興奮している。

ロンタウに褒められるのは、悪い気はしない。しかし、そろそろ本格的にやばい。


「ロンタウは、まだ木の実は見えているか?」


俺は見えない。


「ああ、見えてる。最後の、20個目の木の実までバッチリな」


ほらー、勝てないんだよこんな化け物じみた視力の人になんかさ。


「相棒、負けたら俺様と特訓だぞ。10年くらいな、ガハハハッ」


つまり負けたら“四極”の指導役は辞めろと。

じゃあ、頑張るしかない。

ロンタウが、17回目の射撃を決める。

しばらく待ってもエフテルが戻ってこないので、命中したということだ。

周辺の観客から歓声や拍手が聞こえる。


「ほう…」


ここまで来ると、流石のレイも少し真面目な表情になってきている。

次、俺が18回目の射撃を行う。

最早何も見えない。


「見えねー…」

「見えないのか?」


やべ!独り言がロンタウに聞かれた!


「そうかそうか、ロンタウの勝ちだな!」


なんだかんだと嬉しそうなロンタウ。レイも納得したようで苦々しい顔で黙っていた。


「おい、勝手に負けにするな。競っているのは視力じゃない、射撃の腕だ」


俺もどうやら負けず嫌いのようだ。

弾丸は、遠くになればなるほど、落下していく。

ここまで遠距離の射撃となると、やや上に銃口を向けての射撃となる。


「ちょっと、アルカ、こっち来て手伝ってくれ」

「ん」


精密な動作だ。ほんのわずかに銃口がズレただけで狙いがズレてしまう。

流石に左手一本で震える腕では当たらない。


「もうちょっと、上で…左の…そう、そこ。そこで固定しててくれな」


俺はアルカに銃身を支えてもらい、引き金を引いた。


「お師匠さん。見えないのにどうやって当てるってんだ」

「視力以外にも色々あるだろ、勘とか」

「勘で当たるか!」


コウチに突っ込まれる。

全員諦めているようで、レイすらも不機嫌な表情を浮かべている。

さて、ヒット確認のため、少し待つ。エフテルが戻ってこなければヒットしているということになる。

しかし、元々はレイが提唱してルールなので守っているが、実はその必要はない。

何故ならロンタウには見えているからだ。


「なあロンタウ。当たったよな?」

「当たっ…た。確かに、直撃ではないが、弾は木の実に当たったよ」


驚きの表情を浮かべているロンタウ。しかしすぐにそれは笑みに変わる。


「面白い。じゃあ、ロンタウの最後の手番だな」


19発目。

ロンタウの最後の射撃だ。


「見とけよそこの特級。等級だけが全てじゃないことを見せてやる」


レイに言い放ち、ロンタウは射撃体勢に入る。

銃口は最早斜め上。

八方発泡魚を狙撃したときもこんな感じだったのだろうな。

いや、あのときは今よりも距離があっただろう。だったら、このくらい朝飯前だろうなあ。

炸裂音が響き、数秒。


「っし!」


ロンタウがガッツポーズした。

最早レイも、当たっているか疑ったりなどしていない。悔しそうだが、実力は認めたようだ。


「じゃ、最後俺な」


俺はロンタウから銃を借りる。


「指導役、勘じゃあ2回は当たらないぜ」


ロンタウは呆れたように銃を渡してくるが、俺も負ける気はない。


「じゃ、最後はカーリに手伝ってもらおうかな」

「は、はいぃ!」


この場の緊張は限界を迎えている。

村長なんかは一言も喋らないし、ロンタウに興奮していたコウチも感嘆の声を漏らすことすらもできなくなっていた。

アルカはいつも通り無言だが。観客も皆、固唾を飲んで見守っている。


「ちなみに、エフテルはどうしてる?」


カーリがこちらに来るまでの間に、唯一見えているロンタウに訊ねる。


「興奮してるんじゃないか?さすがにここからじゃ豆粒だから、飛び跳ねていることしか分かんないな」


そうかそうか。

予期せず始まった勝負だったが、全員を楽しませる良いレクリエーションになっただろう。


「お、お師匠様、ててて、手の震えが、緊張で止まりませんわ!」


極寒の地にいるかのように震えているカーリ。俺が座っている目の前で銃を支えているのだが、ブルブル震えている。

別にそこまで緊張する必要はないんだが…思わず苦笑してしまった。

しょうがない、緊張をほぐしてやるか。


「カーリ、耳貸してくれ」

「は、はい…」

「カリシィル。力を貸してくれ」

「…!はいッ!」


傍から見たら、急に力が入ったカーリに驚くだろう。

しかし、それだけカーリは、本名に意味を持たせている。

なんだかカーリを載せている膝がびしょびしょになってきているが、俺は紳士なので指摘しない。

なんであれ、震えは止まった。

先ほどアルカに指示をしたように、銃を操作してもらう。


「じゃ、撃つぞ」


バァン!という音が草原に響き、数分間、全員が黙っていた。


「師匠ーーーーー!」


エフテルが戻ってきた。俺と、ロンタウを除いて全員がため息をついた。


「さすがに奇跡は二度はおきねえか」

「コウチ!お師匠様のせいではなくて、これはわたくしのせいですのよ!」

「そうかもね。はぁ。こんなお嬢様じゃなくて私なら外さなかったかもね」

「うううううううう…!」


アルカ、カーリをいじめてやるな。

エフテルが俺達のすぐそばまでやって来る。


「師匠!すごいね!最後の木の実も撃ち抜かれたよ!」

「えぇ!?」

「流石俺様の相棒だァ!」


レイに背中を思いっきり叩かれ、吹っ飛んだ。


「指導役、聞かせてほしい。どうやって見えもしない木の実を撃ったんだ?」


ロンタウは真剣に訊ねてくる。そりゃ当然だ。今後の参考にもなるし、プライドの問題もある。まさか勘だなんて、ロンタウは思っていないだろう。

なので、真面目に答える。


「レイが木の実を投げる瞬間を注視していた。その軌道なら、どこに飛ぶのか。それで、おそらく木の実落ちているであろう場所を狙って、撃っただけだよ」

「んなッ!そんなことが、できるかッ!」

「できた。だろ?」


俺にそう返されては、黙るほかない。


「でもまあ、やっぱり狙撃の腕はロンタウの方が上だよ。俺がやったのは、今回のルールだからこそできたことで、実戦では通用しない。それに今回だって、もしも木の実を虫やら鳥やらに動かされてたら成立しなかったんだから」

「指導役…やっぱ、あんたは規格外、特級狩人だよ…」


ロンタウは草原に、仰向けに倒れ込んだ。

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