71 手がかり
ギルドで後処理を済ませた俺たちは、現在の居候先であるロンタウの家に帰っていた。
魔物討伐は、売るものが核くらいなので、依頼達成報告後にすぐ帰れるのが良いところだ。
「お、おかえり。無事に帰ってきたみたいだな」
服を着ているロンタウに出迎えられ、俺たちは今日の狩りの報告を行う。
夕食を取りながら、その日にあったことの報告会を行うのは、この村に来てからの日課となっていた。
「ま、砂漠で最初の大物狩りとしては悪くないんじゃないのか。なんならロンタウは、大事を取って撤退するのも指導役ならやりかねないと思ってたくらいだ」
「む、そこまで過保護ではないさ。それに、今回は特にこいつらの自主性を重んじてだな」
「自主性って?」
「事前情報だけを与えて、狩りの最中はほぼ口を出さなかった。最終的には、カーリが考えた作戦で倒したんだ」
「ふーん、やるじゃん」
ロンタウは、嬉しそうにしてくれている。感覚的には弟子あるいは兄弟のようなものだと思っているのかなと思う。多分、歳もそんなに離れていないだろうし。
「作戦といっても、方針みたいなものだけで…全然詰められていないお粗末なものでしたけども…」
まあ確かに現場判断が多分に含まれていた作戦ではあった。だが、
「4人も狩人がいるなら、狩りの方針だけでも決めないといけない。そして、それをやる人間は、プレッシャーを感じるものさ」
俺はカーリに悪いところがあったとは思えない。作戦も一応成功している。
「プレッシャー、ですの?それは、今までのお師匠様も、感じていましたか?」
「もちろん。それこそ、直近でいえば、八方発泡魚狩りの作戦なんて失敗だからな。まじでやっちまったと思ったよ」
俺は苦笑しながら話す。今だから笑えるが、あのときは死ぬかと思った…というより、死なせるかと思った。
「それに、俺が言っちゃうのもなんだが、作戦に対して、質問や異議を唱えない時点で、全員が合意しているってことだ。後になって文句を言うのは、卑怯だよな」
まあ、今回はカーリがやれるといったのに結局無理だったということについてアルカが文句を言ったという形なので、後出しとは少し違うが。
「だから、これからもどんどん挑戦していってくれ。なんなら、ローテーションで作戦立案係を回してみてもいい」
「あ、じゃあ次あたしがやってみようかな!」
こういうときに、いの一番に立候補できるのはエフテルの強みだな。
「毎回指導役が作戦立てて、それを弟子が実行するだけじゃあ誰が狩りをしてるのかわかんねえからな。そういうとこは、そろそろ独り立ちしても良いんじゃないか?」
ロンタウの言うとおりだ。
言い方は悪いが、いつまでも俺の操り人形ではいけない。少しずつ、独り立ちを促していかなければならない。寂しいけど。
「一番適正のある人間が引き受ければいいさ。幸い、全員良いところがある。エフテルもこう見えて地頭は悪くない。カーリだって、コウチだって、アルカだって勿論馬鹿じゃない。みんなで相談しながら、今後は狩りをしてみよう」
「はい!」
全員(1人は頷くだけだったが)の元気な返事が聞けたところで、今日の反省会と今後の話は終了。
話は雑談にシフトしていく。
「そういえばロンタウさん、足はだいぶいいの?」
エフテルが訊ねる。
最近のロンタウは、2本の杖を使って移動している。地面に足を付けているところも見かけるくらいだ。
「おう、おかげさまで、杖があれば、立つことくらいはできるようになったよ。まあ、相変わらず階段は上がれないから、1階から動けないし、狩りにもいけないんだけど」
俺たちが初めてこのヒシガツマ村に来てから、もう1ヶ月は経つだろう。
完全に治る日も、そう遠くないのかもしれないな。
「ロンタウ姉さんって、基本は狙撃で遠くから狩りをするタイプなんだよな?」
「ま、そうだな。カートリッジの節約がてら、安全にやってるよ」
「でも、大怪我をしたんだろ?なんでだ?」
コウチも好奇心だけで聞いているわけではないだろう。
狩人のこういう情報交換は、自分にも活かせる部分があるから共有するんだ。
「ちょーっと恥ずかしい話だから、あんまり話したくねえんだよなあ…」
頭をガシガシと搔きながら、少し頬を赤らめつつも、話を続ける。
「あのときは、漁師擬きっていう危険度5の獣を狩るときでな。いつも通り遠距離から伏せながら狙ってたわけよ」
漁師擬きは、水深の浅い水辺に生息する獣だ。
シルエットは人間だが、足は4m、腕は2mほどあり、水底に立っている。
主に水中の魚類を主食としているため、その一生を水上で過ごす。
そのため、陸上から攻撃を加えることが困難であり、おのずと遠距離攻撃か船上戦を強いられる獣だが、ロンタウの狩猟スタイルなら問題なく討伐できる相手だ。
「で、なんか足に違和感を感じると思ったら、セルに飲み込まれててよ」
「セルに飲み込まれる!?」
全員が驚く。俺も含めて。
セルは薄皮のようなものが張られているので、足を中に突っ込もうとしてもパシャっと潰れて終わりだ。
「いや、まじで、そうとしか言えなくて。ロンタウの足がセルに飲み込まれてんの。それこそ核が足に当たるレベルで。狙撃に集中しすぎて、全く気付かなかったんだよな」
とりあえず頷き、話の続きを促す。
「そんで、慌てて振り払おうとしても足が動かないし。しょうがないから、たかがセルなんかに1発、弾をお見舞いしようとしてやったら逃げられるし。漁師擬きに気づかれて攻撃されて足は折れるし散々だった」
「待ってくれ、漁師擬きに攻撃される前から、足が動かなかったのか?」
「ああ、そうだよ。麻痺って感じでもなく、感覚がなくなってな。一瞬セルに足を溶かされたのかと思って焦ったよ!ははは…って、なんだその顔。今のは笑うところだぞ」
無理だ。それどころではない。
なぜならそれは、あまりにも俺の右腕の状況に似すぎている。
「ロンタウ、丁度いい機会だ。俺のこの右腕について、話しておこう」
俺はロンタウに、何故このような腕になってしまったのか、指導役をやっているのかなどを説明した。
弟子たちはこの辺は既に聞いた話だが、緊迫した表情で聞いてくれている。
話を聞いたロンタウは、俺が言いたいことが分かったようで、真剣に議論してくれる。
「なる、ほど…。でも、ロンタウの足は動くし、感覚もある。ホントにその一瞬だけだったぞ?」
「でも、多分だが、お前を襲ったのはセルじゃない。セルは隠密行動なんてできないし、何かを飲み込むこともない。それはわかるだろう?」
「そりゃ、そうだが…そんなバケモンではなかったぞ…」
俺たちは勘違いしていたのかもしれない。あの正体不明の獣は、確かに牙も爪も持っていた四つ足の獣だった。だが、背中から伸びていた触手、つまり魔物が本体だったとしたら…ロンタウが襲われたそのセルのような魔物は、“双極”を壊滅させた敵の幼体だったとは考えられないか…?
「これはギルドに報告した方が良いことかもしれませんわね」
ギルドでは特級狩人以上で調査隊を組み、初の危険度7となった例の獣…魔物かもしれない可能性も出てきたが、そいつを探している。
そのこともロンタウに説明した。
「んだよ、そんなこと全然知らなかったぞ…。特級にもなれない狩人は蚊帳の外ってか」
悔しそうなロンタウ。狩人である以上、まだ見ぬ存在を狩ることへの憧れはもちろんあるだろう。
ギルドとしては、特級狩人2人が負けたのだから、混乱を避けるためにも、実力的に対応しうる特級狩人に絞って情報制限しているということだ。
「てか、悔しいよな。指導役をそんな腕にした奴は、今や危険度7で、特級狩人しか挑めない。リベンジもできねえってことだろ」
「ん?ああ、ごめんロンタウ、俺は特級狩人だから」
俺はロンタウに黒い狩人免許を見せる。
「うええええええええ!?狩人にとっては憧れも憧れ、伝説といっても差し支えない存在がこんなところに!?!?」
足が治ってもいないのに、驚きのあまりゴロゴロと転がって壁にぶつかった。
いやそこまで驚かんでも…。
「これから、ロンタウは指導役に敬語を使うべきでしょうか…」
「やめろやめろ、所詮元狩人だし、仮に現役だとしてもそんな配慮は嬉しくない」
「そ、そうか。じゃあ、指導役はその危険度7のヤツに仕返しするのが目標ってわけだな」
「んー、いや。俺は実際、もう現役には戻れないと思ってる。さっきも言った通り、この右腕、もう2年以上になるが全く動かないからな」
「ん、そうか…」
狩人が望まずに引退するところも、2級ともなれば何度も見てきただろう。そのような連中にかける言葉は、なんというか、見つからない。
志半ばで引退を余儀なくされ、夢を失った者に、安易な慰めなどどうしてかけられようか。
だが、俺には、新しい希望がある。
「でも、俺の仇はコイツらがとってくれるらしい」
俺は笑いながら弟子たちを指さす。
「そう!あたしたち“四極”の最終目標は、特級狩人になって、師匠の仇をとることなんだよね!」
エフテルが立ち上がり、ビシッと決める。
「ぶっはっは、そりゃいいなぁ!」
ロンタウは噴き出した。
「ちょっと、真面目なんだけど。馬鹿にすると、許さないよ!」
拳を構えるエフテル。エフテルだけでなく、少しだけ“四極”全員の視線が鋭くなる。
ロンタウは慌てて手を振り、弁明する。
「いや馬鹿になんかしてないよ!笑ったのは、悪かった。そういう意味で笑ったんじゃないんだ」
「じゃあなんで笑ったのさ!」
「いや、師匠思いの弟子だなあって。どこでこんないい奴らを見つけてきたんだ?」
ニヤニヤしながら、ロンタウは俺に訊ねる。
俺がなんと答えれば良いのか悩んでいると、ロンタウは胡坐をかいていた自分の太ももをパシーンと叩いた。
「よし、そのかたき討ち、このロンタウも協力しようじゃないか」
「え、ロンタウも?」
「ああ、だって、ある意味、俺のこの足の仇かもしれないんだろう?それに、そこのちびっこたちだけじゃあ、ちと不安だ」
ちびっこじゃない!と否定するエフテルを無視して、ロンタウは俺に近づいて来る。
「そいつらが特級になってるころにゃあ、ロンタウもとっくに特級だろうさ。先に見つけてやるよ。そんで、戦うときには駆けつける」
「なぜそこまでしてくれる?」
俺が訊ねると、ロンタウは後ろでギャーギャー言っている面子を優しい眼差しで見つつ、昔を思い出すように話す。
「ロンタウも、ソロで狩りをするようになる前は色々あってな。ま、有り体に言えば羨ましいのよ。だから、ロンタウも一枚嚙ませてもらう」
「それ、理由になってるか?」
「なってるなってる。それに、この村を救ってもらった恩義もある。あとは、ロンタウもそいつと戦いたい。そんだけさ」
じりじりとロンタウが近づいてくる。
「いや、でも流石にアイツは危険な相手で、無関係の人間を…」
「盛り上がってきたな」
俺の至近距離で、ロンタウが急に脱いだ。
「うわああああああああああ!」
「ッ!師匠!!!」
凄まじい速度でアルカが飛んできて、俺の顔に抱きつく。
「どうして今の話の流れでそうなりますの!!」
どうやらロンタウのことはカーリが取り押さえたみたいだ。
「コウチくん、こっち見たら、彼女さんにチクるからね」
「はい、見ません」
コウチはエフテルに脅されていた。
なんというか、強硬手段でうやむやにされた気がする。
でも、ロンタウが“四極”に味方してくれるというのであれば、心強い。
そのときが来るのかはわからない。でも、こいつらの仲間が増えるのは、純粋に嬉しかった。
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