64 ジェットバウンサー①
朝に読む方もいらっしゃるかもしれないと思ったので、試験的に、朝7時更新にしてみます。
皆様の閲覧状況を見て、続けるか戻すか決めます。
さて、ここで八方発泡魚についておさらいをしよう。
体の至る所に穴が開いている大型の魚。
穴からは水を噴き出して攻撃するとともに、それを推進力にして不規則に移動する。
その不規則な移動は陸上でも発揮され、飛び回るように浜辺を移動する。
体内の水が尽きたら死ぬので、それまでには水中に戻る。
「どれくらいの大きさなの?」
説明を聞いたエフテルが、訊ねてくる。
「かなりでかいぞ。10mは基本的にあると思ったほうが良い」
「でっかい!師匠が5人分くらい!」
「まあ…そうだな、俺2mもないけどな」
ともかく、巨体な割に高機動ということだ。
「弱点とかないの?」
「さっき言ったが、陸上でも行動はできるが、あまり長くは続かない」
「水中での弱点とかは…」
「ないだろ。獣とはいえ、魚だぞ」
相手のフィールドで戦うことになるから、船上戦は厳しいんだ。
「だが、特にエフテルには聞いてほしいことなんだが、遠距離攻撃として、水中から体を出して、船に向かって水の噴射を行うことがある。直撃すれば大怪我だが、基本は船体を狙ってくるから、そこまで回避に意識を割く必要はない」
飛び上がるのは一瞬だし、噴射後はそのまま水中に戻ってしまう。
だが、
「射出機で直撃が狙えるのはそのタイミングってことだね」
「そういうことだな」
エフテルならその一瞬の隙にも撃てると思っている。本人にはまだ言わないが、作戦の要その1だ。
狩猟船の設備の担当は、射出機がエフテルとカーリ。拒絶槍がコウチ、アルカは素早さを活かして何でもやってもらう。
「コウチの拒絶槍は、恐らくほぼ開幕に使うことになると思うから、覚悟しててくれよ」
「お、おう。任せてくれお師匠さん」
緊張した面持ちで己の武器である槌を握りしめるコウチ。まあ、緊張しないわけがない。
「カーリは大丈夫か?」
「練習では当たりましたから、きっと大丈夫…今も具合悪くないし、わたくしは大丈夫…」
何やら自分の世界に入ってしまっているようだ。
さて、1日でこのヒシガツマ村からアオマキ村に着くということは、半日もしないうちに八方発泡魚が縄張りにしてしまっているところまで着くということだ。
ブリーフィングを終えた俺たちは、それぞれある程度リラックスして狩りのときを迎えるようにしていた。
なんだかんだ未だに見慣れない海の光景は、やはり新鮮だ。
「お姉ちゃん、あそこ」
「よっと!」
アルカが指をさしたところで、20cmほどの魚が跳ねた。
それを狙って、エフテルが針を投擲、命中。
「いえーい」
「流石お姉ちゃん。的当ては上手だね」
「的当て“は”?まるで他はダメみたいな言い方するね…?」
姉妹は遊びがてら、練習をしているようだ。あの一瞬で動く的に当てることができるだから、本当にすごいと思う。
「でもエフテル、あんまり針を投げすぎるなよ。海の中じゃ回収不能だし、工房の親方に怒られるぞ」
「げっ、それはヤだ」
ムキムキの親方は声もデカいし力も強い。毎回締め上げられているハカは大変だ。
「師匠、船酔いしそう、ぎゅってして?」
「はいはい、ぎゅー」
ウエカ村長がギョッとしてハグする俺を見た。
「君たちって、そんなに親密だんたのかい?」
「いや、アルカがボディタッチが好きみたいで。変に拒否するほうが意識してるみたいだし、最近は普通に受け入れることにしてるだけ」
アルカは俺の胸に頭をぐりぐり押し付けている。自分の子供のように思えば、俺とアルカの間で潰れているやわらかいものも意識せずに済む…。
「そうかそうか、じゃあ、アルカちゃん、村長もぎゅーしてあげよう!」
ウエカ村長が両手を広げてアルカに迫る。
「師匠だけ!師匠だけ!」
アルカはウエカ村長に追い立てられて逃げて行った。
「カーリは、船酔いは大丈夫か?」
甲板に座って、静かに海を眺めていたカーリに話しかける。
お淑やかに座っているその姿は、正にお嬢様だ。
「あら、お師匠様。お気遣いいただきありがとうございます。ですが、これくらい大きな船だと、大丈夫みたいですわ。うちで所有している船と似たような感じですので…」
まあ小船だとよく揺れるしな。
「それとも、具合悪いと言えば、わたくしもアルカさんのようにしていただけますかしら…?」
「元気そうなら良かった!じゃ、もう少しだけ待機しててくれ!」
逃げるように…というか、逃げたんだが、次はコウチのもとへ行く。
コウチは、拒絶槍の作動スイッチとなる杭に向かい合って座っていた。
「コウチはなにしてるんだ?」
「拒絶槍を叩くイメージをしてた」
「え、ずっと?」
「ああ、コレを叩く自分をイメージして、如何なるときでも叩けるようにな…」
な、なにもそこまで集中せずとも…。
「気合入れて叩きすぎて、壊すなよ。お前の槌は普通のじゃなくて、危険度4の獣、七色剣山の槌なんだからな。本気でぶっ叩いたら、杭が砕けるかもしれんぞ」
「なッ…、そんなこともありえるのか…!イメージのし直しだ…」
再びコウチは杭に向かい合って、今度は目を閉じてしまった。
緊張をほぐそうとした冗談だったが、真に受けられてしまったか。
とりあえず全員の様子を見て回った。
まだアルカは村長に追い回されているが、いい準備運動になるだろう。
「狩人さんたち、間もなくヤツのいる海域です!準備をお願いします!」
甲板の一部がパカっと開いて、船員が顔を出して、言った。
色んなとこから船倉に行けるのね。
それはさておき、そろそろということだ。
「ウエカ村長、ちょっとこっち来て、肩を貸してくれ」
「あいよ!」
俺はウエカ村長によじ登り、マストに飛び移って、高いところから辺りを見回した。
10mにもなる巨体が、海面付近を泳いでいれば、魚影や波の流れがある見えるものだ。まして突進攻撃や噴射攻撃をしてくるというのであれば、なおさら。
「…いた。コウチ、準備だ。叩けって言ったら叩いてくれ」
コウチが槌を振り上げ、頷いたのを確認して、俺は意識を海面に戻す。
ウエカ村長から聞いた話によると、貿易船は突進攻撃で壊されるらしい。であれば、こちらの初手は拒絶槍だ。
「来る…もう少し………」
海面から見えていた影が消えた。潜ったんだ。
「コウチ、叩けッ!」
「おう!」
コウチが拒絶槍を起動する杭を槌で叩き、船体が爆発音とともに揺れた。
「お師匠さん、当たったのか!?」
「当てるものじゃないっていっただろ!」
俺はマストから降りて、次の行動に備える。
爆発以外では船は揺れなかった。ということは、拒絶槍によって突進攻撃は防ぐことができたということだ。
いつも通り突進して船を沈めてやろうとしたところで、槍が飛び出してきたんだ。獣は決して馬鹿ではないので、突進すると危険だということを学習しただろう。
「あ、お師匠様!」
カーリの声を聞いて、そちらに視線を向けると、海面から顔が覗いていた。八方発泡魚だ。
爆発音が響き、カーリが射出機による攻撃を行った。
しかし、八方発泡魚はすぐに海中に引っ込み、射出機から飛ばされた弾が当たることはなかった。
「へたくそ!今の方向だと、避けられてなくても当たってなかったよ!」
「うるさいですわね!遠距離武器なんて初めてなんですもの…!」
まあ、牽制にはなっただろう。
こうなると、海に済む獣は船に容易に近づかず、顔も出しにくくなる。
「で、あれば次は…きた!」
甲板に大量の何かが降ってきた。
よく見ると、それは小型の獣であることが分かる。
「師匠、なんか来たよー!」
「エフテル以外の全員、設備から離れて、そいつらの対処だ!」
「あたしは!?」
「万が一、八方発泡魚が顔を出して来たら射出機で撃て!」
降ってきた獣は、海岩獣。大型の獣に食料にされたり、今のように先兵にされたりする小型の獣だ。
1mあるかないかの四つ足の獣だが、体には貝やら海藻などが纏わりついていて、天然の防具となっている。
全部で15匹くらいが甲板に上ってきたな。
「弱いですわね」
カーリの回転刃が、甲板を這う1匹の海岩獣に突き刺さった。じたばたと暴れていた海岩獣だったが、すぐに動かなくなる。
「おらよっ!」
コウチは、横殴りで海岩獣を殴り、海に打ち返している。まともに相手をしないのも有効だな。
「ちっ、めんどくさいな…」
細剣のアルカが一番仕留めにくいな。やや苦戦しているようだ。
天然の防具である、貝や海藻の薄いところから、致命傷になるように細剣を突き刺す。
場合によっては、しゃがみ込んで敵と高さを合わせたりしなければならない。
「アルカ、黒草履と一緒だ。ひっくり返すのが楽だぞ」
「あっ、なるほど」
今までもさほど苦戦していたわけではないが、俺の助言を受けて、処理速度が上がった。噛みつきを避けて、足でひっくり返す。そして、腹を一突き。
今更小型の獣に苦戦する面子ではない。エフテル抜きの3人でも、全ての海岩獣を討伐もしくは撃退することができた。
「うん、さすがはウチの専属狩人たちだね」
ウエカ村長も甲板にいるので、その一部始終は見ていた。満足そうにうなずいている。だが俺は、村長も1匹、海岩獣を鷲掴みにして海に放り投げていたのを見ていたぞ。
「師匠!出た!」
海面から、八方発泡魚が飛び上がる。
初めて見えたその全身は、細長く、まるで腕のような前ビレが付いている。
「食らえ!」
エフテルが射出機から弾を発射する。
当たるかと思えたその弾は、八方発泡魚が空中で水を噴射したことで目標を外れ、遠くの海面に着水した。
「悔しい~!」
「エフテル、悔しがっている場合じゃない、来るぞ!」
大型の獣は己が生態系の上位におり、自分に敵う外敵があまりいないことを知っている。故に、好戦的。
このように、自ら狩人の前に姿を現すことも多い。
ビシャン!!と巨体が看板に落ちる。
船が大きく揺れ、どこかに掴まっていないと海に落ちてしまいそうだ。
揺れが収まったとき、甲板には八方発泡魚が鎮座していた。
「そっちから来てくれるなら大歓迎だ」
第一ラウンドといこう。
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