116 師匠の休日
“四極”の皆と、アオマキ村を歩く。
俺がこの村に来た当時は、酒場と狩人の家、工房くらいしかなかった村だったが、今ではまるで違う。
住民は増え、中規模な村くらいまで育っている。流石にヒシガツマ村には勝てないが、ここが数年前までは更地だったとは思えないほどの発展だ。
…と、言っても、俺もこの村に来たのはある程度のライフラインが整ってからなので、本当に何もなかったころからいたであろう弟子たちの方が感慨深いだろうな。
「で、どうやって回ろうか。村の中を全部見て回ってたら時間が足りないよ」
と、エフテルが言うくらいには様々な店もできている。
「じゃあ、それぞれのおすすめのお店とか、行きつけのお店とか。そういうところに行ってみようか」
実は俺達は殆ど休日は一緒に行動しない。するとしても、エフテルとアルカが自宅に遊びに来るくらいで、外出はほぼない。
なので、各々の休日を知ることのできるいい機会にもなるし、新しい店を見つけるきっかけにもなる。
「うん、いいんじゃないすか」
コウチが頷き、他の面子も特に声を上げない。
賛成ってことかな。
「じゃあ、年長者から順番にってことで!」
エフテルが俺を指さしてくる。なんか今微妙に“年長者”を強調された気がするが、俺が敏感になっているだけだろう。
さて、俺のおすすめの店か。
「うーん…」
実は趣味がほとんどない俺だ。
昔も、休日は武具の手入れや、工房などに顔を出していた。
この村でも休日の過ごし方は変わっておらず、工房や道具屋で時間を潰していることが多い。
自分で思うが、どんだけ狩人のことしか考えてないんだっていう感じだ。
「うーん…」
「え、そんなに悩む?」
あまりに長い間唸っている俺を見て、エフテルが突っ込んでくる。
「本当にどのような場所でも、わたくしは喜びますわよ!」
そう言ってもらえると助かる。じゃあ、道具屋に行くか。
「よし、じゃあ、目新しい店ではないが、皆で行ったことはない店ってことで」
俺が歩き出し、全員が後に続く。
「どこ行くんだ?」
「道具屋」
コウチの問いに答えると、全員から、苦笑のような、そんな雰囲気が流れた。
「師匠は狩人オタクだからね」
いつもアルカに言われる。
少し俺も自覚している。
「ま、全員で行ったことは確かにないし、いいんじゃね」
「ですわね」
良かった、皆否定的ではない。
「なーんで休みの日まで道具屋なんかに!」
1人の意見は無視だ。多数決。
ほどなくして、道具屋についた。
この道具屋は俺が来た頃には既にあった道具屋なので、アオマキ村の歴史の中ではかなり古い店だ。
とはいえ、品ぞろえは当時よりも格段に良くなっている。これも村が発展したことで、輸出入が盛んになったおかげだ。
「あまりわたくしたち、道具に頼った狩りはしませんわよね」
カーリが店内に並ぶ様々な道具を見つつ、言う。
「まあ、飛んだり足が速かったりするやつに騒慌玉を投げるくらいか」
コウチの言う騒慌玉とは、大型の獣に反応する騒慌虫という虫が入った玉のことで、主に追跡用に用いられる。
「狩人の最も基本的な道具の中の1つだからな」
止血や補肉用の肉虫に次いで重要な道具の1つだと思う。
折角追い詰めた獣を逃がしてしまうのは良くない。
「いつも投げるのはエフテルさんだな」
「あたし、得意ですから」
胸を張るエフテルの投擲技術はナイフや針に留まらない。投げる物なら大体うまく投げる。
「いつもわたくしがタイミングを指示していますけども」
「なに、そんなこというならお嬢様が投げても良いんだよ?」
エフテルは投擲技術こそ卓越しているが、未だに獣の逃走する瞬間を見極めることができない。
逆にその辺がうまいのはカーリで、いつも獣の機微を察知してエフテルに指示を出している。
まあ、良いコンビなんじゃないか?
「おお、懐かしい」
アルカが指すのは設置型の罠だ。中々にデカい箱である。
「懐かしい?」
「あ、そうか、お前は知らないか」
首を傾げるエフテルに対し、俺は納得した。
実は“四極”が罠を使ったのは炎愛猿戦が最初で最後だったりする。
そしてあのとき、罠を使ったときはエフテルは炎愛猿の巣の前の地中に埋葬されていた。
「どうしてわたくしたちは罠を使わないのですか?」
カーリが訊ねてくる。
確かに俺はあまり罠の使用を推奨していなかったな。
「準備に時間がかかる上に、誘導が必要だ。決まればデカいが、4人もいるなら普通に全員で殴った方が手軽だ。罠ってのは、ソロとかデュオのチームが使った方が効率良いんだよ」
当然罠代もかかるし、あとから回収する必要もある。まあ、とにかく手間なのである。
「じゃあ、今後も罠に頼ることはありませんのね」
「いや、そうとも言えないな」
「そうなんですの?」
「多人数チームの利点は、数の暴力だけでなく、チームをさらに分けることができることだと思っている。これから、4人を2人1組にして別々の獣を相手取ったりすることも想定される。そんなときに、コイツは役に立つこともあるだろうさ」
軽く叩いた罠が入っている箱は、カンっという軽い音を立てた。
「なんにせよ、俺はどんな戦法も否定しない。俺は俺が効率的だと思った戦術を言うだけで、それが最善とは限らない。自分たちで道具を用意して、作戦を立てるというのであれば、その意見は尊重するし、相談にも乗る。思考停止せずに、色々試してみてくれ」
まあ、この辺はエフテルやアルカにはあまり期待できない。基本的に指示待ち人間な気質な姉妹だ。
“四極”の参謀的ポジションを務めることが多いカーリ、最年長で戦況をよく見ることができるコウチなどは、真剣に考え、頷いてくれた。
「でも私、爆弾は好きだよ」
アルカが陳列されていた爆弾の容器を手に取る。
確かにアルカはたまに爆弾を使うな。
「まあ、手軽に火力不足を補うことができるからな。狩りが長引くと使えなくなるのが難点だが」
「そう、そこだけが残念」
爆弾の原料でもある魔燃料は、時間が経つにつれて液体から固体になっていく。そしてその形状変化が進むほど、爆発力も控えめになっていく。
炸裂機構に使うカートリッジは、常に液状の魔燃料を保つために特殊な加工をしているが、爆弾にはそれがない。
なので、せっかく爆弾を買っても数日経過すればただのゆっくりと燃える灯りのようなものに変わってしまう。
「炸裂機構があるからそこまで必要性を感じたことはないんだけどね」
とエフテルが言い、ジトリとアルカに視線を向けられる。
「お姉ちゃん、私たちが一番攻撃力低いんだからね。多分純粋な火力なら、爆弾に負けてるよ」
まあ針と細剣だからな。爆発力はないな。
とはいえ、アルカがそこまで考えて爆弾を好んでいるとは思わなかった。
思わぬ一面…というのは大袈裟だが、狩りに対する姿勢が分かったのは純粋に嬉しいな。
「む、師匠が褒めてくれそうな予感がする」
…この観察眼を獣にも活かせれば、ステップアップできるのにな。俺限定の観察眼なんかいらん。
「そろそろ次行こうよ。この場所にいると、結局仕事してる感じがする!」
エフテルが駄々をこね始めた。確かに結局狩りの話になるし、これじゃ仕事だな。
「確かに、今日はそういう日じゃなかったな。また今度、皆で来よう」
「はーい」
結局何も買わなかったのが申し訳なく、店主に会釈をすると、笑顔で手を振ってくれた。
店主とはいつも会話などは特にないが、付き合いも長い。
こういう人間関係が一番楽だ。
こうして、俺の行きつけの店を全員で後にする。
「じゃあ、次はコウチの行きつけの店か」
「っすね。どこ行くかな」
コウチは口元に手を当て、少し悩む。
「よし決めた。あそこに行こう」
さて、コウチはどんな店に連れて行ってくれるのか、楽しみだ。
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