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111 緊急依頼、蛇嵐⑪

危険度5の蛇嵐。

今、“四極”が苦戦しつつ倒したのが、危険度4の蛇風。

より強力な相手に、3級である先輩狩人はどう戦っているのか。


「負けないとは思う。ので、しっかり見て学ぶように」


レイやルミスほど力量さがあるわけではなく、ロンタウのように武器種や狩りのスタイルが全く違うわけでもない。

自分たちの純粋な1ステップ上の先輩だ。

そこからなにか、学びを得られるといい。

見れば、戦いは佳境となっていた。

“四極”より先に闘い始めていたのだから、当然だ。

“豊穣の奏”の闘いのスタイル的に、長期戦になるとは思っていたが、ちょうどいい場面が見れるだろう。

ハルゥはアルカと同じ細剣使いだ。

しかし、アルカの我流の闘い方とは違い、きちんと養成所で習ったような模範的な戦い方をしている。


「よっと、避けて、また一撃!」


前線で敵を翻弄しつつ、隙を見つけて装甲の隙間を狙い切る。

アルカは蛇風の鱗の防御力に手を焼いていたが、ハルゥは難なく蛇嵐の体に刃を通している。


「師匠、あれが、本当の細剣の使い方?」

「そうだな、切り方、切る方向が大事になる。こういう鱗を持った相手には、切るというより、刃を滑り込ませるイメージだ」


アルカは鱗の上から切ろうとしていた。それでは切れない。

ハルゥは、鱗の隙間を狙って、皮を引き裂いたり、鱗を剥がしたりしている。

細剣が万能な武器と言われている所以はここだ。

どんなに堅牢な相手でも、必ず隙間はある。そこを狙うことができるため、高火力を出すことはできないが、安定したダメージを与えることができる。

だからこそ、俺はあの正体不明の敵と戦うときも細剣を選んだ。

蛇嵐は、ハルゥの攻撃を幾度となく受け、傷だらけだ。しかし致命傷ではない。だが、間違いなく体力は削れている。

加えて、これだ。


「追加じゃーん!どんどんくらえー!」


ハルゥが削り、肉が露出しているところに、ミーンが針を投擲する。

エフテルと違って、命中率は90%というところだが、十分すごい。

針は浅く刺さっているだけに見えるが、あれで問題ない。

ミーンの針には毒が塗られている。


「む~、あたしならもっとこう、こう!」


エフテルが自分とミーンを重ねているのか、針を投げる動作をしている。まあ、自分より命中率が低い人を見ているのはちょっともどかしいのは分かる。

だが、ミーンの針は、当たれば良い。そして、当たれば当たるほど良い。

“豊穣の奏”の狩猟スタイルは、じっくりと攻めるタイプだ。

ハルゥが細剣で削り、ミーンが毒を蓄積させてゆく。

それを、相手が倒れるまで、繰り返すのだ。

だから危険なときは無理して攻めない。なぜなら時間は“豊穣の奏”の味方をするからだ。


「jaa…ja…」


ほら、今は間合いを測り、見つめあっている状態だが、それだけでどんどん蛇嵐は弱っていく。毒が回っているのだ。


「このままタイムアップでもいいじゃん?」

「観客もいるけど、私たちはいつもどおりの狩りをするだけだよね」


2人は落ち着いている。

もう、あと一歩のところまできている。危険を冒す必要が全くない。


「jaaaaaaa!!」


しかし最後の力を振り絞った蛇嵐は、上半身の穴から蛇風を放出した。


「まだ出せたのか…いや、無理やりだな」


放出された蛇風は大きくても2m程度が4匹。しかも明らかに育ち切っていない。


「どうする、動けるか?」


気絶しているカーリはさておき、他の3人は、俺の言葉で立ち上がって武器を構えた。


「行けるよ!」

「ちょっとくらいは役立たないとな」

「正しい細剣の使い方…試す」


全員やる気のようで何よりだ。

じゃあ俺は気絶したカーリを守ろうかな。


「ということで“四極”、露払いさせてもらう!」

「助かるじゃん!」


俺にサムズアップしたミーンは、蛇風に意識を割かず、蛇嵐と対峙しつづける。

もうそんなに俺らを信用しているのか。

信頼には応えないとな。

いずれの個体も弱い個体だが、こちらも疲労困憊だ。

しかし、動きのキレは鈍っていない。

まず走り出したのはアルカ。

柔らかい頭を狙わず、あえて鱗に守られている胴体を切る。


「ちっ、ちょっと弾かれた」


刃は浅く蛇風の体に食い込み、軽傷を負わせる。

そのまま、弾かれた勢いで回転し、今度は逆方向から切りかかる。


「ここ…?」


切り上げる形で、力が入らないにも関わらず、蛇風はスパッと両断された。


「アルカすごい!」

「…」


アルカもやや驚いたように自分の細剣を見ている。これが針の目を通すような細剣の真骨頂だ。


「負けてらんないね!」


エフテルは、3本の針を続けざまに投擲する。

1本目は眉間に浅く刺さり、2本目が1本目を押す。3本目がさらに1本目の背にあたり、釘打ちの要領で貫通した。


「神業…」

「自分で言うなアホ」


確かに神業だが、エフテルはなぜか褒める気になれない。


「俺は手堅く…」


コウチはカートリッジを装填する。

蛇風はまだ、向かってくるコウチに向かって応戦するのか、逃げるのか、迷っている。

その隙を突いた、炸裂機構による一撃。


「うらぁあ!」


全力で振り上げられた槌は、蛇風の上半身を吹き飛ばした。

うん、どんどん理想のパワータイプになってきてるな。目指せウエカ村長。


「で、最後は俺か」


俺は左手に盾を構えた。

蛇風が気絶しているカーリに向かって走り出す。

結構威圧してたつもりだったんだが、ここまで幼体だと通じないか。


「カーリ!」

「師匠!」

「お師匠さん!」


うんうん、エフテルはカーリの心配をしていたな、えらいな。仲良くなってくれて嬉しい。

俺はうんうん頷きながら、盾で蛇風の噛みつきを防いだ。

盾の面で防いだわけではない。盾の縁を口に突っ込んでやった。


「で、こう」


そのまま前に踏み出し、盾を地面に突き刺すように振り下ろす。

蛇風は、口に盾を咥えたまま後頭部から地面に激突、気絶した。


「おい誰かトドメ頼むわ」


シュババッとやってきたアルカが蛇風に細剣を突き立てる。

よし、これで全部の蛇風を倒したな。


「…もしかして、お師匠さんって、片腕でも俺らより強いのか?」


コウチの問いには首を傾げるだけにとどめておいた。

さて、いよいよ“豊穣の奏”による蛇嵐戦もクライマックスだ。

最後のあがきも通用しなかった蛇嵐は、大きく体をうねらせ、近くにいるハルゥを狙う。

しかし、ハルゥは最早攻撃する気はない。

動けば動くほど毒は巡る。

この2人は、もうどの程度針を撃ちこめば、どの程度相手が動けば毒が回るか、感覚的に把握している。


「じゃ、これで終わりかな」

「離れまーす」


ミーンが最後の針を、投擲する。

ハルゥは、ミーンの隣まで下がった。

蛇嵐は限界だったのだろう。

ぷすっと軽くミーンの毒針が刺さっただけで、ついにその巨体を地面に倒した。


「締まらないけど、ウチらはこんな感じの狩りをします」


ミーンが、少し照れながら、こちらに頭を下げる。


「いや、良い連携だし、方針もしっかりしてる。3級に上がりたてで自信がないと言っていたけど、全然これからも通用すると思う」


自分ではちょっと何様かと思うが、コメントを求められている気がしたので、素直に称賛した。


「ありがとうございます!」


ハルゥも頭を下げる。


「いやあの、別に特級だからってそんなにかしこまらなくていいからな?今はこんなだし」


右腕のこと2人は知らないが、包帯でグルグル巻きで、動かない腕を見せれば察してくれるだろう。


「でも大先輩じゃん?」

「まあな?」


なんだかミーンと喋っているとこちらまでラフな態度になってしまう。これはすごい。是非レイと話させてみたい。


「ん?」


袖を引かれた。

アルカかと思ったら、エフテルだ。

耳打ちされる。


「蛇嵐と、そこの蛇風4匹、剝ぎ取らないんですか…!」


ああそういう。

思わず笑ってしまった。


「ちなみにエフテル。ミーンから毒針を使う際の、ある意味最大のデメリットを教えてもらうといい」

「え、なんですか?」

「うええ!?ウチじゃん!?デメリット?なんだろ!」


急に話題を振られたミーンは頭を悩ませる。


「うーん、間違って自分に刺したりとか、誤射しないように気を付ける必要があるじゃん?」


真っ当な意見だが、そうじゃない。


「今、この剥ぎ取りの段階でのデメリットとか、あるよな」

「ああ!そうじゃんね!」


合点がいったようだ。

エフテルは真剣に耳を傾けている。


「あの蛇嵐、毒まみれだから肉は売れないし、皮とか鱗もダメになっちゃうことも多いし、そもそもちょっと時間置かないと剥ぎ取れないじゃん。金欠になりがちなんだよねぇ~」


エフテルの目が厳しいものに変わる。


「つまり、毒針を使うと、稼げないと?」

「まあ、でも強いじゃん?」

「でも稼げないと!!」

「え、え?まあ、そうじゃん…?」


エフテルのあまりの剣幕にミーンは引いている。


「師匠!!」

「はい」


何を言われるか予想できているが、聞いてやろう。


「あたしは、毒針、使いません!!」


と、言うと思ったから勧めなかったんだよなあ。

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