第6話 公爵視点 陰謀の発覚
魔王に襲撃された土地を視察した息子からの報告書を手に、兄と私は息を呑んだ。
国王陛下、宰相閣下、手短に報告申し上げます。
前回魔王復活時に多発した虚無は現地にない。町の建物は破壊され、住民の惨殺死体が散乱し腐敗。薬師の報告では、死体は生前刃物で襲撃された痕跡あり。金品強奪示唆する物品の損壊多発。人為的破壊と略奪と殺害疑う。伝達魔法は最速なれど妨害傍受の危険あり使用できず。以上。
極秘の謁見を申し込んできた使者は、先の魔王討伐を知る男だった。
「お前はここに来るまで、見たもの、聞いたものを一切口にしていないな」
「はい」
兄の言葉に使者が深く頷く。
「ご苦労であった。そなた暫く身を隠せ。宰相の屋敷で沙汰を待て」
「はい」
使者が下がった頃、ようやく私の硬直が解けた。
「テオドールが」
去り際の静かな笑みを浮かべていたテオドールの姿が目に浮かぶ。私達に別れを告げに来たときの、落ち着いた様子は、あれは何を考えていたのか。
「第二次魔王討伐隊に使者を送る」
兄は書状を書き始めた。
「テオドールは」
「誘き寄せられた可能性がある。落ち着け」
兄の言葉に、私は大きく息を吸い込んだ。
「前回、初動が遅れて多くの地が魔王の虚無に呑まれた。急がねばと思ったことが裏目に出たな」
「はい」
前回の魔王復活では、次々と町や村が消えた。町や村は、存在だけでなく、多くの者の記憶からも消えた。
国は混乱した。
魔力持ちが、町や村があったはずだと言う場所は、瘴気に沈んだ森となり、魔物が人々を襲うようになった。原因が、魔王の復活だと判明するまでに多くの町や村が消えた。魔王がテオドールに討伐された後、瘴気を纏っていた森は姿を消し、何もない更地だけが残った。
皆、恐ろしがって近づかないため、瘴気が消えた今も荒涼とした景色が、国のあちこちに魔王復活の傷跡として残っている。
もっと早くに魔王の復活であることがわかれば、どれほど多くの民を救えたか。虚無に飲み込まれずに生き残った私達の思いが、焦りとなり、町が魔王に襲われたという報告を鵜呑みにしてしまった。
「テオドールは」
「聖剣が一緒だが」
もし、これがテオドールを誘い出すための罠であれば、人が相手だ。聖剣といえどもただの剣だ。
「間に合えばよいが」
急ぎの連絡だが、誰が信用できるかわからない今、伝達魔法は使えない。町を襲撃し、魔王復活に仕立て上げた者が誰を突き止めていないのだ。こちらが気付いたことは秘匿せねばならない。
別れ際、テオドールの凪いだ茶色い瞳を私は思い出していた。
「首謀者を捕らえましょう。最初に魔王復活の知らせを上奏してきた者を捕らえねば」
私の言葉に兄が頷いた。
「先の魔王復活に際しての虚無を知らぬ者の謀略だ。あるいはそれを装ったか。魔王の討伐で、瘴気の森も魔物も消えたが。魔物と変わらぬ者が、現れようとはな」
兄の言葉は、吐き捨てるようだった。
「我々は、魔王を退治したテオドールに救われました。今度は、我々が魔物を心に住まわせた者達を退治し、テオドールを救いましょう」
私の言葉に兄が微笑み、呼び鈴を振った。隣の間に控えていた従者達が現れる。
「総騎士団長を呼べ」
命令した兄は、私の耳元に囁いた。
「魔物退治だ」
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これからもお付き合いをいただけましたら幸いです。