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勇者の愛猫  作者: 海堂 岬
猫屋敷の庭師
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7)冬の予感

「今年は大雪だ」

どなたがおっしゃったのか、庭師の俺には分からない。魔法に長けた若様なのか、魔法使いのフェルナン様なのか、元勇者テオドール様なのか。どなたがおっしゃったにせよ、俺たち庭師は、準備するだけだ。


「ま、外れてほしいがなぁ。儂がここに来てから、一度も外れてないからな。ま、外れても、どうせ薪なんざ、次の年も使うんだから困らねぇけど」

ここに努めて長い下男は、薪割りの手を止めない。


「これもらっていくよ」

「あぁ」

俺の手にある木っ端に、下男は目をくれただけだった。


 勇者テオドール様と奥様のシュザンヌ様とお子様方は、今年は猫屋敷で冬をお過ごしになるご予定だと伺った。


「まぁ、いつの季節でもそんなには変わらねぇけどな」

猫用の庭で猫と一緒になって大暴れするお孫様が増え、色々と壊れた。王家直属の騎士団と二強を誇る公爵家の騎士団の訓練の激しさが増し、やっぱり色々と壊れた。俺たちの仕事は忙しくなった。木っ端も修理の材料だ。


「テオドールのお陰で材木は十分にあるから、少々壊れたところ問題はない」

他人事のようなことをおっしゃった若様は、若奥様の咳払いに苦笑していた。花壇からは、まだ時々笑い声が聞こえる。まぁ、色々壊れるだろう。魔法使いの頭の中には魔法しか入っていないのだから。


「雪遊びをしたいな。今年は」

テオドール様は、雲に覆われた薄暗い空を見ていた。

「子供たちと一緒に、雪遊びは楽しそうね」

頷くテオドール様は、本当に良い父親でいらっしゃると思う。

「きっと寒いよ」

「暖かくなるからいいわ」

「そうだね」

テオドール様とシュザンヌ様は本当に仲睦まじくていらっしゃる。独り者の俺には目の毒だ。


「そうだな。今年は積もってからにするか」

「人の膝下くらいまで、待ったらどうっすか。面白いっすよきっと」

このときの会話が、実現したとき、俺は文字通り腰を抜かした。

 

 雪が降った。大雪だという誰かの言葉お通り、雪はどんどん降り積もっていった。

「ここに務めるなら、雪が人の膝下くらい降り積もるくらいの頃に、誓約魔法がいる、ちょっと考えといてね」

黒い外套から聞こえる少しくぐもった声に、フェルナン様が魔王討伐隊に参加しておられたことを思い出す。いつもお見かけする、変な魔法で遊んでいるフェルナン様だけが、フェルナン様ではない。


「ここのお屋敷のことでさ、誰にもいっちゃいけねぇことがあってさ。で、誓約魔法で誓ってもらう。ま、それが嫌ってやつは、まぁ今までいなかったけど、やっぱ聞いとくのが筋だからさ」

貴族にお仕えする者にとって、誓約魔法は当然だ。俺たち庭師は秘密の抜け道の手入れも仕事だから、ほぼ間違いなく誓約魔法に縛られている。


「私はここで働き続けたいです」

おもわず大きな声が出てしまった。驚いたのか、懐に入れていた猫がモゾモゾと動く。

「あ、ごめんよ」

撫でてやると、また静かになった。


「んじゃ、かけるか。今年の冬は猫屋敷な。故郷とかに帰ってもらうと、手間なんだ」

「はい」


 冬になにがあるのか。仲間たちに聞いたら、全員が人の悪い笑みを浮かべて教えてくれなかった。酷い奴らだ。


 夜、俺が寝台に横になってしばらくすると、猫たちが寝台に潜り込んでくる。俺で寝台を温めて、俺で暖を取るために潜り込んでくるのだ。酷い猫たちだ。


 何かがある冬を待つことにした。


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