第4話 公爵視点 義理の息子になるはずだった青年からの別れの挨拶
テオドールはいつもどおり、静かに落ち着いていた。魔王討伐を成し遂げた勇者と聞くと、猛々しい猛者を連想する。テオドールは物静かで穏やかな優しい青年だ。
「今一度、討伐に立つことになりました。いつ戻ることができるかもわかりません。お嬢様、シュザンヌ様との婚約を解消して、無かったことにしていただきたく思います」
型通りの挨拶のあとのテオドールの言葉に、私は言葉を失った。いつもなら、シュザンヌへの面会を願うテオドールが、それを口にしなかった。今までは、面会を断る私達に、テオドールは少し悲しげにしていた。いつもと同じ礼儀正しい態度だが、何かが違う。
「いつ戻るかもわからない旅です。お嬢様をおまたせするわけには参りません」
「わかった」
テオドールの言う通りではある。
「テオドール。私達との縁が切れたとはお思いにならないで。また戻られた折には、屋敷にいらして下さいな」
妻の言葉に、何処か強張っていたテオドールの表情が柔らかくなった。
「はい」
爽やかな笑顔を浮かべ、テオドールは私達の前から姿を消した。
二度目の魔王討伐隊の遠征だ。先の遠征では、少なからぬ人命が失われた。次を担う世代に、経験を積ませるべきだという意見があり、先の遠征を知らぬ者達を中心に選抜された者達が並ぶ。
避暑地にあった美しい湖の湖面のような静かな笑みを湛えたまま、勇者テオドールは新たに編成された第二次魔王討伐隊と共に王都を後にした。
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【完結済】
かつて、死神殿下と呼ばれた竜騎士と、暴れ竜と恐れられた竜が、竜の言葉がわかる人の子と、出会ってからの物語
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【毎週土曜日19時に投稿中 エッセイ集】
人がすなるえつせいといふものを我もしてみむとしてするなり
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