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勇者の愛猫  作者: 海堂 岬
猫屋敷の庭師
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4)勇者様御一家

 お屋敷の前に使用人達が並ぶ。俺もその一人だ。さすがは猫屋敷、猫たちまで集まってきているのが面白い。ただ、猫は人間とは違って、整列などしない。あちこちで、適当に挨拶しあって、毛づくろいして、昼寝して、人に撫でろと要求して勝手にしている。それはそれで可愛い。


 俺を含め、猫のおねだりに負けた人間の腕の中には猫が収まっている。いいのかと思ったけれど、普段は色々厳しいはずの執事の面々も猫を抱いているからいいんだろう。


 馬車から降りてきた人は確かに勇者様だった。背丈は高くないのは噂通りだ。でも、噂以上に頑強そうな体躯に、俺の目は釘付けになった。公爵家の騎士団の訓練場の柵の修理も庭師の仕事だ。俺は間近で公爵家の騎士を見ている。王家の騎士団と並ぶ最強の騎士たちだ。その騎士たちと並んでも、何ら遜色のない、何なら上回る覇気がある。

「すげぇ」

俺の口から思わず言葉が漏れた。

「だろ」

失礼かもしれないと思ったが、仲間は俺に笑ってくれた。


 続いてそのテオドール様に手を取られて、シュザンヌ様が降りていらっしゃった。お屋敷の肖像画でお見かけした通りお美しい御方だ。続いて元気にお二人のお子様だろう、子供たちが降りてきた。明日からまた、庭の修理が大変になるだろう予感がした。


 公爵様御夫妻、若様御夫妻、若様のお子様方と挨拶を交わし、再会を喜びあい、それからゆっくりと屋敷に向かって歩いていらっしゃった。


 使用人たちに軽く言葉をかけながら、御一家が歩いていらっしゃる。すぐに俺の眼の前にいらっしゃった。

「君が新しい庭師だね。よろしく」

「よろしくおねがいしますわ」

間近で見るテオドール様は、お優しく微笑んでおられて、あの遠目に見たときの覇気が消し飛んでしまっていた。お隣で微笑むシュザンヌ様がお美しくて、俺は慌ててしまった。高貴な御方をあまりじっと見ては、失礼にあたる。

「ありがとうございます」

なんとか無難な言葉を口からひねり出し、俺は頭を下げた。


「お仕事がんばって下さいね」

「よろしくね」

「がんばってね」

可愛らしいお子様方だが、この方々も公爵様のお孫様でいらっしゃる。ということは、庭はきっと大変なことになるのではないだろうか

「はい」


 俺の腕から身を乗り出した猫を、テオドール様が抱き上げた。

「君は元気がよいね」

足元に降ろされた猫が、テオドール様の足に絡みついて挨拶をする。御一家の御帰宅は、人間と言葉をかわし、猫に纏わり付かれながらの、猫屋敷らしい光景だった。



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