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勇者の愛猫  作者: 海堂 岬
テオドール視点
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第4話 僕が知らなかった僕のこと

 お屋敷で下男として勤めているだけでは、何もわからない。お勤めの合間の時間に、僕は教会に通った。


 教会でも、やることはかわらない。下働きをして、司祭様に信用されるようになった僕は、何があったかを知ることになった。


 僕は、僕が思っていたほど、嫌われていなかった。


 僕は、魔王復活は、僕をおびき出す餌で、僕は殺されるのだろうと思っていた。無駄な争いなどしたくなかった。


「魔王の復活はない。僕にはわかる。これは僕を始末するための狂言だ。それくらいわかるよ。孤児院育ちだからって、見くびってもらったら困るね。君たちの望み通り、消えてあげる。さようなら」


 僕は、捨て台詞を遺して、崖から身を投げた。霧に満たされた崖は、僕を助けてくれた。崖下の岩棚は僕をうけとめ、偶然に落ちた石が、水音を立てた。


 僕が知るのはここまでだ。


 翌日、王都からやってきた使者が、魔王討伐隊に真実を告げた。魔王の復活は、一部貴族の計略で、国王陛下も含めたたくさんの貴族が騙されていた。偽の魔王復活を仕立て上げた貴族は、全員処刑され、家は取り潰しになった。


 司祭様は、政治の世界で何があったかはご存知だったけれど、シュザンヌ様のことはご存じなかった。がっかりする僕に司祭様は、王都にある、死んでしまった僕を称える慰霊碑のことを教えてくれた。


 慰霊碑にお参りするための人の列に、僕も並んだ。僕の捨て台詞は、僕を悲劇の勇者に仕立て上げたらしい。随分と立派な慰霊碑だった。


 碑文の一つを見て、僕は泣きそうになった。碑文は忘れもしない、シュザンヌ様の文字だった。人を愛し猫を愛した心優しい人の魂に安らぎをと、書いてあった。僕は、嫌われてなかった。きっと、猫のシュザンヌも引き取ってくれた。きっと可愛がってくれているだろう。


 僕はどこか満足して、お屋敷に戻った。シュザンヌ様に会えなくても、猫のシュザンヌがどこにいるかわからなくても、僕は不幸せじゃなかった。


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