第11話 公爵視点 猫のシュザンヌ
「待ちなさい」
妻の声のあと、沢山の足音が廊下をかけていった。階段を駆け下りていく集団の先頭に、長い毛をなびかせ疾走する猫が見えた。
シュザンヌだ。ようやく猫に変化出来たらしい。シュザンヌは常々、思いがけないときに猫になってしまうことを気に病んでいた。そのシュザンヌが、なんとか猫になろうと奮闘している姿は微笑ましかった。
「やはり、追いつくのは無理ですわ」
しばらくして部屋に戻ってきた妻の手には首輪があった。猫に変化したシュザンヌが屋敷に帰ってきた時に、使っていた首輪だ。
「出来ればつけて欲しいと、シュザンヌに頼まれていましたけれど。今回は、すっかり猫になってしまっているようです。私の言葉に、耳も貸してくれません」
妻はすっかり息を切らしていた。
「何故、確かめるだけなのに、わざわざ猫になるのですか。必要ないでしょう」
「わかっていないのね」
息子の言葉に呆れた妻に、私は沈黙を選んだ。
「猫の姿で彼と一緒に居た時間のほうが、長いのよ」
そういうものなのか。私は、思った言葉を口にはせず、息子と目を合わせるに留めた。
「あなたの将来が心配だわ。私は義理の娘が来てくれる日を楽しみにしているのに。可愛いしっかり者の義理の娘を、あなたがしっかり繋ぎ止められるか、本当に心配です」
妻からの思わぬ攻撃に、息子は肩を竦めた。
シュザンヌが探し人を見つけたと、報告があった。
私と妻は、部屋で、シュザンヌとテオドールが来るのを待っていた。あれこれと取止めもない考えが湧いてきて、落ち着かない私とは対象的に、妻は紅茶を楽しんでいる。
家長の父上に任せますと、退席していった息子が羨ましい。家長のわたしが席を外す訳にはいかない。私は、ジリジリとしながら、待っていた。