背を向けること
君は言った。
「私は誰からも愛されない。私は私のことを愛せないし、きっと、私を愛する人は私ではなくて私の影を愛しているだけ。人はきっと言うと思う。あなたの家庭環境に問題があっただけだ。あなたは自分が愛されないと思い込んでいるだけ。誰もが誰かから愛される可能性がある」
僕はそれに対して言ったんだ。
「この世に愛があるって誰が君に証明したんだ? そう思い込んだ狂人たちが世界を支配しているに過ぎない。君の言っていること、思っていることはすべて正しいよ。君は愛されないし、君を愛する人が仮に現れても、それは君の影を愛しているだけだ。君が誰かを愛するときに、誰かの影を愛するしかないように。そしてそれは君だけじゃない。すべての人間がそうなんだ。だから人は、影を愛することを学ぶべきだし、自分の影が愛されたことに満足するすべを学ぶべきなんだ。それに空しさを感じるなら、君は僕と一緒に来るといい」
君は少し悩んだ後、首を振ってみんなのところに帰って行った。君は、僕ほど苦しんではいなかったのかもしれない。あるいは、僕よりずっと苦しくて、その苦しみが永く続くことに耐えかねたのかもしれない。
何にしても君が健康になることを祈るし、僕の健康と君の健康がまったく違うものであることは誰にも否定できないことだろう。
そう思って僕はまた世界に背を向けたのだった。
僕はひとり。そう。たくさんの、世界に背を向けた人々の背を眺めながら。彼ら全員が、誰かの背中しか見ておらず、時折振り返って自分と似たような顔をした誰かと目を合わせては、気まずい思いをして、友好的な会話をして、そしてまた背を向ける。
人々は確かに影を見ているが、僕らは光など見ておらず、そこにあるのは無数の鏡像。そこに何もうつっていないのは、光がここまで届かないから。
外が暗いなら、洞窟に映った影を追い求めて地の底まで掘り進めて、そこで光を見つける方に賭ける方が正しいんじゃないか。人々が意識もせずそうしているように。
そう思いながら、その滑稽な姿を想像しては、それよりは今の自分の滑稽さの方がずっと自分らしいと感じてまた世の中に背を向けたのだ。




