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寂しさ  作者: 冷凍槍烏賊
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 価値を査定するのをやめよう。

 感情を評価するのをやめよう。


 僕にその権利があったかはわからないけれど、あろうとなかろうと。

 それはきっと僕の考えを深めてくれた。それはきっと僕の審美眼を鍛えてくれた。それはきっと僕の知識を広げてくれた。それはきっと……


 でももうやめよう。もう僕は正気でいるのに疲れたから。

 心が感じるままに生きていたんだ。


 何もかもがダメになって。愚かになって。僕は成長する前の自分に戻っていく。

 きっとそれは最善じゃないけど、そうじゃないと書けないものがあるから。

 僕は僕を犠牲にできると思うから。


 賢くなったって、心に得たものは何もなかったから。


 僕の知性が僕を幸せにしてくれなかったのなら、僕は知性をきっと手放さなきゃいけない。


 そこにしか自由な空がないなら。


 想像の中に自分を投じることができないから。


 もっと愚かで、短絡的で、近視眼的で、直情的で。


 多面性とか多様性とか、そんなことなど何も知らず。見たものをそのまま理解する。錯覚とか、妄想とか、思い込みとか、そんなこと全部忘れて。


 この世界が蝶の見た夢かもしれないなんて、それがわかったところで何の益もないからさ。

 人生はきっと大したものじゃない。でも大したものだと思い込んで生きるように人間は作られていた。

 だから作られたばかりのころに戻っていきたいんだ。


 僕はこの世界の中心にいる人間じゃないけれど、この世界の中心にいる人間かのように思って生きていくんだ。

 そう思ったまま死んでいく。自分が死んだら世界も終わるかのように感じながら死んでいくんだ。

 それの何がいけないんだろう? みんなそうしているのに。



 夜の湖に木船を浮かべた。灯りを乗せて。

 月が湖面に映っている。風は少しも吹いていない。

「ねぇ、君が間違っていたのかな」

 すべてが終わった後、その子はそう聞いてきた。

「多分、きっとそう」

 僕はそう答えた。たくさんの戦いがあった。間違ったこともあった。その分だけ、正しかったこともあったと思う。

 それで、残ったのは? この夜だけ。全ては他の人が持っていって、僕らは手放した。

 きっと僕らははじめからわかっていた。ううん。わからない。わからないことだけが、わかっていた。

 だからここにあるのは、わからなさだけ。

「ねぇ、もう一度、試してみるの?」

「その時が来たらね」

「どうして?」

 僕は考えたけれど、頭は回らなかった。その代わりに、昔のことを少し思い出した。人の悪口。優しい人の裏切り。怒りと恨みが堰を切ったようにあふれ出して、馬鹿みたいに泣きわめいたこと。叫んで、人を罵って、そして謝ったこと。

 もう二度と、そんな思いはしたくないと思った。でも、その時の気持ちは、もう二度と戻ってこないし、なんでそうなってしまったのかも、もう覚えていないんだ。

「だから僕は、また繰り返すんだろうな」

「うん」

「君も、また同じようについてくるの」

「もちろん。君が行くなら、私も行く。君が行かないなら、私も行かない」

「ひとりでいるのがいやなの?」

「うん。私は、君と一緒がいいんだ」

「でも、僕はいつもひとりだよ」

「だからだよ。君と一緒なら、ひとりにならずに済むから」

 急に悲しい気持ちになった。たくさんの人の中、ぽつんとたたずんで時間が早く過ぎるのをただ祈っていたその心情が、ほんの数秒だけ蘇って、そのまま流れて消えていった。月の映る水面が、少しだけ揺らいだ気がした。

「また、死にたくなるんだろうな」

「うん」

「でも僕はきっと死なないし、これをきっと、死ぬまで繰り返すんだ」

「それは、間違ったことだと思う?」

「うん。でもそうするしかないと思う」

「私と一緒だね」

「ううん。君とは多分少し違うな」

「私は間違っていない?」

「うん。きっと君は間違っていなくて、僕がずっと間違っているんだと思う。よくわからないけれど、ずっとそんな気がしているんだ」

「本当はね、私もそう思うの。でも君は、同じことを繰り返すんだよね」

「うん」

「ありがとう」

「こちらこそ」


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