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寂しさ  作者: 冷凍槍烏賊
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英雄気取り

「先輩の書く作品はいつもつまらないですね」

 へたくそな化粧をした後輩が、今年文化祭で出した文集の、中間あたりにある目立たない短編を読み終えたあと、それを閉じてそう言った。

「まぁでも、読まなきゃよかったとは思いませんが」

「何その言い方」

 本を読むのは好きじゃない。俺は部室ではいつも漫画を読んでいる。

「先輩って、書くの好きなんですか」

「前言ったじゃないか」

「なんでしたっけ。興味なかったので忘れちゃいました」

「書かずにはいられないたちなんだよ。天才肌だから」

「まぁ、ある意味そうかもしれませんけど」

 わかってるさ。言われなくても。俺の才能は、自分の心の中をそのまま言葉にして発表してしまえるこの厚顔無恥であって、決してその内容や技術じゃない。俺は本質的には平凡な人間だ。

「小説家になりたいとか思わないんですか?」

「ごめんだね。まぁ、中学生の時はちょっと思ってたけど、少し調べてやめた。適性がないと思ったからな」

「なら、なんで部活にまで入って、まだ書いて、それを人に見せてるんですか?」

「幼稚なナルシズムからだよ。精神的露出狂と言ってもいい。自分を見てほしいんだ。理解してほしい。できれば、愛されたい。これといって長所がないからな。そういうところでしか、勝負できないんだ」

「うまくいってませんよね?」

「うん。さっぱりだ。こんなことせずに、適当な運動部にでも入ってそこにいるイケメンにくっついていた方がモテていただろうな」

「そういうタイプでもないでしょうに」

「君は何もせずとも異性が寄ってきそうでいいな。羨ましいよ」

「まぁ」

 この後輩は、中学時代から付き合っていた彼氏と別れてその三週間後に、同級生と交際を始めた。それも長続きしなかったが、その後の文化祭の時期に、別の部活の三年生と恋に落ちて、今も交際は継続している。それまでの恋とは違って、とても落ち着いていて、互いをリスペクトできているから、長く続くのではないかと本人は語っていた。いろいろと話を聞いた結果、俺も、わざわざ口に出すことはなかったが、おおむね彼女と同意見だった。

「たまには、自己卑下なんかせずにかっこつけてもいいんですよ」

「どういう意味?」

「最近私、わかったんですよ。男の人って、誰でも自分が心の中で『かっこいい自分』を考えているんです。先輩みたいに口達者な人なら、多分、さぞ立派な『自分』を持っているんじゃないかと思って」

「君はなかなか鋭いな」

「えぇ。教えてくださいよ。今度彼氏との世間話のネタにするんで」

「多分だが、彼氏の前で別の男の話をするのはやめた方がいいと思う」

「そうですか? そんなこと気にしてたらつまらないじゃないですか。それくらいのことで嫌な気分になるような器の狭い人は私にふさわしくないですし、いいですよ。早く話してください」

「……まぁ、そうだな。俺はさっき、自分が作家に向いていないといったが、より正確に言うと、俺は商業作家には向いていないんだ。ある層をターゲットに絞って、その層のファンを多く獲得するために、たくさんの関係者と共同しながらよりよい作品を作っていく。そういう過程の一部を担うことに、違和感を感じる。別に、そうやってできた作品を貶すつもりはない。ただ、自分が書きたいものはそういうものじゃないってことだ。俺は……百万人に薄く広く愛される作品よりも、百万人に無視されても、そのうちのひとりの人生を強く動かしてしまうような作品の方が好きだ。俺自身が、そういう作品以外読みたくないと思って生きてきたから。だから俺自身も、そういうものを書くために、書いてきた。これは性分というよりも、意志であり信念であると、俺自身は思ってる。うまくいくかどうかはわからないが……ずっとそれを続けるつもりでいるんだ」

「なんというか……まぁ、ロマンチストなんですね」

「キモいか?」

「まぁ、ちょっと。っていうか、別にそれを理想にするのはいいと思うんですが、どうやってそれを具体的に実現するんですか?」

「ネット上に転がしておくくらいじゃないかな、できることは。だからまぁ、書くこと以外は、普通に生きるよ。普通に生きられるのならね」

「いまいち、面白い話じゃないですね。でもまぁ……先輩はやっぱり変な人ですね。なんとなく、勘ですが、私は死ぬまで先輩に似た人には出会わないような気がします」

「レアリティは高いか」

「ランキング報酬のゴミキャラって感じですね」



 その後輩が、彼女自身の職場の同僚と結婚したことをはがきで知らせてきたのを見て、俺はため息をついた。

 自分で選んだ道とはいえ、この道は険しすぎる。大人ぶってはいたが、それでも高校生のころはちゃんとガキで、自分が言っていることの意味を正確には理解していなかった。

 成果がでないとわかっていることをずっと続けるというのは、高校生の自分が想定したよりもずっと惨めで、息苦しいことだった。

 周りは、どんどん自分を置いて人生を進めていく。俺自身は高校生のころとほとんど変わらないその平坦な道を歩き続けている。

 俺の言うことの全部はきっと言い訳に聞こえる。凡庸な夢を諦めた人間の戯言に聞こえる。年をとればとるほどに、俺の真実や信念は、俺だけのものになって、信じてくれる他者はいなくなっていく。


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