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寂しさ  作者: 冷凍槍烏賊
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忍耐

 体育館の真ん中で小さくなって座っていた。

 多分、私はここと同じ場所で、同じように座っていたことがある。何年生の時のことだったかはわからないけれど、今みたいに静かで、他に誰もいないようなことはなく、騒がしくて、壇上に誰かがいて、どうでもいいことを話していたんだと思う。

 静かに座って、人の話を聞く。ちゃんと三角座りをして、背筋を伸ばして、話している人の顔を見る。列を乱さずに。話が終わったら、ちゃんと拍手する。


 拍手してみる。音が空しく響く。立ち上がっちゃいけない理由なんてないけれど、もしここに、数百人の生徒がいたら、私は怖くて立ち上がることなんてできなかっただろうと思う。と同時に、そんな状況でも、恐怖なく立ち上がって立ち去ることができたら、どんなに自由だろうと思ったのを覚えている。


「この状況は異常だな」

 壇上に、スーツを着た人が上がってそう言った。

「普通じゃない」

 私は静かに話を聞いている。怒られないように。

「子供がひとり、誰にも強制されていないのに、静かに座って知らない人間の話をじっと聞いている。お行儀よく」

 その人は、私ではなく、その体育館全体に話しかけているみたいだった。でもそれは不自然じゃなくて、むしろその方が自然だった。だって、体育館の壇上は、そういう場所だから。

「しかし私は時々思うのだ。それを異常だと思うことがおかしいのではないか、と。たとえば、そこに子供がひとりなら、こんなに異常な光景だが、そこに子供が百人いて、大人が十人くらいいれば、その光景は決して異常ではなくなる。だから、彼女がそこに留まっているのは、実は決しておかしなことではないのだ」

 話が終わったと思って、私は拍手をしようとしたが、男がまだ話そうとしているのに気づいて、また手で膝を抱え直した。

「いや、百人も子供がいたとしても、その状況は、皆がそう思わないだけで、実は異常で不自然なことなのか? もしそうだとして、じゃあその子供たちが大人たちだったら? それは異常だといえるのか? もしそれが異常でないのなら……あそこで座っている子供が、もし大人だったとしたら? それはきっと、もっと異常だろう。大の大人が、まるで子供のように三角座りで拍手のタイミングをただ待っているのだから」

 男はそこで、頭を下げて、スピーチが終わったことを告げた。私は拍手をした。うるさすぎない、でも静かすぎない、この体育館全体に、貢献するような気だるげな拍手を。


 体育館を出るときに、私は、拘束が終わったことを喜んだけれど、次の授業や休み時間のことを考えると、自由というものは相対的な感情で、絶対的なものでもなければ、真に自由であることは人間には不可能だと、子供ながらに感じたのを覚えている。

 結局、立ち上がることができたとして、人の話を聞かなくていい時間ができたとして、友達と話すことのできる時間ができたとして、それでも列を乱さず教室に戻るか、教室に戻らず罰を受けるかのどちらかしかないのだから。

「君の人生は面白くなさそうだな」

 先ほどの男が、隣に来て話しかけてきた。ひどく、その男が小さく見えた。壇上にいた時は、あんなに遠くて、大きくて、偉そうだったのに、隣にいるこの人物は、自分と何ら変わらないただの不自由な人間だ。そう。確か、子供の頃も、そういう風に思った気がする。壇上の上の校長先生と、私のそばで担任の先生と話している校長先生は、私には、別の存在に思えたのだ。

「何のために生きているんだ? 君は。目標はないのか。将来の夢や、こうなったらいいという願望は」

 私に聞いているのだろうか、と思って首をかしげる。男は頷いた。

「わかりません。私は……いつも、ただ生きるのに必死でしたから」

「意味や価値を問うことはしなかったのか」

「そんなことをしても、つらくなるだけですし。楽しいことを考えていた方が、ずっと生きやすいので」

「そうか」

 私は自分の言っていることが真実なのか嘘なのかわからなかった。でも、何度同じことを聞かれても、同じように答えただろうと思った。

 きっと私は……何度生き返っても、やり直しても、まったく同じ人生を歩むだろうと思う。必然的に同じところで躓いて、同じところで苦しんで、最後には同じところに辿り着くのだと思う。そこには夢も希望もなく、実は挫折も後悔もない。ただ私は、変わらず私であり続けるしかないというだけで。

 体育館の中を、誰もいなくてもじっと座って耐え続けたみたいに、私は人生を耐え続けていくのだろう。


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