ドラゴンさん、ナチュラルにエラーを出す
意識が沈んでいったら、先程のチュートリアルルームにいた。よかったぁ、最初のキャラクリからやり直しかと思った。さすがにそれは辛すぎるからね。
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キャラクタークリエイトからやり直しますか?
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あ、一応こういうのも聞かれるのね。NOっと。
さて、今度こそリアルでブレスを吐いてしまわないように意識しないとね。
……先にするべきは完璧にフルダイブすること、かな。多分オレの身体が普通の人間と違うから入りきれていないのだろう。
なら、いっそゲームの世界にそのままの自分で顕現するか、降臨するくらいの気持ちで入り込むべきなんだろうな。
「すうー……」
深呼吸をして、目を閉じる。
潜るのは電子の世界。今はある意味精神体みたいなものだから、いけるだろう……多分。
機械の中に収まりきらない、『オレ』を送り込むためには?
たとえば、オレの身体構造をそのままトレースしたアバターをこちらで作り、ゲームに重ねてアップデートするような形は?
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ERROR……
不正なアクセスです。
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おっとまずい。エラーを吐いて大元の会社に、不正報告を出しに行こうとする妖精を手掴みで捕まえる。
普通なら情報を送るのを阻止することなんてできっこないが、まあオレ。ドラゴンですし。情報生命体が送り出す電子情報も、同じ空間にいれば見えるし、触れられる。
完全なる不正なのは間違いないが、まあ待ってくれ。オレは別に外部からのアクセスでバグを仕込もうとか、BANされるようなチートで好き勝手しようとか、そんなことは考えていない。
ただたんに家を火事にしたくないだけだ。
飛行の練習をすると現実のオレが夢遊病のように動き出す可能性すらある。それは避けたい。
オレンジリリィのオレにどやされちゃうし、オレの分身だけが利用する精神アクセスの掲示板で袋叩きにされる可能性がある。
あと、めっちゃネタにされる。むこう百年はネタにされ続ける。なんなら年末の忘年会で細かすぎて伝わりづらいモノマネとかなんとかいって、すげーネタにしてくる。我が分身どもながら、本体たるオレにさえ煽りをかましてくるから油断ならない。
「これがダメなら……」
ジタバタする妖精と、その手の中にあるメール機能を捕まえたまま考える。メールはあとで改ざんするとして……あと試せる方法はっと。
「中身のいない分身をアバターとしてダイブさせておいて、本体の意識をインストール……かな」
分身の一体を機械の中に滑り込ませるような形で……よし。これもだいぶ反則な気がするが、オレの意識をインストールしていない中身のない分身をゲームの中に送り込んで、そこに本体であるオレの意識を無理矢理詰め込んでみることにした。
これで限りなく完璧なフルダイブをしている状態に近づけるだろう。
エラー吐かない? 大丈夫?
「……」
妖精は沈黙を保っている。こっちは大丈夫そうだ。
なら、今度から遊ぶときはこの路線で行こう。
「よし、あとはこの告発メールをどうにかするだけ」
息をするようにゲーム内AIの持つ情報を改ざんして、証拠をゴミ箱にポイ。雑な作業だけど、所詮相手は機械。機械を騙すだけなら問題なし。オレは別にゲームの中で悪さしたいわけじゃないからね。こんなくだらないことで通報されてたまるかっての。
「よーし、これで大丈夫のはず」
目を開く。
……心なしか、身長が低くなっているような気がした。
「あ、そっか……自分の分身使ってるから見た目ほとんどいじれないんだ……」
せっかく、リアルで低い人型の身長をどうにかできると思ったのに。しょぼんとしながらステータス画面を開いて、自分の容姿をチェック。
うんうん。ほとんど変わってないけれど、完全にリアルのオレと容姿は一緒だ。まあ、分身だし仕方ないだろう。
「あ、ドラゴニュートはツノがあるんだっけ?」
キャラメイクでツノって消せたっけ。どうだっけ……まあ、あったほうがいいだろう。分身の見た目を少しいじって、にゅっとツノを生やす。
それからブレスを何度か吐いてみたり、翼を動かして空を飛んでみたりしたが快適そのもので、最初のように違和感を覚えることもなくなった。
「うんうん、これならいけるね。ただ、他の子連れてきたときにちゃんとゲーム内にリンクできるかっていうのは課題だなぁ〜」
えーっと、それはおいおい考えるとして……。
「ま、いっか。先にオレがゲームをエンジョイしないとね」
チュートリアルを終える選択をして、ぎこちない音声で百鬼神妖オンラインの中へと案内する妖精を追う。
初っ端から無茶苦茶していることについては、正直このときは度外視していた。