ドラゴンさん、チュートリアルで強制ログアウトを食らう
――――――
ブレスのチュートリアル。
・オート メニューから選択
・マニュアル 思念入力をしながら口を開く
――――――
思念入力。つまり心の中で「ブレス出すぞ〜!」って思いながら口を開けばいいわけだ?
「えーっと」
まずはメニューから選択し、ブレスをカカシに向かって放つ。ボウッと口元に魔法陣が展開されて、そこから煌々と燃え盛る赤い炎の塊が飛んでいった。
着弾したところからカカシが燃え上がり、黒焦げになって倒れていく。思わずガッツポーズまでしちゃって、はじめてのゲーム的な感覚に高揚感さえ覚えた。
使ったカカシはどうするんだろう?と思っていると、床が下に沈んでいき新たなカカシと交換されて地面が戻っていく。
ふーん?つまり、終了宣言をしない限りは練習し放題って感じかな。
どうやら、このゲームでは体内にある臓器から炎を出すような設定ではないらしい。あくまでスキル。あくまで魔法ってことなんだねぇ。
命中率に関してはまあ、オレだしね。動かない的に当てるだけなら大したことないだろうけれど、百発百中でできるだろう。動く敵相手だと、ゲームの中ではどうなるか分からないから、試してからのお楽しみってところだろうか。
「よーし、次はマニュアルでやろう」
マニュアルではスキルないし、魔法を使うことを意識しながら口を開く。
いつものように、喉奥からぐるると内臓の奥底から精製した火炎を吐き出すように……。
ボウッと、先程オートでやったときよりも立派で、長めの時間火炎が吐き出されカカシを燃やす。
「ふーん、同じスキルでもオートよりも練習したマニュアル操作のほうが威力が出るのかな?」
そんなことを呑気に分析していたときだった。
目の前に突然警告色が満載のメッセージが表示されて、驚いて飛びのいた。
――――――
【警告】
熱源を感知しました。
火災の可能性があります。
強制ログアウトの処理が行われます。
迅速な非難をしてください。
――――――
「えっ」
嘘でしょ。近くで分身が待機してるのに火災?オレの分身なんだからオレと同じくらい強いし、そう簡単に誰かにやられることも、襲撃されることだってないのに!? そんな状況で火災になんてなるわけ……。
「あっ」
も し か し て。
オレ、リアルで火ぃ吹いちゃった?
意識が急速に現実に引き戻されていき、目を覚ます。そして恐る恐る顔の上部を覆うヘッドギアをどけると――白い天井には、立派な焦げ目がついていた。
「あ、あー……」
やっぱりね。
「ちょっとーほんたーい! いきなり寝ブレスとかやめてよ〜! いい大竜なんだから、子竜みたいな真似しないでよね〜! 恥ずかしいなぁ、もう!」
やっちゃったなぁと思っていたら、デスクのほうから声がかけられてそちはを向く。そこには不機嫌そうな顔をした同じ顔があった。
「いやー、ごめんごめん。ブレスのチュートリアルやってたらリアルでもやっちゃったみたい!」
「ええー、それ大丈夫? そのギア、ちゃんと体に接続されてる? 人間の身体と構造がちょっと違うし、うまく接続されてないんじゃないの?」
「うえっ、接続不良? それは困るなぁ」
そっか、そこで不具合が出てくるのかぁ。気をつけないとなあ。
「店か会社にクレームでも入れる?」
「いやいや、人間用の機械で人外が接続不良起こしてクレームとか向こうは予想外でしょ! かわいそうだから自分でいじるよ」
「そう? ま、仕事しないで遊んだバチが当たったんじゃなーい? オレの」
「分身が本体に天罰とか落とせるわけないじゃん」
「むかつく〜」
自分同士で軽口を叩きつつ、ヘッドギアをいじくり回して小一時間。ゲームをやるにも一苦労する。だからこそ、ちゃんとゲームできるようになったら達成感もあるだろう。
初めに自分で試して本当によかった。
もう一度ヘッドギアを被りながら、心底そう思った。