ドラゴンさん、クソゲー(暫定)を買う
「お買い上げ、ありがとうごザいま――」
自動レジちゃんの挨拶が、途中で自動ドアの閉まる音にかき消される。
オレはほっくほくの顔で購入したVR機器と、ダウンロード用カードを持って歩く。
購入したのは先月くらいに発売したゲーム、「百鬼神妖オンライン」というやつだ。どうやら先だってオフラインゲームが存在し、そしてアニメ化もしていたようで、そこからオンラインゲームができたというわけだ。
アニメはひと通り視聴してあったので問題なし。まさかこれがオンラインゲームになってるとは思わなかった。CMで見てびっくりしたよ。
アニメのタイトルは『百鬼神妖絵巻』といい、単純な現代ファンタジーもの。
内容は、大まかに言うとあやかしの総大将が人間と共存するべく奮闘するお話である。
仲間を集めたり、人間の困りごとを解決したりしているうちに神格を得て、人間殲滅派のあやかしや怪物達と戦ったり説得したり友情を築いたり……よくある感じのアニメだね。
まあ、オレとしてはかなり親近感があるけども! オレ達も人との共存を目指しているわけだし。だからこれを選んだというのもある。選んだ理由は、もう一つ別にあるけれど。
ゲームを買いに来るまでに軽く事前情報をホログラム端末で調べてみたところ、どうやらこのゲームは現代をベースにしつつも異世界ファンタジー的な要素が取り入れられているみたい。
普通の現代風の街が点々と存在し、その周りに大自然。魔物も出るし、ギルドも存在する。
で、お決まりのように人間の退治屋さんとかは、人じゃない種族に対して偏見があったり、魔物と一緒に退治してこようとしたりするらしい。
現代風の設定以外はほとんど普通のVRゲームと変わらないんじゃないかなぁ。
さて、このゲームで選べる種族は四つだ。
ひとつ、あやかし種。
アニメで主人公がこの種族だった。主に東洋の妖怪などを表す種族だ。
ふたつ、幻想種。
あやかし種が東洋の妖怪などを指すのに対して、幻想種は西洋の怪物や、グリフォンやドラゴンなどの幻獣を表している。
みっつ、人間種。
単純に人間の種族。陰陽師とか霊媒師とか、あとは悪魔祓いみたいな、人外の種族に対して敵対する立場の職業を選択できる。ときに悪い人外を退治したり、ときに人外とすら協力してみせたり、色々とできるみたい。
よっつ、亜人種。
エルフとかドワーフとかがこの辺に所属するらしい。人狼みたいな人と混じってる要素のあるやつは、そのままあやかし種のほうに分類されるため、本当に人間っぽい見た目をしたやつだけがここに入る。
それから、このゲーム固有で『畏れゲージ』というものと、『信仰ゲージ』というものがある。畏れゲージのほうは、基本的に人を怖がらせたり害を与えたりすることで貯まっていき、信仰ゲージのほうは善いこと、尊敬されるようなことをすると溜まっていく。
これを集めていると、種族進化ってものができるようになるらしい。
「オレは『幻想種』一択だよね〜。やっぱりゲームで選べるならリアルと同じ、ドラゴンでいたい……いや、人外の種族を選んでおかないと力加減の練習にならないからね。うん、そうするしかないよね。みんなのためだもんね」
思わず本音が漏れて、慌てて口を塞ぐ。買った機器を入れているマイバッグがガサリと揺れた。
「……」
そろそろ人目を気にしないといけない。いや、そもそもなにを独り言で言ってるんだって話だけど。浮かれちゃって良くないね。自制心、自制心!
「えーっと、誰もいない……かな?」
周囲を確認。うん、人気はないね。よかった。T字路にある街路ミラーを見上げる。
「よーし、帰宅〜」
それから、オレは薔薇色の翼を人型の背中からにょきっと生やし、街路ミラーに向かって一気に飛び込む!
鏡が波打って、狭くて丸いその場所を潜り抜けてやっと――オレ達が住む、鏡界に辿り着けるのだ。
「あ、アルフォード様おかえりなさーい!」
ぐんと、赤い空を背景に風を切る。
眼下には煉瓦造りの豪奢なお屋敷があり、その庭先でカマイタチの女の子がホウキ片手に声を張り上げた。今朝の子だ。
「ただいま〜、今朝言った通りオレ今から休暇だから! キミも休んでて大丈夫だからねー!」
「はーい、ありがとうございます! えーっと、書類はいかがなさいますか?」
「とりあえず部屋に持って来といて〜。分身に働かせるから!」
笑顔でやりとりして、屋敷の窓から自室に転がり込む。
さて、準備を済ませたら始めようか! モデルのアニメやゲームまであるこのVRMMORPG。
世間ではめちゃくちゃ期待されてたって言うのに、たった一ヶ月でクソゲー認定を受けたという残念な伝説……。
その真価を、オレ達のために発揮してもらおうじゃないか!
のんびり進行ですが、最初のほうはなるべく早めに投稿できるよう頑張ります。
テンポは遅めとなってしまいますが、5話目からキャラメイクに入る予定です。
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