ドラゴンさん、初手害悪プレイ宣言
翼が風を掴んで舞い上がる。難なく行うことのできるそれは、ゲーム内の造形がしっかりしていることの証左だろう。
空想科学でこれほどまでの『ドラゴンの翼』を構成することができるとは、人間って本当に真面目でいじらしくて可愛いよね。
自分達で創り上げた物語の中の存在に憧れて、それを再現しようとするだなんてさ。
もしかしたら、あと二百年くらいしたら人工的にオレ達みたいな生き物が造られることもありえるかもしれない。
オレ達は、正確に言えば人の伝承や印象……イメージにが力を持ち、形作られたものだ。造形はいわゆるオカルト的な成り立ちだけれど、人の記憶とイメージ、口伝に依存して『生きて』いるので、生殺与奪の権は常に人の手に握られている。
忘れ去られればオレ達はそもそも存在しなかったことになるのだから。
怯えてはいない。
人の記憶に依存するからこそ、オレ達はいつでも人間社会に入り込み、そして噂を流すのだ。
人間に紛れて暮らすのに慣れた古い者達などは、ゲーム会社に入り込んだり、書籍を作ったり、まあ自分達のイメージが後世まで伝わり続けるように仕込みを行なっている。
空想の物語が存在しないと生きられないオレ達にとって、それが長生きする秘訣だからだ。
これを馬鹿にする前時代的なあやかしも存在するが、今に泣きを見ることになるだろうと思っている。いつだって人間の文化に順応したほうが『種』は繁栄するのだ。家畜になった牛や馬のように。そして、愛玩される犬や猫のように。
「うーーん、街は遠いなぁ……今のままじゃあ、オレ袋叩きにされちゃいそうだし……レベル上げしてから行くかぁ」
上空で無駄に額に手を当てたりなんだりして、遠くを見渡すように前屈みになる。常に翼を動かしながらも、考えるのはやめない。
しまいには空中であぐらをかいて考え中のポーズ。
「種族進化に全部つぎこんじゃったからステータスは最低値なんだよねぇ」
種族単位でステータスのここが高い、ここが低いという違いはある。初期にもらえるポイントをひとつも振らなければレベル1のステータスは合計1000になるようになっているのだ。
本来なら、プレイヤーはこの合計1000に上乗せするように初期ポイントをさらに1000振ることとなる。
種族進化値に多少振る人もいるだろうけど、これを全く振らずに全部ステータスにバランスよく入れたなら、ステータス合計値は全部で2000。
つまり、単純に考えて種族進化値全振りのオレと、ステータスに全部振ったプレイヤーとではステータスに1000も差が出ることとなる。
通常ならオレのほうが圧倒的に不利だし、そういうプレイヤーが街にはうじゃうじゃいるだろう。
一方的に殺されるというのは、プライド的にもやっぱり嫌だし……ここはちまちまレベルを上げて周りとの差を埋めてから活動を開始するのが無難だ。
反撃できないまま一方的に攻撃されるっていうシチュエーションは、誰しもが嫌いなものだと思う。
「っし、そうと決まったら魔物狩りしよーっと」
幸い、初期武器は弓で、矢も攻撃力は最低値だが無限だ。ブレス吐いたりちくちく刺して上空から一方的に攻撃すれば、簡単にレベルは上がるだろう。
「自分が嫌なことは、自ら進んでやりましょうってね」
……言葉の意味合いは真逆もいいところだけれど!
ツッコミ役なんてこの場にはいないので、遠慮なく好き勝手やることにするのである。
本日の天気予報。晴れ、ときどき矢と炎の雨……なんてね。




