ドラゴンさん、思い立つ
吾輩はレッドドラゴンである。名はアルフォード。
そこそこ人間が好きで、森の奥深くよりも表に出ていきたいという願望と、まあ人間って愚かだけど、そんなところが可愛くて推せるよねっという思想を持っている竜種だ。
故に、オレは人間をより観察して愛でながら生きるため、人間との共存を謳って、人化できる仲間を集めている。
そんなオレには、長年悩み続けていることがあった。
たとえば、人間社会ではある種の暗黙の了解や、知っていて当然の知識というものがあるだろう。
そしてその手の知識というやつは、生まれてから徐々に刷り込まれて学ぶことで、当たり前のことを知っている人間が育つわけだ。
でもこれを、成熟した精神性のものに教え込むとなると、途端に難易度が跳ね上がる。既に凝り固まった先入観、価値観があればなおのこと。
オレ達が人間社会に溶け込み、観察したり愛でながら過ごすためにはこの『人間の常識』や『人間に対する手加減』ってやつが必要不可欠なのである。
この『常識』と『手加減』を身につける方法。
これが長年悩み続けていることだ。
致命的に学習できない子でも、まあ言語くらいなら数年でどうにかなる。けど常識と手加減はね……実践し辛いから、余計に身につくのが遅い。
一応、オレ達なら時間をかけてゆっくりと使いこなせるようにはなれるんだけど、どうにか手っ取り早く――。
「アルフォード様大変です!!」
ドアがバンッ! と開く音と共に目の前をつむじ風が通過し、テーブルの上に積んであった書類のタワーが三つほど倒壊した。バラバラと散っていく書類は処理済みの物と、未処理の物が混じっている。
軽い絶望感に一瞬唖然としてしまったが、とりあえず書類のことは考えないようにして、来客に対応した。
「カマイタチちゃんどうしたのー? またなにかあった?」
「は、はい、それが……面接を受けに行った青と赤のケルベロス様が、面接を受けるまでもなく突き返されてしまったとのことで……」
オレは頭を抱えた。
嫌な予感がする。
「ちなみに、突き返される前になにかしなかった?」
「なんでも、人間の間では『かしこまった場で帽子を脱ぐ物なので、面接官の被っていたカツラをはたき落とした』と……」
そりゃ落ちるわ!!
「あとで記憶処理班を向かわせとかないと……」
「書類、置いておきますね!」
「うん、アリガト……下がっていいよ」
書類タワーのてっぺんに一枚、紙が増える。
そう、こんな感じでタワーはできあがっていくのだ。
やれ西で怪異騒ぎがあったと鎮静に向かわせれば廃墟一個を倒壊させ、喧嘩している怪異達がいれば仲裁に向かわせた者を含めて地形を変える。人間製品の備品を握り潰して壊す。買い出しに向かわせれば人間の家畜を神隠しに合わせて食料だとのたまう。
せっかく隠れて人間との共存を目指しているのに、これでは遅々として計画は進まない。
なにより、常識くらい数百年か千年くらい人間観察をして過ごしていれば最低限は身につくものである。
だけれど……。
「最近の若者はせっかちすぎるんだよ!!!」
思わず叫んだ。
最近の若者は、すぐ人間に紛れて暮らしてみたいとか書類申請を出して来やがるのだ。無理だっつってんだろ!!!
「どうしよっかなぁ……」
人間の基準や常識、力加減を覚えてもらいたいと言っても、実践に勝る経験はないし、かと言って世間にお出しできるようなお行儀の良い妖怪や神格の者も数少ない。
根本的に効率が悪すぎるのだ。
「ちょっと休憩しようかな」
人間、それを諦めと言う。
オレは人間界のほうから引っ張って来た電気とテレビで適当に番組を見始めた。そして、そのときに見た番組により「こ、これだ!?」と思わず叫ぶ。
テレビでは、最新機器によるVRゲームと、そのオンラインゲームについての特集がやっていたのである。
幸い人間の姿を真似ることができる程度の力は皆、待ち合わせている。だから後は力加減と、人間界の常識をなんとかすればとりあえずは大丈夫のはずだ。
このフルダイブゲームというやつなら、現実のものを壊したり損害を出さずに力加減の練習ができるかもしれない!!
オレは歓喜した。
それでそのまま部屋を飛び出した。
「あ、アルフォード様!? いずこへ!?」
「休暇をもらうね!! そんで人間界行ってくる!!」
ゲームを買わねば! その一心で、オレは薔薇色の翼を広げて大空に旅立つ。人間界の紙幣をいくつか持ちながら……。
数年は休み取ってないし……久しぶりに休暇を取って先にオレだけで目一杯遊んじゃえ! 多分許されるだろ! だってオレ、トップだし!
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