42)奏寿句
──みすぼらしいアパートの庭にも春の兆しが訪う。綻び始めた蕾が風にたなびき翻弄される姿に優しい気持ちがわいて来るのだった。
優洶くは草宿逼る花めきに
蕾綻び娑清早春
【そうじゅく】
あどけない
しぐさかわいく
いとけなく
いたいけなさま
はかなげに
こぼしたしずく
いとしくちつけ
ゆうわくは
そうじゅくせまる
はなめきに
つぼみほころび
しゃせいそうしゅん
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なみだあめぬらしほころびつぼみきす
涙雨 濡らし綻び 蕾期す
はつはなのねだりくきたちはるひらき
初花の 根足り茎立ち 春開き
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婀瞳危娜色
始逑唆交猥媾
衣解け糯軀
慰觝快舐擦摩
恥感鳴囈に
固勃侵淡芯擂組
淫蕩雌狗痴点け
誘惑は早熟迫る肌滑生に
通慕深欲呼弄媚煮盛愡旬
【嗾事愉倶】
よがりなくそうじゅくにはなつつきいり
宵雁鳴く草宿に花津月入り
──春の訪れた草宿の夜。月の入りを過ぎた夜空に雁が鳴いて飛んでゆくのが見えた。
〔洶く わ-く〕波などがわきたつ様子、水音が騒がしい様子。水がわき出る。
〔逼る せま-る〕時間的空間的にへだたりがせばまる、近づく、接近する。勢いよく近づいてくる、押し寄せる。押し付けるようにして相手に求める。
〔娑 サ・シャ〕舞うさま、衣の袖をゆらゆらとなびかせ踊る様子。梵語の音訳にもちいる宛字。
〔嗾 ソウ〕声などを掛けて勢いづかせて相手に向かわせる。おだてたりそそのかしたりして自分につごうのよいように行動させる。
〔愉 ユ〕たのしい、たのしむ。よろこぶ。
〔倶 ク〕つれだつ、ともにする、そろって。
〔婀 ア〕たおやか、しなやか。
〔瞳 ドウ〕ひとみ。目の黒い部分、虹彩と瞳孔
〔娜 ナ〕しなやか、たおやか。
〔逑 グ〕あう、あつまる。つれあい、配偶者
〔糯 ナ〕餅、もち米。
〔軀 ク〕からだ、身体、(「躯」の旧字)。
〔觝 タイ〕ふれる、さわる、ぶつかる。
〔囈 ゲ〕うわごと、たわごと、とりとめの無い言葉。
〔勃 ボツ〕起こる、急に起こる、にわかに。いきおいが盛んな様子。
〔丹 タン〕硫化水銀鉱、辰砂の色。赤色
〔芯 シン〕ものの中心。本質、本性。
〔擂る す-る〕(すりこ木棒などで)する、すりくだく、すりつぶす。(棒などで)うつ、たたく。
【淫蕩 イントウ】酒色などの享楽にふける。
〔狗 ク〕いぬ「犬」「戌」、やまいぬ。イヌ科の動物。
〔滑らか なめ-らか〕つるつるしている状態や様子。物事がとどこおりなく動いたり進行する事。
〔慕 ボ〕なつかしく思う。思いを寄せる、したう、恋しくおもう。
〔弄 ロウ〕なぐさみにする。ほしいままにする。もてあそぶ。
〔媚 ビ〕なまめかしい様子。へつらいこびる事や様子。
〔愡 ソウ〕せわしい様子、あわただしい様子。おろか、無知な様子。恋する、好きになる。
〔旬 シュン〕魚貝や野菜果実などの最も味がよい時期。充実して盛んな時期。季節のめぐり。
【花津月 はなつづき、はなつつき】陰暦三月の異称。




