おとうと
僕はずっと好きだった
母さんや父さん
おばあちゃんやおじいちゃんから
お話を聞くこと。
夜、寝る前に、ときどきお話をしてくれるんだよ
母さんはね、
お花の話をしてくれた
父さんは
道具や機械の使い方を
おばあちゃんは
家のお手伝いの仕方と
食べ物のおいしいつまみ食いの方法、とか
おじいちゃんはたくさんの話を知ってた
鳥や草から野菜色々のお話
みんなの話を聞くのは大好きだけど
おじいちゃんの話を聞くのがいちばん好きだったんだ
だって…冒険したような気持ちになるんだもん!
おじいちゃんの膝に座って
少し寄りかかりながら聞いていたんだ
僕はもっともっと話を聞きたくて
一つの話が終わるたび
おじいちゃんに話をせがんだ
あるとき…話を聞いたあと
おじいちゃんに
どこでそんなに話を聞いたの?
って聞いた
おじいちゃんは
自分の父さんや母さんから聞いたんだと言ってた
でも…
僕の家は忙しいんだ
まいにちまいにち田んぼや畑に行って
水をあげたり栄養をいれたり…
「まだあなたは小さいから近くで遊んでなさい」
って母さんにずいぶん前に言われたから
まだ座れない弟を背中にしょって
いつもと同じように今日もお散歩へ。
夜はきっとみんなすぐに寝なくちゃいけないんだ
この時期の朝は、早いからね…
拾った木の棒は杖代わり。
ときどき泣く弟をあやしながら
落ち葉は頑張る僕への勲章かな?
あーあ…もっと話、聞きたいなぁ。
だけどね、みんなが話してくれることは
もうほとんど…聞いちゃったこと、なんだよね
棒でとんとん地面を叩きながら
とことことゆっくり歩いていると
ある家の前で座っている子を見つけた
何か四角いもの、見ていたんだ
お母さんと一緒に笑いながら見ていたんだよ
何を見てるんだろう?
そして近くに行くとお寺があって
家族みんなにいいことがありますようにって
いっつもお願いするんだ
今日もお寺でお願いしたあと
ふと顔を上げたら
おしょうさんが近くに居て
僕は頭をぺこんと下げた
おしょうさんは僕に
「お母さんたちは畑にいるのかい?」
と聞いてくれた
僕はうん、と頷いた
そしたらね、おしょうさんが
「中に入っておいで」
って言ってくれたんだ
入ると木のいい香りがした
優しい、そして大きな香り
僕を畳に座らせてくれて
弟を背中から下ろした
あれ?ここ気持ちがいいのかな。弟寝てる…
少し経っておしょうさんが
「君は話を聞くのは好きかい?」
ってたずねた
僕は目を丸くした
「はい、大好きです!
いつもお父さんやお母さん、
おばあちゃんやおじいちゃんに
たくさん話をしてもらってます」
と言った
そして僕は話した
おじいちゃんから聞いた、不思議なお話を、幾つか。
「面白いお話だね。
君は本を読んだことあるかい?
僕の話を聞いたあとおしょうさんは聞いた
「本…?」
一つ、おしょうさんは持ってきてくれた
開いて見ると
黒いのがたくさん書いてあるけど…
ん?何だろうこれ。
おしょうさんは言った
「君、本を見たことがないんだね。そっか。」
おしょうさんは黒いものをひとつ指さした
「これは字というんだ」
「じ?」
「君がこれを知るとね、
もっとたくさんの話を知ることができるようになるんだよ」
「もっといろいろ知ること、出来るの?」
「うん。じゃあこの子は?」
和尚さんは寝ている弟を指さした
「え…?僕の弟。」
「弟の『お』はね、こうやって書くんだよ。『と』はこう。」
おしょうさんは紙に書いてくれた
四つの字が紙に書かれた。
「お、と、う、と?」
「うん。」
すごいな。そうしたらおしょうさんが
「少しずつ覚えてみよっか」
って言ってくれた
早く覚えちゃおう。
そしてもっともっと話を知りたいな
本っていうものをもっと読んでみたい
弟にもちょっとずつ教えてあげようっと
じっと弟を見ると
弟は目を覚ました
僕はにっこり笑った
これから、たくさん覚えるからね!!
2008年9月に作り上げた作品。
高校の文化祭のときに発表した作品です。
どこかに保存しておきたくて今回記載。