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ポグポグ

作者: N(えぬ)

 植物学者のK博士は南の奥地へ珍しい植物の採集旅行に出かけ帰国した。

 そのときに手に入れた最大の成果が今、研究所の温室にある。それは1メートルほど伸びたとても太い茎に大きな壺のような袋のような部分が付いていて、その上にピッタリの蓋のような部分がある。水を入れるピッチャーを想像すればわかりやすいかも知れない。

 K博士は助手と一緒にその植物を見ながらほくそ笑んでいた。

「こんな珍しい植物が今まで学者に見つからずにあったことが不思議だ。これほど大きくて特異な形なのにな」

 博士はその植物をいろいろな角度から見入っていた。

「現地では『人を喰う』と言われているという話でしたね」

 助手は植物にあまり近づきたくない様子だった。

「ハハハ。そんなのは大体が作り話だよ。確かにこの袋状の器官は人が入れるほど大きいが、誰も好き好んでこの中に入るとは思えないからな。私の推測では、中に溜まった蜜のような液体に小動物などが飛び込んで、そのときに蓋の部分が閉じてしまう、食虫植物の一種だろう。まあ、確かにこれほど大きいのはなにか恐ろしい感じはするけれどな」

「現地での呼び名は、発音は「ポグポグ」と言って、上手く訳せないと言う話でしたが、「次々と」とか「立て続けに」とかそう言う意味らしいですね。次々、中に入ってしまうんでしょうか?先生」

 怖がっていた助手は話ながら自分でまた怖がって一歩下がった。それを見て博士は高らかに笑った。

「ハハ。さしずめ「立て続けにポグポグ入る」ってところかな。いやあ、これに獲物がそんなに立て続けに入るとは、考えられないが。人間というのは恐れると誇張して話す傾向があるから、その類いだろうさ」

「そうでしょうか……」

「しっかりしたまえ。キミも私の助手。学者の端くれだろう」

「は、はい」



 このポグポグという植物、K博士がメディアに売り込んで取材を受けたりしたので、知っている人は知っている有名な珍植物になっていた。そう言うものは、どこかに必ず「欲しい」と考える人間がいるもので、売って欲しいという引き合いもすぐにあったが、博士は「研究してから」と売るのは断った。


 ある夜のこと。K博士の研究所に泥棒が入った。その男はポグポグ目当ての泥棒だった。

 けれど、博士が笑い飛ばしていたとおり、泥棒も本当にこの植物が人を食うなどとは思っていない。軽く頂いて誰かに高く売りつける魂胆だった。

 泥棒は博士の温室に入ると、懐中電灯片手にポグポグを探し始めた。温室内はいろいろな植物の匂いがしたが、中に、こころ誘われるいい匂いがあった。泥棒はなんとなくその匂いの方へ行くと、そこにポグポグがあった。

「これだな。この植物はこんな恐ろしげな見た目だがいい香りがするのか。おもしろい」

 泥棒は声を細めて独り言を言い。ポグポグの大きな袋の中を懐中電灯で照らして見た。すると袋状の底に何か黄金色に光る粒状のものがある。

「これはなんだ?見たところ金の様だが……」

 泥棒はなんだか頭が少し朦朧とした気がしたけれど、気を取り直してその金のようなものに手を伸ばした。彼の上半身が袋の中に少しかがみ込むように入ったときポグポグの袋の蓋が素早く泥棒の背中を押すように閉じた。

「う、うわぁ」

 泥棒は叫んでもがいたけれど、袋の外に出られない。ポグポグの袋の内側や蓋の裏側には内向きに弾力のある針のような毛が無数に生えていて、泥棒が体を動かすと、逆に反動がついて袋の中へ中へと入って行ってしまうのだった。

「ああ、ああー!」

 泥棒は敢え無く右の靴を片方、床に残して袋の中に完全に落ち込み、蓋と袋との毛が両手の指をしっかりと組み合わせたように閉じて、袋の中には急速に液体が染み出して満たされていった。


 翌日の朝、K博士は温室の扉が破られているのを見た。

「たいへんだ!」

 博士は慌ててポグポグのところへやって来ると、そこに靴が片方落ちていた。そして、ポグポグの袋の底に懐中電灯と白い骨のようなものが沈んでいるのを見た。

「これは、夜の内に誰かが温室に侵入してそしてこの袋の中に落ちたのか?!本当にこの植物は人を捕らえてしまうのか?とにかく、この袋の底に溜まったものを研究成果として取っておかなければ」

 博士は急いで研究室に行き、手袋をし採集瓶やカメラなどを持ってポグポグのところへ戻った。

「本当にこんなことが起きるとは、世界を揺るがす大発見だ!……それにしても、きょうはやたらと甘いいい香りがするな」

 そう言いながら博士が採集瓶を持った手をポグポグの袋の底へ伸ばした瞬間……。


 どうもこのポグポグの甘い香りを吸い込むと「自分の欲しいもの」が袋の底にあるように見えるらしい。

 博士が最後に見たのは、成果か名声か。





タイトル「ポグポグ」

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