星史郎さんと黄色い鳥
拓と一緒に本山へ挨拶に行った。
もっと仰々しいものかと思って身構えていたが、出迎えた主は三十代の青年で、和装が似合う穏やかな人だった。
「あのう、私、絶対無理です」
「?」
「神通力もほとんどないし、ただ目的もなく彷徨っていて…」
あ、いかん。涙がポロポロこぼれる。
「す、すびばせん」
袖で涙拭う。でも止まらない。
主は懐から手ぬぐいを出して手渡してくれた。
「君に必要なものをあげよう」
「?」
「ついてきたまえ」
私のすぐ後ろに控えていた拓が「俺は?」と聞いた。
「待ってて」
「わかった」
私は手ぬぐいで涙を拭うと、すっくと立ち上がって主の後についていった。
「私は「星史郎」君は?」
「私には名乗る名前がありません」
「では君に名前もあげよう」
「えっ」
私は真っ赤になった。星史郎さんはとても優しくて、とても好きになってしまった。
「そうだなぁ「星花」星の花」
「ありがとうございます」
奥の間の障子を開けると、いろんな高さに鳥かごがかけてあって、今まで静かだったのが一斉にさえずり始めた。
「この子を授けよう」
かごの中に星史郎さんが手を入れると、可愛らしい黄色い鳥がちょんととまった。
「餌はあげなくても自分で調達できるが、君の手から何かもらったら嬉しがると思うよ」
「えー?え?わあ」
黄色い鳥は人懐っこく私に寄ってきた。
「いろんな役に立つと思う。君の式だ」
「式」
「君の死に一回だけ肩代わりする役目もある」
「えっ」
「大事にしたまえ」
「あっ、ありがとうございます」
そんなこと、絶対させない!私が心に誓ったら、星史郎さんは見透かしたように、「何か守るものがある、というのは大事なことだよ」と言った。
戻ると、拓が不機嫌だった。
「あの男の人…」
「星史郎さん?」
「なんか、嫌だ」
「なんで?」
「なんとなく」
困った。
黄色い鳥が私から拓に飛び移った。
「なにこれ?」
「私の式」
「もらったの?」
「うん。それと、名前も」
「名前も?なんて?」
「星花」
「よかったじゃん」
よかった。拓が笑った。拓には私のお守りの役目があって、今までもすごい迷惑をかけているけれど、これからも迷惑、かけることになるだろう。拓は過去に罪があり、それを清算するために私のお付きになっている。笑ってくれると、私もホッとするのだ。
「夕餉の仕度ができたら呼ぶから、それまでそこにいなさい」
「私、手伝いましょうか?」
「君は今、客だからしなくていいよ。ゆっくりしておいで」
私達は久しぶりに心休まる場所にいた。